番外編 愛してるって言って
「夏野さん、最近のあなたの行動は目に余るわ」
「うん、さすがに我慢できない」
ある休日、あたしは真美ちゃんの家に呼ばれた。そして真美ちゃんの部屋の中で、真実ちゃん、六花ちゃん、空ちゃん、咲良ちゃんに囲まれていきなり正座をさせられた。
「うう。あたし、何かしちゃった?」
自覚がないので状況が掴めない。
「そう。自分では分かっていないのね」
「奏ちゃん、一昨日は誠と何があったの?」
「一昨日? 一昨日は少しまこちゃんと喧嘩して……」
「一週間前は?」
「一週間前? 何も……」
「嘘ね。冬風君と言い争いながら学校に来ていたでしょう?」
「……確かに」
「今日、奏ちゃんを呼んだのは怒るため! 誠と喧嘩し過ぎ! それとすぐに仲直りしてイチャイチャし過ぎ! 何回、あたしたちは同じような光景を見ないといけないの!」
六花ちゃんの叫びに空ちゃんが吹き出し、咲良ちゃんも笑い始めた。
「えー! それって責められること⁉」
「当たり前でしょう。冬風君を好きな人間として、我慢ならないわ」
「うん。喧嘩するもしないも本人の自由だけど、改善が必要だと思う。小さな喧嘩がいつか決定的なすれ違いになっちゃうかもしれないでしょ?」
六花ちゃんが真剣な眼差しであたしを見る。あたしとまこちゃんは知らない間に心配をかけていたのか。
「ありが……」
「というわけで今日は空ちゃんと春雨さんがいるので、色んなカップル事情を聞いて参考にしましょうの会!」
「女子会に参加する日が来るなんて思っていなかったわ。さぁ、お菓子とジュースを開けましょう」
突然の高いテンションにあたしがあっけに取られている間に、他の四人がパーティーの準備を始めた。
「あれ? 真面目な話じゃないの?」
「そんなわけないじゃない。奏ちゃんと誠君のバカップルぶりに堪えられなくなった真美ちゃんと六花ちゃんの溜飲を下げる会よ。まぁ、女子しかいないんだし、赤裸々な話をしましょう」
「誠さんや政宗さん、大地君も今日は一緒に遊んでいるらしいですね。向こうで誠さんは政宗さんに責められていると思いますよ」
二人の言葉で一気にあたしの緊張が解けた。せっかくの機会なので今日は空ちゃんや咲良ちゃんのことを沢山聞いて参考にしよう。
「それで? どうして奏ちゃんと誠はそんなに喧嘩するの?」
「まこちゃんがデリカシーないから! まこちゃん、優しいところは優しいけど、余計なことも沢山言うんだよー」
「確かに。冬風君のデリカシーのなさは今に始まったことではないわね。冬風君が私と肩を並べるくらいコミュニケーションが取れない人間であったことは忘れてはいけないわ」
「はは。真実ちゃん、真顔でそんなこと言わないでよ。けど誠のデリカシーがない発言って照れ隠しじゃない? 素直に自分が思っていることを口に出せばいいのに、変に意地を張るから」
「そうね。きっと私に対する暴言も照れ隠しだわ。そう思ったら誠君が一段と可愛く思えてきたわ」
「いや、空さんに対しては多分、そんな感情じゃないですよ……。空さん、誠さん以上に誠さんをいじめるから」
「けど私とは喧嘩にならないってことは、やっぱり喧嘩するほど仲が良いってことね。真実ちゃんや六花ちゃんは誠君と喧嘩したことある?」
「ないわ。すれ違うことはあったけれど、喧嘩ではなかったわね」
「あたしもないかなー。すれ違いも感じたことはないし、あたしは生徒会じゃなかったから、誠とは一緒にいる時間が奏ちゃんや真実ちゃんよりも少なかったしね」
「まこちゃん、六花ちゃんに対してが一番素直だったと思う。それこそ二年生の時なんか同じクラスでもなかったのに、二人は仲が良かったしね」
「そうね。明らかに他の人とは違う対応だったわね」
「違う対応っていうのを振り返ると、誠君は真実ちゃんを色々と信頼していたわね。きっと同じような境遇で、同じような経緯で生徒会に入ったからこそ、真実ちゃんに心を許していた」
「そうですね。誠さん、相談事はよく真実さんにしていましたし」
「確かにそうだねー。まこちゃん、あたしに頼ることは少なかったなー。あたしばっかりがまこちゃんに助けられていた」
「けど夏野さん、冬風君が一番好きになったのはやっぱりあなたね。どんな時も冬風君は夏野さんの隣にいて、悩んでいた」
