スマホとか時代遅れでだせえよな
下垣
スマホが時代遅れになった時代
科学が十分に発達した時代。最初は単なる通話をするだけの機器に過ぎなかった電話も、持ち運べるようになり、電話以外の機能を持つようになった。インターネットに接続したり、音楽を聴いたり、様々なアプリを使って人間の生活を補助してきた。
一時期はスマートフォンというものが流行っていて、これを持っていないと社会では到底暮らしていけない程の扱いを受ける。だが、今ではそんな機械を使っている人間は殆どいない。たまに令和初期、平成後期生まれの老人が使っているくらい。若者はスマートフォンは平成で生まれて令和で絶滅した化石かなにかだと思っているのだ。
そんな中、この時代にスマホを使っている1人の女子高校生がいた。彼女はスマホを使って、なにやら音楽を聴いているようだ。
スマホで聴ける音楽と言っても、どれも古い時代のものばかりだ。最近リリースされた若者に人気の曲なんて聴くことはできない。音楽のダウンロードサービスも終了しているし、かつては課金が社会問題となったスマホゲームのアプリも運営していない。スマホでできるゲームも本当に数が限られていて、オフラインでできるゲームだけだ。ソーシャルゲームの運営は次世代の端末に受け継がれた。ただ、最近では課金ゲームもやり口が古いと言われているし、全盛期に比べるといくらか規模は縮小している。
「うわ、あいつスマホ持ってる」
「草」
スマホを持っている女子高生に対して周りが揶揄してくる。時代の最先端の象徴である女子高生が前時代のスマホを持っていることがかなり異質に見えているのだ。
だが、女子高生はそんなことにも動じずにスマホを弄っている。
次世代の携帯端末。それは人間の体内に直接生みこまれた電子チップによって、世界中と双方向通信ができるというものだ。つまり、携帯電話を携帯すらなくなったということだ。
いわば改造人間。Androidからアンドロイドというキャッチコピーと共に、この技術は瞬く間に広まった。当初は老人連中が批判をしていたが、あまりの便利さに10年程でシェアが8割を超えるという広がりを見せた。
これにより、生活様式もかなり変化した。チップと脳が直接やりとりすることによって、脳内に音楽が流れる。つまり、どれだけ脳内ボリュームを上げても周囲に音漏れすることはない。周囲への音漏れを気にせず音楽を聴けるのは画期的と言えるだろう。
また、いつでもインターネットに接続可能ということは脳内に巨大なデータベースができたということ。これにより、試験も記憶力を問う問題ではなく、情報を取捨選択して、自身で考える分析力、発想力、洞察力などが求められるようになった。記憶力が良い人間に優位性がなくなったのである。
また、視覚、聴覚情報が常に記憶媒体に保存されることにより、犯罪捜査にも一躍を担っている。目撃者の情報を元にモンタージュ写真を作成する必要もなくなった。単に目撃者の視覚情報を参照すればいいだけなのである。議事録も作成する必要がなくなり、発言の有無。言った言わない等の問題も過去にものになった。
その反面、窃視や盗撮などの犯罪が深刻なものになっている。一瞬でも視界に入れることができたのなら、それを半永久的に保存できる。被害にあった方としてはたまったものじゃない。この技術もいい面ばかりではないのだ。
そして、この技術にはまだ致命的な脆弱性がある。そう。この女子高生はその脆弱性を認識しているからこそスマホを利用しているのだ。
その脆弱性とは、ハッキングである。人間の体内に埋め込まれたチップにアクセスすることで、その人間を思いのままに操ることができるのだ。
人間とチップとのやり取りは、人間が要求して、チップがそれに反応する。その単方向だと思われがちである。だが、実際は違う。チップを何者かがハッキングして、チップの要求したことに対して人間が反応することがあるのだ。
つまり、チップが右手をあげろと命令すれば、人間は自らの意思に反して右手を上げざるを得なくなる。それだけなら、まだ可愛い方であるが、これを応用すれば人間の記憶や感情をいくらでも改ざんできるのだ。
例えば、目の前の相手を好きになれと命令する。そうなれば、例え永遠の愛を誓い合った相手がいたとしても、目の前の相手に魅了されてしまうのだ。
当然、そのような危険な行為はプロテクトされてチップ側からは要求ができない仕様になっている。だが、ハッキングしてそのプロテクトを解除してやればチップ側が人間を支配することが可能なのだ。
チップも厳重なセキュリティによって、様々なハッキングパターンを防ぐように設計されている。だが、完璧な地図を設計することができないように、完璧なプログラムもまた設計することができない。チップのセキュリティパターンは主流なチップ同士でのやりとりばかり記録されている。つまり、利用者がほとんどいなくなった旧世代のスマートフォンからの侵入に対しては警備が手薄になっているのだ。
この女子高生はそのことに目を付けてスマホを利用している。そう。全ては、スマホから他者のチップにアクセスしてその人物そのものをハッキングして意のままに操るために。
女子高生は、このハッキングを使って生活を豊かにしている。要人の思考を読み取って株価を操作したり情報を得てインサイダー取引をして巨万の富を築いているのだ。
また、恋愛面でも意中の相手に自分を好きになるように洗脳したりとやりたい放題なのだ。現に女子高生はこれから、同級生の少年と一緒にデートに向かう途中だった。
だが、そんな女子高生の前に警察官が立ちふさがった。
「キミを不正アクセス禁止法で逮捕する」
「え? ど、どうしてですか!」
「既にハッキングの証拠は挙がっている。これから署でゆっくりと話を聞かせてもらうから」
こうして、スマホを悪用していた女子高生は逮捕されてしまった。旧世代のスマホが新世代のチップに対して脅威になる。そのショッキングなニュースは瞬く間に広がってしまい、全世界を騒がせたのだ。
◇
女子高生が逮捕されたニュースを見て、彼女の恋人だった少年はスマホを弄りながら気怠そうに「あーあ」と呟いた。
「あちゃー。ついに逮捕されちゃったか。まあ想定内なんだけどね。代わりはいくらでもいるし」
少年は、脳内に保存してある女子の写真リストを次々にスライドさせて、ターゲットを見定める。
「次は誰を踏み台にしようかな」
踏み台。第三者のコンピュータを乗っ取り、そこでサイバー攻撃など違法な行為をする用語である。一見すると、被害者であるはずの踏み台にされた者が犯罪行為をしているかのように見える。過去にもこれが原因で誤認逮捕などが発生しているのだ。
そう。逮捕された女子高生は少年によって操られていた。思考も自分の意思でやったかのように改ざんされているのだ。
女子高生は、自身の意思で少年と交際していたと思っていたが、それも全て少年の思惑通りだった。少年が好みの同級生をターゲットにして恋人にしただけである。とは言っても、彼には恋人に対する愛情の欠片もない。自身の欲望を満たすための道具としてしか見ていないのだ。
「あ、そうだ。彼女が残した財産。これも警察に抑えられる前に処分しないとな。あの方の口座に振り込んでおけばいいか」
少年は、あの方の口座に振り込み手続きをした。あの方とは一体何者なのだろうか。それは誰にもわからない。もしかしたら、この少年もあの方に踏み台にされているだけの存在なのかもしれない。
スマホとか時代遅れでだせえよな 下垣 @vasita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます