廃課金大名 詫石頑奉

ケーエス

【第一章】許さん! 許さんぞ! スマホ一揆だ!

「ほら早く出しやがれ!」

「いやよいやよ!」

「そこにあるんだろ!」

村の役人が若い女の制止を振り切って民家に乱入していく。

「ほら、あるじゃねえか。あるんだったら最初から出せよ!」

村の役人は民家から米俵を抱えて出てきた。

「もう家はこれ以上持たないんです。これ以上年貢が増えたらもう生きていけません」

「しゃあねえんだよ。殿のご命令なんだから」

村の役人はさっさと馬に乗って行ってしまった。

女はしばらくその場で泣き崩れた。



時は江戸時代、浅間山の噴火や長雨、冷害などにより、大飢饉が発生していた。

いわゆる天明の飢饉である。

しかもあろうことかこの時代にしては妙な物体も同時にどこかしら誰が使い始めたかもわからぬままに流通していたのである。

いわゆる「すまほ」というものである。


とある藩の大名、詫石頑奉わびいしがんほうも「すまほ」の使い手であった。立派なお城の自分の寝床で今朝も「すまほげえむ」に勤しんでいる。


「殿、お早うにございます、ややっ殿⁉」

「なんだね?」

「なんですかそれえ?」

家老は頑奉の目の下にできた巨大なくまを凝視した。

「ちょっと、夜更かししただけだ、大丈夫大丈夫」

「また夜更かししたのですか? ちょっとよろしいですか?」

家老は多少強引に頑奉からすまほを奪うと、慣れない手つきでしばらく触っていたが、やがてとある画面を見せつけた。

「殿、また課金しているじゃないですか!」

「ちょっとだけだ。ちょっとだけ」

頑奉は指で小銭の形を作った。

「殿……」



『ええ、こんな大飢饉のときに?』

『まじかよ』

『信じられない!』

社会的情報用役SNSのひとつである呟き小箱には大量の批判的な投稿が寄せられた。

斎衛門もそれを見ながら苦虫をかむような表情をしていた。


どうして自分たちの殿はこんなにも年貢を上げようとするのだろう?

