スマホ大好き博士

かどの かゆた

スマホ大好き博士

 あるところに、スマホが大好きな博士が居ました。

 博士は仕事をしている時間以外は、全てスマホを弄る時間に費やすほどスマホが大好きでした。

 人との連絡も、買い物の会計も、時間の管理も、全部スマホで出来るのです。


「いやぁ、スマホはなんて便利なのだろう。私もこのように何をするにも便利な発明品を作ってみたいものだ」


 博士は口癖のようにそんなことを言っていました。彼は完全にスマホへ心酔していたのです。


 そんなある日のこと。

 博士がスマホで地図を確認しながら街を歩いていると、うっかり手を滑らせてしまいました。そして、道路へ落ちた博士のスマホは、トラックに轢かれてぺちゃんこになってしまったのです。


 スマホはもう原型をとどめておらず、中にあったデータも、一部の除いて帰ってきませんでした。


「手を滑らせたのは私の不注意だ。しかし、災害などの理由で仕方なくスマホを失ってしまう人も、きっといるはず」


 博士はその経験から、自分が研究すべきことを見つけました。


「私は、この便利なスマホをもっともっと丈夫にすることにこの人生を捧げよう」


 博士は天才でした。

 博士が改造したスマホは、どんな力を加えても壊れることがなく、限りなく経年劣化が遅い上に、絶対にデータを保持することが出来るのです。


 まさに、絶対に壊れないスマホでした。


「これは、一万年経っても壊れず、使用することが出来るスマホだ」


 博士はこの発明したスマホに、絶対的な自信を持っていました。


 その頃、博士にはNという恋人が出来ました。Nは髪が長くグラマラスで、知的な女性でした。博士は彼女にベタ惚れで、お気に入りのスマホで毎日のようにメッセージのやり取りをしたのです。


『キミとボクの幸せな未来について考えてた。キミのことで頭がいっぱいで、発明が手に付かない。困っちゃうよネ……』


『愛してる。こんなこと言うと照れるけど、何か、言いたくなっちゃって。今度はいつ会える? 寂しくなっちゃったナ。なーんて。冗談冗談!』


 博士は恋愛をすると頭に血が昇るタイプの人間でした。

 丈夫なスマホの開発も上手くいき、Nという恋人ができて、博士の人生は順調そのものでした。


 しかし、ある朝起きると博士の家からは金目のものもスマホの設計図も失われていました。残っていたのは、寝るときもギュッと握っていたスマホだけです。


「どうして……」


 呆然とする博士。その手元にあるスマホが、ぶるりと震えました。

 見ると、それはNからのメッセージでした。


『さよなら』


 後から調べたところ、Nはスマホを作る会社から派遣されたスパイでした。Nへ依頼をした会社は、博士の発明した丈夫なスマホが売り出され、新商品が売れなくなることを危惧していたのです。


 博士は全てを失いました。


 博士は恋人に裏切られたことや財を失ったことを悲しみましたが、自分の頭脳があればお金に困ることはありません。

 ただ、博士には一つ悔やんでいることがありました。

 それは、丈夫なスマホに残っているNへ送ったメッセージの数々です。絶対にデータが消えないように作ったスマホなので、どうしてもあのメッセージが残ってしまうのでした。


「こんな黒歴史、絶対に消さなければ! しかし、ううむ。丈夫にしすぎて自分でもデータを消すことが出来んな……」






____________



「お、何か見つかったぞ」


 未来人の教授が遺跡を発掘していると、珍しい形の出土品がありました。


「なんだなんだ」


 仲間たちがぞろぞろと集まって、その出土品を囲みます。それは、長方形の機械でした。


「これは、スマートフォンか。歴史民俗資料館で見たことがあるぞ」


 仲間のうち一人が、試しに電源ボタンを押します。


「おっ、どうやらこれ、まだ動くようだ」


「そんな馬鹿な。何千年前の機械だと思ってる?」


「いや、でも実際動いてるぞ」


 その後、出土品は歴史を解き明かす上での重要な発見として世界中から注目を受けました。未来の技術力によってデータは抜き取られ、その全てが貴重な資料となったのです。


 その中でも特に話題になったのは「古代人の恋愛は随分情熱的だったらしい」ということでした。


 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマホ大好き博士 かどの かゆた @kudamonogayu01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