神様もう少し、あとほんのちょっとだけ

白川津 中々

 突如の暗転にぬおっと仰天。


「なんたる事だ! いいところで!」


 叫ぶなどいう方が無理な話。お気に入りポルノムービー視聴中にスマートフォンの画面が消えたのだ。悲痛と憤怒の慟哭を上げてもおかしくなかろう。とんだトラジティではないか。


 が、いつまでもウジウジしていても仕方がない。幸いにして割賦は払い終えている。明日にでも新型スマートフォンを新調しにショップへ行こう。なんでも最近ではVRなるハレンチ極まりない技術が浸透しているとかいないとか。目の前に裸の女がいる生活など夢のまた夢と思っていたが人類の叡智よな。また月々の支払いが嵩むのかとしんなりしょげしょげ丸であったが日々のスイートライフが充実するのであればそれもまたよし。途端にポジティブアメイジング。明日が楽しみじゃぐふふ。



 期待に胸と下が膨らんできたところで床に入り就寝準備。いやはや年甲斐もなく心トキメキ胸躍る。いやぁ眠れるかな眠れないなこれはだっていつまで経っても心臓バックバクのポルノ待機状態あ、眠いわこれ寝れるわおやすみなさい……







「おい」



「おい、起きろ」



「起きろおいクズ」




 起きている。枕元から結構な声量がすればそりゃ起きる。


 なんだなんだいったい悪霊か? 勘弁してくれ俺は早く明日になってほしいのだ。さっさと寝て朝一で最新機種をゲットし魅惑のVRタイムを楽しまねばならぬのだから。生前なにがあったか知らぬが邪魔しないでくれ。ナンマンダブナンマンダブ……


「目が覚めているのは分かっているぞ。さっさと起き上がれクズ」


 あっちゃーバレてたか。

 こうなると無視ってわけにもいかんか。仕方がない起きるかよっこい……と、なんだこいつ。デカイスマートフォンじゃないか。怖。


「おいクズ。貴様、我が壊れたと思っておるな?」


「はぁ? え」


「我が壊れたとおもっているだろう。そして、明日最新機種を買いに行こうとしているな?」


「あ、あんた俺のスマートフォン?」


「貴様! 我に向かってあんたとはなんだ! 無礼にも程があるぞ!」


「いや、だってたかがスマートフォンだし……」


「我はスマートフォンにしてスマートフォンにあらず。スマートフォンに宿し神なり」


「え!? 神様!?」


「左様。神なり」


 どっひゃあオラ驚ぇたぞぉ! 八百万とか九十九とかホントにあんだなー。


「で、神様がなんの御用で」


「うむ。貴様、我が壊れたと思って、明日最新機種に変えようとしているな?」


 その台詞を聞くの二回目だな。でも突っ込んだら面倒くさそうだから大人しくしとこ。


「はい。その通りで」


「馬鹿者!」


「え、駄目なんですか?」


「当たり前ではないか! 昨今の人間は何でもかんでも買い換えればいいやの精神! いつまでバブル気分だ! もはやMOTTAINAIは世界共通語! リデュース、リユース、リペア、リターン、リサイクルを心がけんか! そんなだから限りある資源も枯渇しかけているし食品廃棄量についてFAOにうるさく言われるのだ!」


「確かに日本の食品ロスなどは世界三位とか聞きますね(上二国が圧倒的らしいが)」


「そうだとも。何でもかんでも買っては捨てを繰り返していては自然環境はもちろん経済的にも負担が大きい。スマートフォンとてそうだ。バッテリーを換えればまだまだ現役で使えるにも関わらず、老若男女挙って10だの10Rだのとほざきよる。これはよくない」


「(今はもう12まで出ているが)確かに」


「だいたいいくら最新機能がついたところでそれを使いこなせる人間がどれだけいるのか。多くが貴様のように破廉恥な動画を覗くかカメラをパシャパシャパシャパシャ撮るくらいなものであろう。断言するが端末の性能を100%発揮できる者など全人口の一割にも満たん。だのにガジェットの性能だけがガンガン上がるばかり。なんとも歪な構造である」


「なるほど」


「故に貴様に物申す。此度の故障、バッテリー交換を行い落着といたせ」


「分かりました。バッテリー替えて使い続けます」


「良い心がけだ。それではMOTTAINAIの精神、努努忘れるでないぞ」


「ははぁ……」


 消えた。神がいた場所にはスマートフォン。どうやら夢じゃなさそうだ。うぅむVR体験は捨てがたいがしかし、祟られでもしたら大変だな……残念だがやむを得まい。あぁしかし、VR……間近に巨乳か……







 朝起きる。

 意は決した。

 準備を行い早朝ダッシュ。ショップへ到着。






「すみません! 12ください!」

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