スマホに写る君

笹霧

スマホに写る君

 自転車を走らせること20分。私は公園のベンチで足を休ませていた。自転車だから全然疲れないと思っていたけど、山を登るんだからきつくて当然だった。

 金属製の重たい水筒から水分を補給する。麦茶が美味しく感じる季節。飲み過ぎないように気を付けなきゃいけない。ポケットから振動。莉心からだった。

「心配性なんだから」

 明里、今どこ? 何してるの? 集まらないの? という内容。公園で写真を撮ってるよ、と返信する。莉心は夏休み明けの文化祭を心配しているようだった。

 スマホを頭上に掲げ、撮影していく。揺れる木々に、木の葉から時折差し込まれる日の光。葉っぱ同士が擦れあってできる音色に耳を傾ける。おっと、ついスマホも傾けちゃった。

「皆で来た方が良かったかなぁ」

 私が所属している部は、私含めて3人しか居ない。文化祭で来年の新入部員を狙うのが今の目標だ。我が写真部は大変な時期なのだ。なんてね。

 立って部員2人に連絡を入れる。やっぱり3人でじゃないと楽しくない。


「明里」

「アカリ!」

 レストランで待つこと約10分。莉心とエミリーが揃ってやってくる。少し注目を集めている気がした。エミリーは美人だから仕方ない。仕方ないけど。

「私って」

「どうしたんデスか?」

「エミ、気にしないで良いよ」

 莉心を見やる。莉心ももちろん美人に入るだろう。ただ、エミリーは髪色が目立つので、あまり莉心に目がいかなくてもしょうがない。

「大丈夫、莉心。私はちゃんと見えてるよ」

 テーブルの下から足が飛んできた。痛い。

「で、写真は?」

 莉心が本題を持ち出してきた。私のスマホを反対側の席に座る2人に見えるようにする。ここ数日は私1人で撮っていた。今日はスマホしか無いが、家には一眼レフカメラなどもある。

「明里、完璧?」

 完璧……莉心は文化祭で展示する写真は充分なのかと聞いてきていると思う。頭を振る。自然についての写真を今まで撮ってきた。都市のや住宅街だって。でも、何かが足りない。何が足りないと思うか2人に聞いてみる。

「対象がってことね」

「大将?」

「エミ、目標ってこと」

「オゥ、分かったデス」

 2人はスマホの写真を真剣に見ている。後で2人にも送らないとね。私は立て掛けてあったメニューをテーブルに置く。写真を撮ることも考えてメニューを選び始めた。


 今日撮った写真をスマホからパソコンに移していく。イヤホンを耳にさして3人で通話しながら作業する。バックグラウンドでは音楽を音量低めで流していて、気を抜くとつい口ずさんでしまう。

『写真きた』

『私にも来たよ』

 スマホとカメラの両方から気に入ったものを今送った。最近のスマホは写真の撮影にも力を入れていて、もちろんカメラの方が色々と良いのだが、スマホも無しではなくなってきていた。

『ちょっと、私を仲間はずれにしないでぇ』

「先生? 仕事は終わりました?」

 顧問の谷柿先生は痛いとこを突かれたという風な声を出す。

『うぐ……せ、先生をいじめるのは良くないわよ。泣いてやる』

『めんど』

『リコ、もうちょっと』

『うぅ、エミリーさんはやっぱり優しいわ』

 スマホから聞こえてくる皆の会話。これだ。何が”これ”なのかはすぐに消えてしまう。けど、大切ななにかが見えた。

「ねぇ」

 スマホを手にして皆に声をかける。まだ時間はある。これからの予定を皆で話し出した。

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スマホに写る君 笹霧 @gentiana

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