【KAC20215】俺の頭の中のスマホをあの細くしなやかで艶かしい指で乱暴にタッチされたり優しく撫でられたりしたい。

@dekai3

そういうの早く言えよな、高橋。

――これまでのあらすじ


◆俺

 500年間おうち時間でリモートワーくをして色々と作っては納品していたら、どうやら俺の作った物によって人類の機械化やAIが政治を統治する様になってしまったらしい。俺自身も肉体を捨てて機械の体を手に入れている。最後の納品を終えた時にAIが支配するロボトピアから人類を救うと主張しているレジスタンスに命を狙われ、なんやかんやで高橋と共に500年前に勤務していたオフィスにやってきた。


◆高橋

 自称【魂が肉体という器を凌駕した超越者】で不老不死らしい。実際に目の前で腹に空いた穴が塞がったのを見たのでなんらかの能力者ではある模様。嘘か本当か分からないが世界三大宗教の開祖の偉い人達が持っている謎のDNAを高橋も所持しているとの事。こいつが長期契約の仕事を取ってきたのが全部の現況。


◆山本さん

 等身大フィギュアに取り憑いて500年前の俺と高橋の貝野イトさんを演じていた幽霊のおっさん。全裸。


◆貝野イトさん

 全裸の中年のおっさんが取り憑いていた等身大フィギュアが暫くして自我を持ち始めたらしく、それによりおっさんが取り憑く事が出来なくなって自立して行動を取り始めたとの事。フィギュアと言っても肌の質感や筋肉の動きなんかは人間そっくりだ。今の時代ならともかく、500年前の21世紀でこれだけ人間と代わらない動きをするフィギュアを作るのは不可能とは言わないけどかなり難しいはず。単純に飾るだけのフィギュアならいくらでも作りようがあるけれど、動きまで人間に似せるというのは難しい。だいたいが中に骨格を入れる形になるけれど、基本的に人って歩く時に片方の足に体重がかかるからどうしても足の部品を丈夫にしなくちゃいけなくて脚が太くなる。これを解決するのが3Dプリンターで作る骨格と筋肉を一体化させたり重心のかかる位置を意図的に偏らせりする網目状のパーツなんだけど、これって500年前の最先端の技術だからイトさんが働き始めた期間を考えるとオーパーツになるんだよなぁ…しかも外見だけじゃなくて飲食もしていたから内部もしっかりと作り込んでいるみたいだ。確か花粉症って事で涙や鼻水も出ていたよな?どういう構造をしているんだよ。あー、すごい気になる。山本さんは人形とかフィギュアとか言ってるけど、明らかにそんなレベルじゃないってこれ。俺も人型ロボットや人工筋肉のプロジェクトに関わったってかほぼ俺が作り上げたから分かるんだけど500年前でこれはマジで凄いし、途中メンテナンスはしてるだろうけど500年も保たせているのが凄い。コストパフォーマンスを考えたら数年おきに新しい物を用意した方が楽だし性能も上がるっていうのに、どう見ても当時のままだ。しかも髪も伸びてたんじゃなかったかな?となると有機物で形成されている可能性がある?いや、そうなるとやっぱり500年前に完成されているのがオーパーツすぎる。特にこの眼なんて単なるレンズの組み合わせではなくてまるで本物の…あ、顔逸らされた……あー、山本さんが人形とか言うし無表情だから気にしてなかったけど自我あるんだっけか。人の顔をマジマジと光学ズームで見るのは失礼だよな。というか、今の俺って球体のボディにいくつかカメラを付けて360°見れるようにしてるから顔を向けていた訳じゃないのに、どうして見られている事が分かったんだ?俺のカメラのレンズ一枚一枚の動きを把握した?いやいや、そんな効率が悪い事は普通はしないよな?そんな事をする必要も意味も無い。だとしたらなんだ?高橋や山本さんがさも俺の顔が見える様に話をするのと一緒だろうか。内部にCPUが無さそうなのに自我が芽生えた事も気になるし、これは魂とか生命エネルギーとかのオカルトな話になってくるのかもしれない。実際に100年ぐらい前から魔法と称されている第五元素に法則性を持たせるコマンドが解明されてきているんだからそういうオカルトもあるはず。しかし、こうしてよく見てみると、一見無表情だけど若干眉が寄っていたり口元の閉まりに力が入っているから不安気になっているみたいだな。手もお腹の下辺りで組んでるけど何秒かで組む指の組み合わせを変えたりしているし。しかし、500年前も思ったけどイトさんの指綺麗だよなぁ。白魚の様な指って形容詞があるけど、ほんとそんな感じ。細くすらっとしているのに骨ばっていないでぷっくりとした柔らかそうな肉も付いているという指。そんな指がさっきから何秒かおきにもぞもぞと動いているんだから凄い扇情的。500年前のおっさんが演じていた活発な女の子だったイトさんもあれはあれで良かったけど、この物静かだけど細かい仕草に感情が出ているイトさんもいいな。というかおっさんのは無かった事にしたい。おっさんにときめいたりした過去なんか無い。無いんだ。スマホを操作する時の指の動きがえっちだなぁなんて思ってない。でも、だからこそ逆に今のイトさんにスマホを操作して欲しさはあるなぁ。実は俺のコアユニット内にある本体ってスマホみたいにタッチパネル付いてる板状のモニターなんだよ。それをイトさんの指で操作して欲しい。俺の頭の中のスマホをあの細くしなやかで艶かしい指で乱暴にタッチされたり優しく撫でられたりしたい。ほら、あんな感じに人差し指と中指で組んでいたのを今度は薬指へ……あ、背中側に隠されちゃった……あ、見ていたのバレた?やっぱり俺の視線を把握してる?


[あの…こ、心の声も聞こえてます……]


 顔は無表情のまま、申し訳なさそうな声でそう言うイトさん。


「あ、そのイトちゃんさ、サイコメトリー能力あるみたいだから何考えてるかもろバレになるぞ?」

《その通り!イトちゃんに向けた感情じゃなきゃ分からんみたいだがの!!》

『は???』


 思わず、声が出た。

 いや、待てよ。待て待て。じゃあ俺が指がエロいって思っていたのも…


 そう思いながらイトさんを見ると、少し眉を寄せて申し訳なさそうな顔をして、コクリと頷かれた。


 うわー、おい、おい、あかんて。あかんてそれは。こっちも申し訳ないし、何より恥ずかしい。

 なんだこれ。急に死にたくなってきたわ。あー、もう無理。どっか遠くへ行きてー。そういうの早く言えよな、高橋。

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