第3話 船員たち

「みんな、僕の呼び掛けに集まってくれてありがとう。」


 グリシャは、穏やかな口調で集まった船員に声をかけた。集まった船員は俺を含め8人。それぞれがテーブルの席に着き、グリシャの話を聞いている。


「早速なんだが、本題に入らせてもらうよ。先ほど、ファイブG号は、モバイル号からの救難信号を受け取り、モバイル号の船長アレクセイを救助することに成功した。」


「結局助けたのかよ。救難信号を放つやつなんか、見捨てとけばいいのによ。」


 粗野な口調でグリシャの話に割り込む声が聞こえてくる。俺は声のする方へと視線を向けた。そこには大柄、いや、かなりお腹が出た、頭を光らせる男がふんぞり返っていた。よく見ると、趣味の悪い装飾品を首に、腕に、指にと身に付けている。


「ストップだよ、エドガー。みんなで助ける方針になったじゃないか。和を乱すのはやめにしよう。」


「ケッ!」


 冷たい視線がエドガーに注がれ、テーブルには嫌な空気が流れる。


(なるほど、俺の乗船をよく思わないやつもいるんだな。特にエドガーっていう、趣味の悪そうなデブは注意しておこう。)


 そんなことを思っていると、グリシャが目で「すまない」と訴えかけてきていた。俺はその視線に、手を掲げて「大丈夫だ」という意を伝える。


(グリシャみたいな人がいてくれると助かるな。)


「話を続けるよ。この宇宙船にはアレクセイが加わり、8人の船員がいることになった。アレクセイの技量次第だが、ミッションも順調に進めることができるかもしれない。そこで、もう一度ミッションを振り分けるためにも、お互い自己紹介をしておこうと思うのだけど、どうかな?」


 グリシャの提案に、首を縦にふる者や賛成の声を上げる者、舌打ちする者といった十人十色の反応を示す。客観的に見ていても、グリシャの提案に賛成している者が多そうだ。


「みんな反応ありがとう。じゃあ、お互い自己紹介しようか。まずは僕からいくね。名前はグリシャ。職業は宇宙船の船医をしている、簡単にいうと医者だ。医務室のミッションは任せてくれ。よろしく。」


 パチパチパチ、自然と拍手が起こる。


「次は俺がいかしてもらうぜ。俺はエドガー、宇宙公国アメリカンの貴族だ。職業は貴族、何もしてなくてもお金が入ってくるからな。俺の元にきたい女は大歓迎だぜ、美女に限るけどな。ヒャハハハ!」


(最低だ、コイツは無理だな。あまり関わらないでおこう。)


 下卑た笑い声が、カフェテリアに響く。嫌な空気だ。


「どの面下げて、そんなこと言ってんのよ、このハゲ豚。一生その口閉じてなさいよ。」


 女性特有の場が凍りつくようなトーンで辛辣な言葉が吐き捨てられる。俺は言葉のした方を見る。そこには、金髪ロングの気が強そうな女性がエドガーをゴミを見るような目で見ていた。


「な、何だと貴様!貴族様にそんな口を聞いていいのかな、ん〜。おっ、よく見たら美女じゃないか、金をやるから俺の屋敷に来い!相手にしてやるぜ、ヒャハハ。」


「残念、私も貴族なの。それとあなたみたいな人に寄る女なんて、大がつく程のバカ女しかいないわよ。」


(良くいってくれた、気の強そうな金髪の人。)

 俺は思わず、金髪の女性を応援していた。いや、この状況で応援しない人の方が少ないだろう。


「まぁまぁ、その辺にしとこうか、フレイヤ、エドガー。とりあえず、フレイヤも自己紹介をして。」


「ケッ!」


「わかったわ。私の名前はフレイヤ、さっきも言ったけど、一応貴族よ。職業は宇宙船のオペレーターをしているわ。宇宙船の操作も一通り理解してるし、どのミッションを振られても問題ないわ。」


 貴族と聞いたから、何もできない人なのかと思ったが、かなりの腕前を持っているようで驚いた。まぁ、エドガーの印象が最悪って感じだったから、余計に良く見えたというのもある。


「フレイヤは努力家さんなんだよね〜」


「や、やめなさいっ、デイジー!そ、そんなことないわよ!」


 隣の席の女性から揶揄われたフレイヤは、顔を赤くして、隣の女性に話しかける。


(気の強い人が照れた姿ってかわいいな。)


 俺だけでなく、この場にいる全ての人が思ったことだろう。

 隣の女性は、「ごめん、ごめん」と冗談めかして、フレイヤに謝っていた。さっきまでの空気が嘘のように感じられるほど、和やかな空気が流れている。

 そして、その女性は思い立ったように立ち上がった。


「そうだね、私も自己紹介しないとね。私の名前はデイジー。職業は宇宙船で給仕をしているかな。宇宙船について詳しくはないけど、通信室と保管庫ぐらいのミッションぐらいはこなせると思うよ。よろしくね!」


