人間コントローラー

操り人形

　この文章を読んでいただいていらっしゃるということは、恐らく僕が紹介文で提示した質問の答えを用意していただいているのでしょう。

　改めてお聞きします。どんな人間でも簡単に操れてしまうものは何でしょうか。

　答えは、スマホです。

　最近、人々の生活はスマホによって劇的に便利になりました。分からないことがあればいつでもどこでも調べられますし、暇な時間があればゲームが出来ます。他にも動画の視聴、写真撮影、メッセージのやりとり、スケジュール管理と、スマホ1台で出来ることを挙げていけばキリがありません。データの容量やバッテリー容量の許す限り、僕らの「これをしたい」に24時間、365日応えてくれます。スマホがその所有者の便利屋さんの立ち位置にいるのは紛れもない事実です。

　しかし僕らは、便利屋さんの利便性が良すぎるあまり、欠点が見えなくなってしまっているように感じます。今回は、僕が旅行の時に感じたスマホの欠点をお話しします。

　旅行に行こうと思い立ち、まずは目的地を決めます。決まったらスマホで旅行会社を探し、料金を比較して安いところを選び予約します。当日まではスマホで観光地を調べに調べ、行きたいところを絞り、バスの時刻などをもとに予定を組みます。昼ご飯や夜ご飯も有名な店を調べ、予定に組み込みます。そして当日は、予定の通りに各地を周って楽しみます。

　これは僕が去年の秋に行った旅行のことです。皆さんが旅行に行く時も、こんな感じで行く人が多いのではないかと思います。何よりも楽でハプニングが起きにくく、観光地や食事も有名なのでハズレを引くことはほぼありません。

　しかし、僕はあまり楽しくはありませんでした。次に紹介する旅行と比べると、どうしても物足りなさを感じてしまうのです。

　旅行に行こうと思い立ち、適当に列車の切符を買います。事前にどこに行くのか、何を食べるのかも決めることなく、決まっているのは列車の乗車駅・降車駅と時間だけ。当日は気の赴くままに街を歩き回り、気になった場所に足を踏み入れます。

　これは僕が去年の夏に行った旅行のこと。1本だけ乗る列車を決め、後はどうなっても良いようにフリー切符を買いました。ほとんど予定を組むことなく行く旅行はリスクも大きいですが、こちらの方が「冒険してる」って感じがして楽しめました。

　なぜ自由な旅行の方が計画を練った旅行よりも楽しかったのかを考えました。僕が出した結論は、スマホに従っているかどうか、でした。

　計画を練る際には、おそらくスマホや旅行雑誌などを使うでしょう。これらは旅行に訪れるのにはぴったりな場所をたくさん知っています。が、それらは決してその場所の全てを教えてくれるわけではありません。ネットのサイトや旅行雑誌を見ても、書かれているのは特に人気の高い有名なスポットばかり。かなりマイナーな場所や地元の人しか知らないような場所が掲載されているはずがありません。さらにネットのサイトの場合、虚偽の内容が記されている可能性も否定できません。つまり、スマホなどで訪問地を探す場合は、旅行のフィールドは掲載されている場所に限られてくるのです。言うなれば、スマホに行く場所を制限されている、もしくは操られているということなのです。

　しかし気の赴くままに旅をする場合、旅行のフィールドは世界全体にほぼ抜け目なく広がります。地元の人と話をして、穴場スポットやその人たちの生活を覗けるような場所を教えてもらえるかもしれません。自分を縛ったり操ったりするものは無く、気ままに歩いて旅の行程を完成させていくこのあり方こそが、旅行や冒険の本来の姿だと思うのです。

　スマホは便利ですが、スマホが僕たちに提示してくれるのは「僕たちの興味のありそうなものの例」です。さらに細かく調べていっても、全ての情報が出てくる訳でもないのです。スマホの世界は、現実世界から一部が欠損したパラレルワールド。パラレルワールドには多くの人が求めるようなものは揃っています。しかしこのパラレルワールドが世界の全てだと思い、スマホの勧めるがままに行動するようになると、いよいよ人は操り人形に生まれ変わるのです。

　スマホを使うなと言いたいわけではありません。スマホの限界を知り、十分にスマホを理解して欲しいと言いたいのです。自分の人生、スマホにアドバイスを求めるのは結構ですが、スマホを自分のコントローラーとして使うのは止めるべきです。

　スマホの使い方を今一度しっかりと見直すことで、楽しい生き方が見えてくるに違いないと僕は思います。