私と愉快な仲間たち
九十九
私と愉快な仲間たち
私の創作仲間たちは一風変わっている。
彼等は皆それぞれの事情があり、姿かたちも違うが、唯一つ共通する事は人間ではないと言う点だ。
私は世間的に見れば未だ芽の出ぬ作家だ。創作仲間である一風変わった友人達と、たまに訪れてくれる人達だけが私の読者である。
読者の数は少ないし、稼ぎには到底繋がらない日々だが、仲間であり第一の読者である友人たちがいるからそれなりに充実した芽の出ぬ作家人生を送っている。
私は、いつの日か芽を出すことが目下の目標の、仲間たちの特異性を除けばどこにでもいる小さな作家である。
私はよく仲間の話を聞きながら執筆を行う。そんな仲間たちから聞いた話を小説に使わせてもらうこともしばしばだ。勿論、使用の許可は取ってあるし、第一の読者である彼等に一番に見て貰ってもいる。
仲間たちは皆、私とは違った出で立ちだからか、まるで違った価値観の話をしてくれる。空間との隙間で犬に追われたとか、水の中での流行りは藻で編んだ髪飾りだとか、土の中を歩いていたら人骨に当たったとか。
彼等にとっては何気ない日常でも、私にとってそれらは新鮮であった。同様に仲間たちも互いの話が新鮮であり、私の日がな一日家にいる生活でも面白がって聞いてくれる。
例え姿かたちが異なっていようとも、気の良い仲間と過ごす創作の時間は、心穏やかな時間である。
「詰まった。違うの書きたいから誰か助けて」
パソコンに打ち込んでいた手を止めて、私は仲間たちに振り返りながら手を上げた。
割とよくある光景に、皆がまたかと苦笑しながら、その内の数種が手を止めた。手を止めた彼等もまた、詰まったのだろう。苦笑しながらも休憩用の飲み物やら食べ物をそれぞれに用意している。
仲間たちの苦笑を承諾と受け取った私は、書き上げ途中の作品を保存して閉じてから、新しく執筆ソフトを立ち上げた。
そうしてもう一度振り向いた時に、ふと気づいた。
仲間たちの一種、植物を纏ったような見目のおとなしい友人が、ずっと俯いたままどこか暗い表情をしているのを。
「どうしたの?」
椅子から友人の元へと移動し、顔を覗き込んでも、彼は困った顔で首を振るばかりだった。
他の仲間たちを見渡しても、皆首を振るばかりで理由は知らないらしかった。首を振った後、何種かは創作を再開し、何人かは私に断りを入れると、早速、先程保存した小説を見るためにパソコンの元に読者として向かった。
私は暫く考えると、俯いたままの友人の手を取り、常設している物の一つの市販の植物の栄養剤を友人に渡した。
「話したくなったら教えて」
栄養剤は友人の好物なので、これで元気が出たら良いなと言う思いから渡したのだが、何故か友人はほろほろと泣きだした。
私は慌てて仲間たちを見る。いつのまにか皆、私の作品の読者になっていた。つまり逃げたのだ。気を遣って少し離れた位置にあるパソコンの元へと移動したものも居るのだろうが、半分は見た瞬間に多種多様の愛想笑いを浮かべたので逃げたのだと分かる。
読者じゃなく仲間になってくれと視線を投げかけても、誰も戻って来る気配を見せなかった。その癖、耳はそばだてているようだった。
私は胡乱気に私のフォルダーを漁り始めた仲間たちを見ながら、傍らの友人の背を撫でた。
「話したくなかったら良いんだよ。栄養剤、嫌だった?」
背を擦りながら問うと、植物を纏わせた友人は首を横に振った。身体が植物状だからか、泣いた時の水分量が凄い。泣いて出した端から足元で吸っているので浸水の心配はないが、友人が顔だけ干からびるのではないかと心配になる。
暫く背を擦っていると、友人が何かを決したようだった。友人は栄養剤を一気飲みすると、私を見据えた。
「えっ、食べたの? 人間を?」
驚いて友人を見ると、彼の身体がびくりと震えた。責めるわけでは無かったので、その背を優しく撫でる。
パソコンの方へ身を寄せ合っていた何種かも驚いた様子でこちらを見ていた。こちらを見るなら一緒に話を聞いてあげて欲しいと思ったが、人間を平気で食べるものも居るので、話がこんがらがる可能性もあると考え、思いを打ち払った。
「食肉用とか、似たようなものでは無くて?」
