凄腕義賊は抜け出したい

葉山さん

第1話

 「くそおおおぉぉおおおおおおお――‼」


 俺は、愚痴たっぷりの大声を広い廊下に響かせながらひた走っていた。

 せっかく城内に侵入できたというのに、まさか見つかってしまうなんて。

 というか、よくもガセネタをつかませてくれたな情報屋!


 「おい!あっちに逃げたぞ!」


 やばいやばいやばい。捕まったら間違いなく処刑だ!

 俺は城の階段を駆け上る。

 息を切らせながら、長い階段を上る。


 「どうにかして奴を止めろ!王女様の部屋に行かせるな‼」


 この先は王女の部屋か。

 確かどの部屋にもバルコニーがあったはず。

 風魔法で飛び降りて逃げるか。

 階段の終着点に辿り着いた俺は、近くの重厚感漂う大扉を開け、部屋に侵入した。

 薄暗い部屋の中、小さなランプの光が金髪の少女を照らし出した。

 白いドレスを着たこの国の第一王女。噂通りの容姿端麗さだ。

 彼女は俺を見て驚いている。当たり前の反応だろう。

 女性の部屋に勝手に侵入したのは悪いと思うが、自分勝手ながら許してほしい。

 俺は王女から視線を外すとそのままバルコニーを目指し、彼女の横を通り過ぎようとするが、その行く手を阻まれる。


 「ちょっと待って‼」


 腕を掴まれる。

 今は追われている身。この状況はまずい。

 この手を振り払おうとするが。


 「放してくれ!今忙しいんだ!」


 「男の人……」


 王女は何か口ごもると、強い意志を持った視線を俺に向けてきた。


 「いえ、あなたにお願いがあります。――私も連れて行ってください!」


 「はぁ!?」


 王女がいきなりとんでもないお願い事をしてくる。

 連れて行ってくれ?王女は間違いなく俺の正体に気づいているだろう。指名手配されてしまうほど俺も有名になってしまったのだから。

 そんな俺に連れだしてくれというお願い。本気なのか。


 「もう今の生活に飽き飽きしてるんです。お願いです。私も連れて行ってください!」

 

 王女からは強い意志をひしひしと感じる。

 だが、そんな要求を簡単に呑み込めるわけがないだろう。

 それにこのまま悠長にはしてられない。 

 

 「何を馬鹿な事言ってるんだ。王女様は窓際でおとなしく紅茶でも啜ってろ。俺は忙しいんだ。このままじゃ捕まるってっ!」


 「嫌です!連れて行ってください!」


 語調を強めに言い放っても全然引く気配がない。

 むしろ強い信念が感じられ、階下から聞こえてくる衛兵たちの声から逃すまいと、抱き着いてくる。

 俺は思わず身を固める。

 お腹のあたりに柔らかい物が当たっているのだが!?

 何でこんなに強く抱きしめるの!?

 馬鹿なの?天然なの?放してほしいのだが!


 「ちょ!抱き着かないで……!」


 そうこうしている間にも、無数の足音は近づいてきている。

 と、王女様がにやりとした。


 「いいのですか?このままでは、衛兵に捕まってしまいますよ?」


 こ、このっ!


 「と、とんでもない王女だな。そんなに連れ出してほしいのか」


 「はい!」


 「そんなキラキラした目で言われてもな……俺が連れ出すと思うか!」

 

 この際、力づくで引き剥がして逃亡を図るしかない。


 が、この王女、なかなか踏ん張る。


 「ぐぬぬぬぬ…なんでダメなんですか!」


 「当たり前だろ!王城に侵入しただけでも大罪なのに、王女まで誘拐したとなったら、今よりも追いかけまわされるんだぞ!てか、力つよ!」


 何とかしてこの王女を引き剥がしたいのだが、なかなかに力強い。

 俺を追いかけてきた衛兵たちもすぐ近くまで来ている。


 「おい!王女様の部屋の扉が開いてるぞ!急げ!」


 ほら言わんこっちゃない。

 さて、どうするか。

 このままだと間違いなく捕まる。

 城内に侵入したうえ、王女様と密着した姿が見られれば余計な罪まで付けられるだろう。

 なら無理やり引き剥がしてでも逃げるべきだが、下手に魔法を行使すれば、大怪我を負わせてしまうかもしれない。それは避けたい。

 ……誘拐かぁ。王女誘拐とか世紀に残る大犯罪者になるだろうな。

 ほんと何だよこの状況。


 「まったく、仕方ない……」


 「ひゃ!?」


 俺は王者様を抱き抱える。

 俺はもう指名手配犯だ。

 王女の誘拐の一つなんてなんとかこなして、逃げ切ってみせる。

 ここでは絶対に捕まりたくはない。

 魔法の詠唱を口ずさむ。

 俺は衛兵たちの怒号を振り切って、バルコニーから飛び降りた。




 王女視点です。

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219175370758

 

 

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凄腕義賊は抜け出したい 葉山さん @anukor

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