SNS実況マニア死す

矮凹七五

第1話 SNS実況マニア死す

「ぅぁぉぅんんん~んんんっ!」

 俺は今、洋式便器に腰掛けながら力んでいる。

 片手にはスマホ。俺はスマホの画面を指で触りつつ、可能な限り素早く動かして、メッセージを入力する。

『うんこなう』

 メッセージを入力したら送信。入力したメッセージが、SNSアプリの画面に表示される。

 巷では、このSNSが大流行している。俺もこの流行に乗り、ドが付く程ハマっている。そのせいで、一時たりともスマホを手放すことができない。事あるごとにメッセージを送信――実況投稿――してしまう。

 ぼっとん! ついに出た。爽快な何かが、尻から口に突き抜け、脳内に極楽浄土が広がる。

 俺は股の間から便器の中を見る。そこには一本の大便がある。バナナのような形状だが、バナナと言うには大きすぎる。茶色いマムシのようだ。

『茶色いマムシのようなうんこが出た』と入力して送信。

 少しだけ待つと『きったねーな』という返信が表示された。

 便器のそばにある「おしり」ボタンを押す。尻の所に暖かい噴水が当たるのを感じ取る事が出来る。

『尻を洗浄なう』

 尻を軽く洗浄した俺は、トイレットペーパーに手を伸ばし、トイレットペーパーを切り取る。切り取ったトイレットペーパーで尻を拭く。

『尻拭きなう』

 尻を拭き終えた俺は立ち上がり、パンツとズボンを穿く。タンクに付いているレバーを動かしてトイレの水を流す。

『水流しなう』

 かなり大きい大便だったが、無事に流れた。

『うんこは流れた』


『これからコンビニに行く』

 俺は買い物をするために、コンビニに向かっている。

 俺のそばに、街路樹として植えられている桜がある。よく見ると開いている花がある。三月中旬なのに早い。

 俺はスマホで桜の花を撮影した。もちろん、花が大きく写るように。

『桜が咲いている』

 桜の花の画像を添付してメッセージを送信。すると、そのメッセージに「いいね」が付いた。


 道を歩いていると、前の方から制服姿の女子高生が近づいてきた。丈の短いスカートを穿いている。

『JKが歩いてくる』

 俺が女子高生とすれ違った直後に強い風が吹いた。

「きゃっ!」

 女の子の声が聞こえたので振り向くと、女子高生のスカートが見事にめくれ上がっていた。俺の股間が熱膨張する。

『風が吹いてJKのスカートがめくれた。パンツは白』

 すると……

『画像うp』という返信が来た。今のを撮影して、画像をアップロードしろという事か。俺はそれに対し『無理』と返信した。


 コンビニに到着した。

『コンビニなう』

 俺はコンビニの中に入っていった。

 入口付近で買い物かごを手に取る。買い物かごはプラスチック製で、オレンジ色をしている。

 ガラス戸の冷蔵庫からペットボトルの緑茶を手に取り、それを買い物かごの中に入れる。棚からレトルトのカレーやご飯、ポテトチップス、板チョコ等を手に取って、それらを買い物かごの中に入れる。

 目的のものを全て買い物かごに入れた俺は、レジに向かう。

 カウンターテーブルの上に買い物かごを乗せて、それをスマホで撮影した。撮影した画像を添付して『今日の買い物』と送信。「あの、お客様……」という声が聞こえたような気がしたけど、俺は気にしない。

「ありがとうございました!」

 会計を済ませた俺は、出口に向かった。


 コンビニを出た直後、視界に一台の車が入った。

 車が猛スピードでこちらに向かって来た。

「――!!」

 車が巨大化して視界に入ったかと思った次の瞬間、俺の耳に衝撃音が入ってきた。

 同時に俺の視界がブラックアウトした。


 気が付くと、目の前にはアスファルトで舗装された地面があった。

 ――何だこの感覚……! 全身が滅茶苦茶痛い! 力も入らない……

 俺は車にはねられた。そう悟った。

 ――まさか、死ぬのか? まだ二十年しか生きていないというのに……

 俺は現実を信じる事ができない。

 片手に握っていたスマホはそのままだ。

『車にはねられた』

 ……まだ余力がある。

『車はプルウヌ』

 俺は力を振り絞って、車種名も入力して送信した。プルウヌ――老人に大人気のハイブリッド車だ。今、俺をはねた車を運転していたのも老人だ。

 ……もう俺に力は残っていないようだ。指を動かす事もままならない。

 目の前がどんどん暗くなっていく……


 ついに目の前は真っ暗になった。



 ――ここはどこだ……?

 周囲を見回す。東洋風の壁や床。俺はどこかの建物の中にいるみたいだ。

 目の前には大きな机があり、その後ろにあると思われる椅子に、着物姿の巨漢が腰掛けている。

 巨漢は赤ら顔で、口のまわりに髭を生やしている。目はぎょろりとしていて鋭い。

 巨漢の口が開いた。

須磨穂京次郎すまほきょうじろう君、わしは閻魔えんまと申す。これから、君の生前の行いについて、審判を開始する」

 ――閻魔!? という事は、この人があの閻魔大王か……。そうか、俺は死んだのだな。

 俺の手に固いものがある。手を動かして視界に入れると、そこにはスマホがある。

 スマホも一緒に来てくれたようだ。

 俺は指を動かしてメッセージを入力する。

『俺は死んだ。閻魔大王が審判なう』

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SNS実況マニア死す 矮凹七五 @yj-75yo

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