ただでさえ作物をとれない状態なのに。

年貢を上げれば民が苦しむだけなのに……。


『俺、理由を聞きに行ってくる』

斎衛門はそう呟いて家を出た。


「え? 殿が廃課金者に⁉」

「こら、あんまり大きな声を出すな」

村の役人は人差し指を唇の前で立てた。

「俺たちが必死に作った米がそんなことのために使われてるっていうのかよ⁉」

「残念ながら……そういうことなんだよ。仕方ないだろ」

「仕方ないってどういうことだよ! おかしいと思わないのかよ!」

斎衛門は向かいあっている村役人の胸ぐらをつかんだ。

「おいおい、お役人様にそんなことしていいのか?」

斎衛門はつかんでいた手を離し、うつむいた。

「ぐぬぅ……」

「この世界じゃ上に立つ者の命令は絶対だ。わかってるよな?」

「……」

「わかってるんだったらとっとと帰って畑でも耕せ」

斎衛門はうつむいたまま、しかし拳を強く握りしめて役場を出ていった。


斎衛門は家に帰ると村一の美女とも噂されるみやに呟き小箱で直便DMを送った。


『ちょっとすまないか』

『どうしたの? わざわざ羅印じゃなくてこっちに送ってくるなんて』

『長老の家の前に集合するようにみんなに呼び掛けてほしいんだ』

『まあいいけど』


斎衛門の貧弱な支援者フォロワー数では村中の人間に呟きを見てもらうことはできない。

だからこそ『おはよー』と呟くだけで六百いいねを獲得する人気者インフルエンサーのみやに協力してもらうのである。


みやの呼びかけですぐに村中の男たちが集まってきた。

その後に女やこどももやってくる。


「みなさん今日はお集り頂きありがとうございます! こちらの斎衛門からみなさんにお話しがあります!」


なんだみやがなんか話すんじゃねえのかよ、俺帰ろうかなという声がして

みんなが帰りだした。


これはまずい。どうすればいいんだ……。


斎衛門が頭を抱えていると、

「みなさんちゃんと斎衛門の話を聞いてあげて!」

とみやが叫んでくれたのでみんな留まってくれた。


「ありがとうみや」

「別に、どういたしまして」

みやはそのまま脇に退いた。


いつ見てもきれいだな……。同い年でこんなに差がつくもんかね。

あ、そうだ言わないと。


斎衛門は鼻からしっかり息を吸い、激白した。


「俺たちの殿は廃課金者なんです!」


ええ? まじかよ、そんなわけないじゃんという声があちこちで聞かれた。


「村役場のやつが言ってんだ、間違いない。殿は俺たちが納めた年貢ですまほげえむに課金しまくってるんだよ!」


はあ、うちの殿が? 本当に? 

こいつ目立ちたいだけだろという声が聴かれた。


「このままじゃみんな苦しい思いをするだけだ!だから――」


斎衛門は聴衆を見渡した。もう帰ってしまった人間もいる。


「一揆を起こそう。将軍様に直訴して年貢を使って廃課金するのを

やめさせよう!」


斎衛門は右の拳を高く突き上げた。しかし誰も突き上げる者はいなかった。

逆にみんなが一斉に笑い出したのだ。


おもしれえ、ばっかじゃないの、くだらねえ、とんだほら噺だぜ。


みんなあきれかえって帰っていく。

「待って、みんな待って! なんで? 信じてくれないんだよ!」

斎衛門の叫びもむなしく、みんな帰ってしまい、のこるはみやと一人の青年だけとなった。


「斎衛門」

「なんだみや?」

「炎上確定だね」

「やかましいわ」

「そんなことないぜ」

ひざをつき、空を見上げっぱなしの斎衛門を覗き込むようにして現れた青年は斎衛門の親友小太郎である。

「俺は信じるぜ。相棒」

小太郎が差し出した手を握りしめ、斎衛門が立ち上がった。


「一緒に江戸まで行こう、直訴しにな」

「ほんとにあんたたち仲いいよね。まああたしも年貢のことは信じるけどね」

「小太郎、みや……」


斎衛門は二人との絆の強さを改めて嚙み締めるのであった。




家老が再び頑奉の元へやってきた。

「殿、とある村の役人からこんな情報が」

「どうした? 今周回ぷれいに忙しいから後にしてくれないか?」

頑奉は未だにすまほから頑なに目を離していない。

もう昼だというのに。


「いや緊急ですので読み上げます。どうやら一揆が予定されているとか」

「一揆? 農民たちが蜂起を起こす?」

「元々はそうですが今は武力行使というよりかは将軍様に直訴するのが主流なのです」

「それがどうしたんだ? あ! やられた……」

殿はようやくすまほを置いて頭をかきむしったかと思ったが、再びすまほを手にとり遊び始めた。

「もし村人の直訴が将軍様に届いたらどうなると思います?」

「どうなる……」

頑奉はすまほの画面を見つめながら固まった。

考えているのか、考えているふりをしているのか……?


「殿、間違いなく年貢を上げた理由を聞かれます。そして実際にどう使われているのかしっかり調べあげられるでしょう。当然殿のすまほも。そしたら……」

頑奉の顔が真っ青になった。何千石も課金に使ったことがばれてしまう。

そんなことをしたら……


「将軍様に処分を食らってしまう! 最悪、領地を取り上げられるかもしれん!食い止めねば! それで誰が計画している?」

「こやつです」

家老が自分のすまほの画面を見せた。

呟き小箱の画面だ。


――――――――――――――――――――

さいえもん@頑奉様の村男


直訴の準備なう


#一揆 #一か八か #やってやるぜ

💭0 🔁0 ♡2

――――――――――――――――――――


「こいつだな」

「こいつですね」

二人はすまほの便利さに改めて感謝するのであった。



















※無料で遊べるのはここ(第一章)までです。

 第二章も続けて遊びたい方は章ごとに500円ずつ課金して頂きます。


第二章 ¥500

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