46作品目

10話.[それだけは確か]

「勝一さん、沙綾さんが呼んでいましたよ」

「あ、そうなの？　教えてくれてありがとう」

　結局、全く役に立てなかったことを謝罪する。

　沙綾とばかりいてしまったから。

　それはそれでいいんものの、受け入れておきながらそれは良くないだろとツッコむ自分が内に存在している。

「気にしないでください、もうコミュニケーションもしっかりできていますから。あ、最近は凄く楽しそうなんですよ、きっと平本さんの存在が大きいんでしょうね」

　そこで少しちくっと胸が痛くなった。

　望んでいたことだけど、いざ実際に必要となる存在が変わるって気になることなんだなあと考えて慌てて捨てる。

　いいんだ、千鶴が幸せならそれでいい。

　解放したんだから戻ってくることを期待してはならない。

「あ、沙綾さんのところに行ってあげてください」

「うん、行ってくるよ」

　それで行ってみた結果、

「浮気者」

　と、いきなり言われてしまい突っ立つことになった。

　どうやら見ていたらしい。

　あくまで呼びに来てくれただけなのに、それで僕はお礼を言っただけなのに浮気者とはこれいかに。

「それにさっき、痛くなっていたでしょ」

「見るだけじゃなくて聞いていたんだ」

「完全に道雄くんのことになってうって傷ついていたでしょ」

　ばればれだな、これに関しては昔からそうだけど。

　隠すのが下手なのか、彼女がそういうのを見極めるのが上手なのか。

　分からないけど、とにかく隠すことができないでいる。

「大丈夫、これが望みだったから」

「どうだか」

「それにいまはほら、沙綾がいてくれているからね。千鶴にとっては道雄がそういう対象だった、ということだよ」

　もちろん、彼女が別れて離れたくなったら止めるつもりはない。

　……気にはなるからそうはならないように行動しておくだけだ。

「でもさ、すぐに他の女の子と一緒にいようとするよね」

「してないよ、見ていたら分かるでしょ？」

「馬鹿っ」

　あれからいいことばかりでもなくなっていた。

　でも、いいことがないわけでもない。

「はい、今日はまだしていなかったから不機嫌なんだよね？」

「あっ……なでなでされたって変わらないから」

「どうだか」

「あっ、調子に乗っているでしょっ！」

　口撃及び攻撃を躱して頭を撫でることを続ける。

　こうすれば彼女はなんとかなるからだ。

　それに喧嘩をしたいわけではないし、悪いことをしているつもりはなかったから。

「大丈夫」

「……分かったからもうやめて」

「うん、沙綾がそう言うなら」

　浮気とかそういうことは絶対にしない。

　大体、そんなことをする意味がないのだ。

　沙綾がいてくれればそれでいい、それだけは確かだった。