私は念のため友人にもう一度確認を取った。心を痛めているらしい彼には酷な質問だが、実際、多種多様な彼等の中ではそう言った「人間種」が存在するので、彼が何を食べたのかの確認のためだ。
植物を纏った友人は、項垂れるように「人間」を食べたのだと言って泣いた。その言葉に仲間たちがさらに驚く。
それもそのはずで、実際人間を食べると言う種はこの中に居ないでもないのだが、少なくとも今傍らで泣いている彼はそのタイプでは無い。何かの間違いで「人間種」ならともかくとして「人間」を食べるとは到底思えなかったのだ。
土と水と栄養剤とが主食である彼は、性格で言っても、顔馴染んだ相手と同じ形をしたものを食べられるような性格はしていなかった。
「この話、小説にしても良い?」
詳しい話も聞かずに、脈絡なく切り出す私に、友人は驚いた様子で私を見た。驚きで彼の涙が引っ込んだので私は少し安心した。
特別な話にするよりも、普段の話にした方が彼も心が軽くなるだろうと思っての事だったのだが、仲間たちは呆れ半分と言った表情でこちらを見ていた。
だが、友人はそれで少しだけ気が楽になったのか、承諾した後でぽつりぽつりと話し始めた。
曰く、口にした当初は人間だとは思わなかったらしい。育葉になると知り合いから渡されたものの中に混ざっていたそれは黒焦げで、形も歪だったから、まさか己の友人と同じものだとは思わずに体内へと収めた。
そうしている間に彼の知り合いは、隣で人間をぱくりと摘まんだ。忌避感を伴って知人を見ていた彼に、今さっき美味しそうに食べていただろうと指差されたのは渡された育葉になると渡されたもので、そこで初めて人間を食べたのだと知ったと言う。
「育葉って、人間で言う育毛みたいなこと? え、禿に悩んでた?」
友人の思わぬ悩みに、私は撫でていた手を一度止めた。ふさふさ、と言うと擬音が違うかも知れないが、禿げているようには見えない身体に私は首を傾げる。
すると友人は慌てて首を振った。どうやら育毛と言うより、コンディショナーのような役割らしい。元から有るものの状態を良くするとか大きくする時に使う意味合いのようだった。
「よし、じゃあそれで小説書こう。後、知人からでも物を貰う時は確認しよう」
友人が禿に悩んでいるわけでは無いと知り、私は友人の手を取って立ち上がり、仲間たちの集うパソコンへと向かった。ついでに、注意も促しておく。
仲間たちと他の誰かとの関わりを阻害する気はないし、口を出すつもりもあんまり無いのだが、確認も無く相手の苦手な物を渡してしまう相手となると後々に齟齬が出て来るだろうから一応だ。
途中、恐々と責めないのかと聞く友人に笑って返す。
「私たちだって何かを食べて、生きてるものを食べて生きてるから」
もし責めるのだとしたらきっと本人か、それに近しい者達だ、と告げると友人は安心した顔をした。責められる事より恐れられる事を気にしていたのだろうな、と何となく当たりを付けながら、逃げて行った仲間たちを見やった。
多分、人間だと思わなかったと言うのも半分は本当で、半分は嘘だ。だが、私にとってはそれはどちらでも良い。私にとっての優先順位は友にして仲間して読者の彼なのだから。
パソコンへと着くと、数種が目を逸らしていたので、次のネタ出しの協力に約束を漕ぎつけてから、先程立ち上げたソフトを広げた。
そうして執筆し終えた小説は、葉には神が宿るからと葉を枯らさないように己だけではなく他人にも人間を混ぜた肥料を渡す人間の話になった。
創作の仲間たちであり第一の読者たちでには中々に好評だったので、植物を身体に纏わせた友人は、少しだけ肩の荷が下りたようだった。
後に投稿すると、少ない読者の中からも多種多様な有り難い感想を貰えたので、私は一人笑った。
何をどう受け止めるかは読者の自由である。それが、どんな話や経験から生まれたのか、画面の向こうの読者は知らない。例えそれが、どこかの誰かの本当の犠牲の話でも彼等は知らないのだ。
真実を知っているのは私の大事な仲間たちだけである。
私と愉快な仲間たち 九十九 @chimaira
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