「悩んでたってマイナスじゃないの?」
「今なら分かるけど、奏ちゃんのことが好きってことをどこかで分かってたから誠はあの頃、いっぱい悩んでたんだよ」
「振り返れば振り返るほど誠君ほど罪な男はいないわねー。こんなにも可愛い女の子を三人もたぶらかして」
「だね! 奏ちゃんと誠の喧嘩の話に戻るけど、空ちゃんも咲良ちゃんも喧嘩はするの?」
「私はしないわねー。大地とは幼馴染だし、今更すれ違うことはないわ。私が大地をからかって言い合いになることはあるけど、じゃれてるだけだし」
「私も喧嘩はないです。政宗さんが大人なので。時々、政宗さんの行動に怒ったり、注意したりしますが、政宗さんは私にそう言われることを分かっているので喧嘩には……」
「あの男らしいわね。奏ちゃん、喧嘩しないコツを教えてあげるわ。それは自分の好意を相手にちゃんと伝えることよ」
「それってまこちゃんに好きって伝えるってこと? 喧嘩の後はちゃんと好きって言ってるよ?」
「喧嘩の後だけじゃなくて、普段から言うのが大切なのよ。まぁ、私と大地は滅多に好きなんて言ったりしないけど、それは幼馴染で、照れくさいから。まぁ、政宗はそうじゃないでしょうけど」
「はい。政宗さんは必ず毎日愛してるって言ってくれます」
咲良ちゃんの発言に六花ちゃんと真美ちゃんが手で顔を覆い、咲良ちゃんは自分の衝撃発言に気付いて顔を赤らめた。
「……ま、毎日は多いと思いますけど、嫌じゃないです……。だからおすすめです! 自分の気持ちを素直に伝え続けるのは!」
「あははは。会長になってから咲良ちゃん、強くなったねー。じゃあ決定! 奏ちゃんは明日、誠君に愛してると伝える! これでもう喧嘩とは無縁のカップルになれるわ」
「え?」
「私たち的には夏野さんのピンチはチャンスなのだけれど、冬風君の反応は気になる。夏野さん、私たちで練習しましょう」
「え?」
「じゃあ最初はあたしから! 奏ちゃん、愛してるって言って!」
「えー! 嫌だよ!」
「拒否権はないわ。冬風君とのイチャイチャを私たちに見せつけた罰。夏野さん、観念しなさい」
「嫌だーー!」
結局その日は謎の練習をさせられ続け、週明けにまこちゃんに実践することになった。
「寒くなってきたねー」
「そうだな。そろそろコートの準備もしないと」
週明けの学校からの帰り道、あたしはまこちゃんと並んで歩いていた。
「ねぇ、まこちゃん」
「なんだ?」
「愛してる」
「……急にどうした? 頭でも打ったか?」
同じように愛してると返してくれるなんて思ってはなかったが、相変わらずのデリカシーゼロ発言にあたしは我慢できなくなった。
「まこちゃんの馬鹿! 愛してるってまこちゃんも言ってくれたっていいじゃん!」
「俺は秋城じゃないんだぞ! 急にそんなこと言えるわけないだろ! 突然どうした⁉」
「もう知らない! まこちゃんはあたしのこと、愛してないんだ!」
「そんなこと……」
「じゃあ言って」
「いや……」
「言って」
「……愛してるよ」
「あたしも愛してる! まこちゃん!」
「あー、二人の喧嘩は誠のデリカシーだけではなくて、奏の面倒くささも原因だったか」
「いいカップルじゃない。結局は仲直りするんだから。それにしても誠君が愛してるって言ってくれるなんてね。奏ちゃんには弱いわね」
色々と仕組んだカップルの後ろで、その二人に見つからないように隠れながら秋城と星宮は言葉を交わした。
「誠も照れ隠しで頭でも打ったかなんて言わずに、素直に自分も言ってあげればいいのに」
「愛してるだなんて自然に言えるのはあんたくらいよ。まぁ、面白いものも見れたし、私も大地に言ってみよー」
「どんな反応をしたか教えてくれよ」
「ごめんよ。誠君だけからかってなさい」
「それだと誠だけが不憫じゃないか」
「自分を棚に上げて言うことじゃないわね」
相変わらずの二人は飽きもせずに二人の尾行を続けた。
別のカップル……。
「輝彦、愛してる」
「おう。俺も愛してるぞ、涼香」
「何よ、面白くないわね」
「知るか」
このラブコメは噓か誠か真実か 堂上みゆき @miyukidojo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます