スマホ オーバークロック! ~ヒーロー誕生~

三枝 優

ヒーロー誕生

注意:この作品は違法行為を推奨するものではありません。

    スマートフォンを分解したり改造することは違法行為です。

    絶対にやめてください。



「英治にいちゃん!おはよう!」

 朝、新聞を取りに郵便受けのところに来たら、隣の家の安藤美緒に挨拶された。

 え?ヒロイン? それはないよ。

 美緒ちゃんは小学校2年生。まだ子供だ。ロリコンじゃないし。


「あぁ・・美緒ちゃん。おはよう・・」

 土曜日の朝。物凄く眠い。立っていても寝ちゃいそうだ。


 徹夜明けだった。


 時田 英治は高校2年生。だからと言って勉強で徹夜したわけではない。

 最近、はまっていることに夢中になっていたら朝になってしまったのだ。


 機種変更する前に使っていたスマホ。Wifiで通信するだけのその古いスマホを、ちょっといじって遊んでみようと思っただけだった。

 いろいろ調べると、クロックアップと言うものがあるらしい。

 クロップアップとは、本来の動作周波数を越えた周波数にすることで、性能を上げること。ただし、電力の消費が激しくなるなどのデメリットはある。


 どうせ、もう使わないスマホだからとネットで検索して調べたやり方試してみた。

 最初は、設定をいじるところから。

 ベンチマークアプリで動作速度を調べると、設定を変えるだけでも速くなることが数字で見ることができた。

 結果が数字で見ることができると、楽しくなる。

 それからは、いろいろ調べてやってみることの繰り返し。


 クロックアップのアプリを入れてみたり。

 ファームウェアを書き換えたり。


 それによって、どんどん速くなる動作速度。

 やるたびに数字で表れる結果。すっかりはまった。


 やがて、調べているうちに怪しいサイトを見つけてしまった。

 東欧のある国の個人サイトらしい。翻訳をかけて読んでみた。

 ”スマホを分解して、CPUにアクセラレーターチップを取り付けることで物凄く速くなりますよ。今ならそのチップを150ドルで売ります。ただし、はんだ付けとかの必要がありますので自己責任で実施ください。”

 正直、高校生には安くない値段。


 でも、ついついクリックしてしまった。


 そして、そのチップが昨日届いた。

 英治は、一晩かけて、スマホを分解してルーペを使いながらチップをはんだ付けした。


 ちなみに、チップを取り付けるだけでは済まなかった。

 電源を入れると、USBケーブルから煙が出てきた。電流が大きくなりすぎたのだ。

 USBケーブルでの電源供給をやめ、AC電源から直接太い電源ケーブルを基板にはんだ付け。

 こんどはCPUがやけどするくらいに熱くなった。

 ベルチェ素子を張り付けて、ヒートシンクを取り付けた。


 その結果、朝になってしまったのだ。


「もう、これはスマートフォンじゃないよなあ・・・」


 部屋に戻った英治は、徹夜仕事の結果を見てつぶやいた。

 太い電源ケーブルでAC電源に直接つながっている。背面には巨大なヒートシンクが張り付いている。

 スマートでもなければ電話機能もない。もやは携帯することはできない。


 それでもまぁ、徹夜仕事の結果を確認できるだろう。

 どれだけ高速になったか、ワクワクしながらスマホを起動した。

 ベンチマークアプリを立ち上げて速度をチェックする。


 結果は!!


「マジか・・・」


 まさかの測定不能。

 徹夜した結果がこれかよ・・・。チップ代・・・損した。

 あぁ・・・畜生・・・

 他のベンチマークアプリを探そうかな・・・



 やる気を失ったのでなんとなくニュースでも見て気持ちを落ち着けようと考えた。

 いつも使っている、ニュースアプリを起動してチェックする。

 なんだか違和感を感じた。


 あれ?


 さっき見た新聞の表紙と書いてあることが違うじゃないか。

 新聞を持ってきて、比べてみる。

 ・・・・書いてあることが全然違う。


 新聞では、政府と野党が今日会議をすると書いてある。一方、アプリではその会議が決裂したと書いている。


 なんだこれ・・・?


 よくよく、アプリの記事をチェックすると、ある部分が異常であることに気が付いた。



 更新日時が・・・明日の日付。つまり未来の日付になっている!



 不思議に思ったが、英治は睡魔に負けてそのあと夕方まで眠った。

 夜、TVのニュースを見ると政府と野党の会議が決裂したと報道していた。



 マジか・・・当たったよ。

 つまり、あのスマホで未来の情報が入手できるということか?

 オーバークロックで、速くなりすぎて時間を飛び越えたってこと?



 やった!

 未来の情報で宝くじやサッカーくじを買えば・・・億万長者だ!

 そう思って、スマホでニュースを検索し始めた。



 どうやら・・・このスマホで知ることのできるのは、18時間程度の未来まで。

 それでも、億万長者は夢ではない!

 まぁ、くじを買うのは来週の木曜か、金曜だろうけど。


 

 そう思いながら、ニュースをチェックしていたら。

 ニュース速報が表示された。

 うちの近所じゃないか・・・。近所の公園で事件?

 なになに?



 英治は、ニュースの文面を見て思考が停止するほど驚いた。

 そのニュースの内容に驚き・茫然とし・悩んだ。

 そしてまた徹夜して悩み考え抜いた結果・・・決心した。




 次の日。日曜日の昼過ぎ。英治は近所の公園に来ていた。



 友達と遊んでいる美緒ちゃんが、てててと走ってやって来た。

「あれえ?英治にいちゃん。公園にいるなんて珍しいね!なにしてんの?」

「やあ、美緒ちゃん。ちょっと、用事があってね」

「ふうん、暇そうだね。一緒に遊ぶ?」

「からかうなよ」

 あはは!と笑って友達のほうに走っていく美緒ちゃん。


 英治はその時、内心はとても緊張していた。

 でも、心に決めたのだ。

 この事件を止められるのは自分だけ。


 ニュースで見た時間、そろそろ事件の発生する時間だ。


 すると、向こうの公園の入り口から男が入って来た。

 黒いジャンパー。中肉中背。大学生くらいの若い男。

 ニュースの通りだ。

 ジャンパーのポケットに手を入れている。


 ふらふらと、男は広場にいる子供たちに近づいていく。


 やがて、ジャンパーのポケットから手を出した。その手には光るものが握られている・・・



「うらあ!!!!!!!」


 英治はその男に走り寄ると、家から持ってきたバットで男の手を殴りつけた。

 その手からナイフが飛んでいく。

 逃げようとする男の足をバットで殴る。

「ぎゃあ!!」

 男は悲鳴を上げて、転がった。

 ぜい・・・ぜい・・・

 英二は緊張と恐怖で真っ青になりながらも、男を取り押さえた。


 騒然とする公園。悲鳴を上げる母親たち。泣き出す子供たち。

 やがてやって来た大勢の警官。


 警官たちによって、その男が取り押さえられた時。英治は達成感と安堵で座り込んでしまった。

 泣きながら美緒ちゃんが走って来て抱き着いてくる。

 その頭をなでながら、思った。


 ”やったぞ・・・俺は守ることができたんだ・・”



 英二が見たニュースは、公園で通り魔事件が発生したというもの。

 犠牲になったのは、美緒ちゃん。

 でも、こんなこと誰にも言えやしない。言っても信じないだろう。


 一晩悩んで出した結果が、これ。

 つまり・・・自分が通り魔を退治するということ。


 そして、無事に美緒ちゃんを守ることができた。

 この結果で、未来が変わったのかもしれない。それでも満足だった。


 


 英二は、この時の達成感が忘れられなくなった。

 やがて、未来のニュースを知ることで近所で起こる事件を未然に防ぐようになっていく。

 最初は、交通事故などの小さな事件を直接防いだ。

 だがやがて、自分の手に余る大きな事件は警察へ通報をするようになった。

 

 匿名の通報に使用した名前は・・・”オーバークロック”。


 やがて、どこからともなく情報が洩れて、人々の噂になった。

 匿名のヒーロー”オーバークロック”。

 人知れず、街を守るヒーローの誕生である。

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