09話.[考えなくていい]

「だ、だめっ……」


 女子特有の甘い声。

 俺はそんな様をじっと見ていた、いや、見ていることしかできなかった。

 なので、どうしようもなくなった俺はカーテンを開ける。

 その瞬間に彼女は「め、目があっ!?」と今度は全く甘くない声音で吐いてハイテンションだった。


「ゲームばかりするなよ」

「だってぇ……この子のレベルを上げたいんだもん」

「するにしてもいちいちカーテンをしめるな」


 彼女――千鶴からすれば恋なんかよりもゲームの方が優先らしかった。

 ……それが中々に複雑な気持ちにさせてくれる。

 沙綾があっという間に勝と付き合い始めたことを知って少し焦っているところもあるのかもしれない。

 あとは……あっさり受け入れやがってっていう気持ちも。

 しかも沙綾から求めたって話だ、どうしても差を感じてしまって落ち着かなくなるんだ。

 それだというのに千鶴ときたら……。


「千鶴、相手をしてくれよ」

「もー、いつまでも子ども、きゃっ!?」


 あ、もどかしくてなにかをしたとかじゃない。

 立ってこっちに移動しようとした際に躓いたというだけ。


「大丈夫か?」

「う、うん……ありがとう」

「あと、子どもじゃないぞ」

「わ、分かってる……」


 所詮、本命とは無理になったからというのは分かっている。

 俺もそうだから分かるんだ、でももうそれだけじゃない。


「ほら、普段運動していて筋肉もついている千鶴だって持ち上げることができるぞ」

「お、下ろして……分かったから」

「千鶴」

「あ、そっちも……うん」


 急がせるようで申し訳ないが、もう沙綾のときみたいな風にはしたくないんだ。

 適当じゃない、俺はちゃんと区切りをつけて千鶴を見るって決めたんだ。

 勝から任されたというのも影響している。

 でも、兄である勝に言われたからじゃ千鶴だって不安になるだろう。

 だからいまはあくまで俺の意思で千鶴といるんだ。


「千鶴、相手になってくれるか?」

「……うん」

「ありがとな」


 勝より求められるような存在になれるなんて自惚れてはいない。

 あいつは普通にいい奴だし、普通に俺も好きだからそんなことは考えなくていい。


「あ、道くんも育ててよっ」

「えぇ」


 ただまあ、千鶴のマイペースさには少し引っかかるところはあったがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る