スマホを落としたら、警察に届けましょう。

味噌わさび

第1話 写真

「……つい持ってきてしまった」


 俺はアパートの自室に戻ってきて、今一度手にしたものをまじまじと見つめる。


 その手にあるのは……スマホだった。


 実は深夜の散歩をして、アパートに戻ってくる際に、スマホが道に落ちていたのである。


 警察に届けようかと思ったが……邪な気持ちが芽生えてしまった。


 届ける前に、このスマホの持ち主がどんな人物か知っておきたい……不味いことだと思ったが、そう思ってしまったのである。


「……まぁ、ちょっと見るだけだから」


 自分にそう言い訳しながら、スマホの画面を点ける。


 なんと、都合のいいことに、ロックはかかっていなかった。いとも簡単にスマホの中身を見ることが出来てしまったのである。


「なんだか、やけに使用感のないスマホだな。写真のアプリだけかよ」


 スマホの中身は期待外れであった。どうやら、サブで使っているスマホだったようである。


「……まぁ、いいや、写真を見てみるか」


 俺はそう言って、写真のアプリを起動する。


 写真は……なんだか不気味であった。暗闇を取っているのか、何も見えないのである。


「なんだこれ……こんな写真ばっかりだな」


 写真を進めていっても、どうにも暗闇の写真ばかりである。たまに街灯が移っている写真がある。これは……夜道を進んでいるのだろうか。


「……ん?」


 と、写真を見るのを進めていくうちにあることに気付く。


「この自販機……ウチの近所のものか?」


 見ると、よく俺が利用している自販機が移っていた。どうやら、このスマホの主は近所に住んでいるようだった。


「まずかったな……ご近所さんだったか」


 そう言いながらも俺は写真を進めていく。


「え」


 と、写真を進めていく指先が止まってしまった。


 暗闇の写真の端っこに……小さく建物が見える。それは……アパートだ。


 2階建ての古びたアパート。見覚えのある……というよりも、見間違いようのないアパート……。


「これ……俺の住んでるアパート……」


 俺は明確に恐怖を感じたあとで、急いで先の写真を見る。


 端っこにあったはずのアパートはどんどん大きくなっていく。いや、明確にアパートがメインの被写体になっている。


 そもそも、そんなことはどうでもいい。この撮られた写真……いや、この撮られている写真から導き出されるのは……。


「こっちに向かってる……!」


 俺は慌てて玄関の方を見る。と、玄関の扉の先からカンという音が確かに聞こえた。


 俺はスマホの写真を見る。最後の写真に映っていたのは……間違いなく、ウチのアパートの階段だった。


 慌てて俺は玄関の扉へと向かう。鍵とチェーンを締め、扉を背にそのまま座り込む。


「え」


 新たな写真が追加された。それは……俺のアパートの部屋の玄関扉だった。


 ガンガンガン!


 玄関扉が破壊されるのではないかというくらいに強い力で扉が叩かれる。


 俺は小さく縮こまりながら、ひたすらにこの恐怖が過ぎ去ることを祈った。


 しばらく扉を叩く音は続いたが、5分くらいするとそれも止んだ。俺はおそるおそる玄関の扉から離れる。


「お、終わったのか……?」


 と、その時だった。手の中にあったスマホがわずかに振動する。またしても、新しい写真がスマホに追加されていた。


「え」


 スマホに新たに追加された写真は……俺の写真だった。この上なく恐怖に歪んだ表情をしている俺の写真が追加されていたのである。


 それと同時に、スマホが激しく振動する。見ると……着信があった。


 俺はわけもわからず着信に応答してしまった。耳にスマホを恐る恐る当てる。


『スマホをひろったら……けいさつにとどけまショウ』


 スマホと……俺の背後から、同時に、人間とは思えないような悍ましい声が聞こえてきた。


 俺は恐る恐る背後に顔を向ける。そこには……包丁を持った血まみれの女が立っていた。


 その時俺は妙に落ち着いていて、少なくとも俺は……最後に見たあの写真の通りになるのだなと理解したのだった。

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