私の世界

tolico

はじまりはじまり


 皆様。本日は私の物語へようこそ。


 いつもと趣向を変えて、私と読者と仲間たちについて語らせていただきたく思います。


 読者とは勿論、私の物語を読んでくださる皆様です。そして仲間たちとは私の物語に登場する仲間たちのことです。


 読者の皆様にはいつも、笑ったり怒ったり一緒に物語を楽しんでいただけて、私ももっと頑張ろうという思いが湧いてきます。大変に有り難いことです。

 心からの感謝をいたします。


 老若男女、たくさんの方々に広く楽しんでいただけていると自負しております。



 私の物語は、皆様ご存知の。え? 知らない?

 まあ最近はそういう方も多少はいらっしゃるかもしれませんねぇ。ええ、海外だとまた違いますしね。


 うーん、でもけっこう有名だと思うんですよ。自分で言うのもなんですけどね。


 ええ、そうです。桃から生まれる。


 そう、私。桃太郎でございます。



 日本人なら一度はお読みいただいているかと思います。

 川を流れてきた大きな桃から、お爺さんとお婆さんの元へ生まれ落ちた赤子が私。


 実を言いますと、その桃を食べて若返ったお二人がハッスルして生まれた、なんて話もありますが、まあそこら辺は。


 ちゃんと桃から生まれたってことで。ね。


 じゃないと桃太郎のアイデンティティ無くなっちゃいますし。



 まあそんなこんなで、お爺さんお婆さんに可愛がられてすくすく育ち、やがて都を荒らす鬼を退治しに出かけるわけです。


 そこでお婆さんから渡されるきびだんご。これがまた美味いきびだんごで。砂糖を控えて自然の甘みを生かした、しっとりもっちりのこのだんごは、何個でも食べてしまう止まらない美味しさ。


 何を隠そう、お婆さんはとっても料理上手なんですよ!

 長年お爺さんと仲良く過ごしてきた秘訣のひとつが、胃袋をガッチリ掴んで離さない料理テクニックというわけですよ!

 育てられながらに毎日食してきた私の実感からも、間違いなく特級の料理人の腕だと申し上げておきます。



 お婆さんの料理上手は有名なようで、そんな美味いきびだんごですから、動物だって喋りだす。


「お供するのできびだんごくださいな〜ワンワン!」


 この白くてつぶらな瞳のワンコが仲間その1です。

 忠犬と呼ぶにふさわしいちょっとアホっぽいけど可愛いやつで、尻尾振って付いてくるので大いに撫でまわしてやるのです。




「おい、俺も鬼退治に参加するからきびだんご分けてくれねぇかウキ?」


 そしてちょっと柄の悪いお猿さんが仲間その2。

 口は悪いけど悪ぶってるだけのただのツンデレなので、優しく接してあげます。


「べ、別に仲間が欲しかった訳じゃねえからな。きびだんごが食いたかったんだウキキ!」


 ね? 憎めないやつなんです。




「もし。そこな男子。美味いきびだんごを持っておるそうだな。供をするゆえわたしにもいただけぬかケーン?」


 ちょっとヒップホップみたいな語尾のこの鳥さんはキジ。仲間その3です。

 キジって田舎だとよく見かけますが、そこまで有名な鳥でもないような。

 なんで鶏じゃなかったんでしょうね?


「わたしは三歩で物忘れするような鳥などとは頭の出来が違うのだ。複雑な戦略も戦術もお手のもの。美しさだって比べ物にならぬケーン」


 確かに美しい羽根をお持ちですね。所構わず鳴いて鬼に見つかったりしそうですが。

 でも鳥は可愛いので基本何でもOKです。あと美味しいですし……おっと失礼。仲間は食べたりしませんよ?




 さて、そんな三匹を引き連れて。はるばるやってきました鬼ヶ島。

 荒れ狂う海上には恐ろしい鬼顔型のゴツゴツとした岩城が浮かんでいます。


「やあやあ我こそは桃太郎! 都に悪さする鬼どもめ、いざ退治してくれようぞ!」



 犬が噛みつき猿が引っ掻き、キジは飛んでつっつき回る。

 どったばったと暴れ回り、たちまち全ての鬼たちを倒れ臥させた私たちは、お宝を頂戴して都へと帰ります。


 ね? 皆様ご存知のお話だったでしょう。





 盃に注がれた酒を手に、和やかなムードで運ばれてくる料理に手を伸ばす。


「やあやあ、相変わらず桃太郎さんはお強うございますな。ささ、一献」


「おお。ありがとう、ありがとう」


 そして私の最後の仲間。犬、猿、キジと大勢で囲みながら宴を楽しむ、大小様々色とりどりな鬼たち。



 彼らもまた、この物語の立派な仲間たちなのです。




 めでたしめでたし。





 ---おしまい。

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