シンデレラー下

 それからシンデレラは、つぶを使って色んな研究を始めました。

 木のボウルを陶器製に変えてみたり、家の外観をオシャレにかざり付けてみたり、リスをかっこいい鹿に変えてみたりしました。

 一度、病気をしたくまを治そうと粒をきましたが、体調は回復しませんでした。


 そんな研究の日々を送っていたシンデレラはある日、一匹のリスにこう念じました。


「お継母かあ様へと変わりなさい」


 しかしリスはただ振りかけられた粒を、体をふるって払うのみでした。

 次にシンデレラは義姉あねに変われと念じましたが、姿すがたはリスのままです。さらに、王子様に変われと念じましたが、結果は同じでした。


 リスを小窓から逃がした後、シンデレラは徒労感におそわれ、それから粒のおかげで肥沃ひよくになった畑の野菜で、夕食をりながら思いました。


「きっと、私の力が足りないのだわ」

 それからシンデレラはひたすら粒の運用方法を開拓しました。


 馬のたてがみから取れるつぶは少なくなり、ついに馬から魔法の粒は取れなくなりました。


 粒はたきぎけばひとりでに家まで歩き、燃えろと撒けば一体に炎が立ち込めました。鳥めがけて撒けば粒は空を舞って鳥を打ち落としましたし、川岸に撒けば家の近くに川が流れました。


 けれども、会いたいとねがった継母や二人の義姉あね、王子様にはどうしたって会えませんでした。



 やがてシンデレラは一つの方法に至ります。


 シンデレラは空色のドレスを身に着け、そして手近な木に粒をいてつえを作ると、そこへ残り少ない粒を袋に詰め、いきおいよく振り上げつつ念じました。



「私をあの時に連れていきなさい」



 ☆  ☆


 パッとシンデレラがあらわれたのは、みすぼらしい森の中の小屋。そして彼女の眼の前には、体中をはいまみれにした女性が口をあんぐりと開けていました。


「あなたはだぁれ?」

 女性は理解しがたい光景を目に、そう問いかけました。

 シンデレラは少しだけ微笑むとやさしく答えました。


「私は魔法使いよ」



 12時を過ぎたころ、シンデレラは残り少ない粒を自分にいて念じます。

「お城へ連れて行って」


 遠い国のお城には、すでに多くの賓客ひんきゃくが帰りの馬車を手配していました。

 シンデレラは客に紛れて城内を進み、ついにダンスホールにいた王子様を見つけました。彼は余程疲れているのか、せきをゴホゴホとしています。


「こんにちは王子様」

 王子様は最初こそいぶかし気に反応しましたが、その容貌にかれ、すぐに打ち解けました。


「ここに私と同じドレスを着た女性が来ませんでしたか?」

「あぁ。彼女は参加者の誰よりも美しかった。ぜひきさきにしたいけれど、彼女がどこの誰かを知る前に、かねが鳴ると同時に帰ってしまったからなぁ」

 それだけ聞くとシンデレラは満足し、ホールを後にしました。


 大階段を下りながら話し合う継母はは義姉あねたちを見つけると、シンデレラはコツコツと音を鳴らして駆け足で向かいます。


「おや、シンデレラじゃないか? 私は今夜までに家事を終わらせるよう頼んだはずだが、どこに隠してたのかドレスを引っ張りだしては家事をほっぽりだして……何、どうしたのさ……急にき出して、変な子だね」


 継母と義姉たちに気味悪がられながらも、シンデレラはなつかかしい声に幸福を覚えました。そして継母たちへなみだながらに言いました。


「家に帰ったらシンデレラが待っているわ。普段は言えないだろうけど、一回だけでいいから『ありがとう』と、あの子に言ってあげて」


 首をかしげる継母たちの顔を目に焼き付けて、シンデレラは城を後にします。

 それから彼女は残り少ないつぶを全て使い、お城を見ながら念じました。


「元の時代に戻して!」


 ☆  ☆


 それからシンデレラは元の時代に戻ると、それからは一回もつぶを使いませんでした。いえ、使えなかったのです。


 魔法使いが残してくれた粒は全て使いきってしまいました。

 つながれた馬は今や在りし日の屈強さを見る影もなく、ただ畑の人参を大人しく食べています。糸がほつれたドレスは、衣装棚にしまったままです。


 シンデレラはその後、誰にも会うことなく、ただ一人幸せにねむりました。


                                  〈了〉




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シンデレラ 私誰 待文 @Tsugomori3-0

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