 そう言い残し、デイジーは席に着いた。オレンジ髪のショートカットで、気持ちが良いくらい元気のある女の子である。元気系とはこの子のことだろう。


「お前も俺の屋敷に来い!もてなしてやるぞ!」


 下品な声を高らかに、エドガーはデイジーを口説きにかかった。これは口説いていると言えるのだろうか。エドガーは一発しばきたい、心の底からそう思ったアレクセイである。


「気持ち悪いから、話しかけないで!ベー!」


(よく言ったデイジー、まだ話したことないけど。)

 ストレートに心に刺さる言葉を投げかけれたエドガーは先ほどよりも、威勢がなくなり、少し落ち込んで見える。誰もが、「ざまーみろ」と内心で思ったことだろう。


「あははは、次はケーシー、いってみようか。」


 苦笑いしたグリシャが中々進まない自己紹介を進行していく。そして、ケーシーと名指しをされた人が立ち上がった。もっさりした黒髪に加えて、少しナヨっとした印象を受ける男性である。


「えっと、僕の名前は、ケーシー、、です。職業は、神父、、です。宗教を広めるために、宇宙船を操縦したりするので、どのミッションでもこなせると、、思います・・・」


 そう言い残し、ケーシーはすぐさま席に着いた。かなり頼りなさそうに見えるが、自力で宇宙船を操縦できるのはすごいことである。なぜなら、宇宙船操縦はかなりの技量がいるからだ。


「ケーシー、ありがとう。君はスゴイんだからもう少し自信を持ってもいいと思うよ。」


グリシャの素直な賞賛にケーシーは、目を合わさずに、俯く。なかなか一筋縄ではいかない性格のようだ。


「次は、私がいかせてもらうわね。私はベル、職業はないわ。強いて言えば、学生ってことぐらいかしら。たまたまこの宇宙船に居合わせた感じだから、機械のことは基本的にわからないわ。ミッションをやるとしても、簡単なやつを振ってほしいわね。あと、そこの太っちょ貴族、あまり関わらないでね。穢れるわ。」


「ケッ、貴様なんてこっちから願い下げだ!」


 赤髪のポニーテールが印象的な女性だ。学生だが、かなり大人びた顔つきをしている。にしてもエドガーは女性陣から全力で嫌われているな。まぁ、俺も嫌っているから人のことは言えないけども。


「あはは、ベルありがとう。次はハイジだね、よろしく。」


 そう言うと、グレーの髪色をした色黒ショートの女性がだるそうに立ち上がった。かなり背も高く、いかにも整備士という雰囲気を漂わせている。色気とは程遠いイメージだ。


「ハイジ、整備士、宇宙船操縦もできる、どのミッションを振られても構わない。」


 それだけ言い終わると、ゆったりと席に座る。堂々とした態度というか、太々しいという印象の方が強い。かなり口数も少なく、職人気質なイメージだ。


「ありがとう。では最後に、アレクセイ、頼めるかな。」


 グリシャがこちらを向いて、立つように促してくる。俺はそれに応えるように、立ち上がった。


「ありがとう、グリシャ。俺の名前は、アレクセイ、職業は惑星冒険家だ。俺の愛機が壊れて、このファイブG号に救助してもらった。この恩は忘れない。宇宙船の扱いは誰にも引けを取らないと自負している。どのミッションを振られてもやり切ってみせるよ。よろしく!」


 俺は勢いよく話を締め括り、席に着いた。船員に様々な感情を抱いていたが、死の淵から救ってもらった感謝だけは忘れてはならないと、改めて感じるのだった。


「みんな、ありがとう。これで少しはお互いのことを知れたと思いたいね。では、ミッションの割り振りことだけど、フレイヤ、ケーシー、ハイジ、アレクセイは何でもできるということで、エンジン、原子炉、セキュリティルーム、ナビゲーションルーム、管理室、酸素ルームをそれぞれで分担し、担当してもらおうかな。早く終われば、他の人のミッションも手伝ってくれても構わないよ。」


4人はそれぞれの反応をするが、どれもこの提案を前向きに捉えているような反応をしている。


「僕は基本医務室のミッションをこなすことにするよ。それが片付けば、他の人の所にも手伝いにいこう。デイジーは、通信室と保管庫を中心に、エドガーとベルは、わからないことも多いから、フレイヤ、ケーシー、ハイジ、アレクセイについて行き、補助的な役割をしていこう。」


「ちょっと、このハゲ豚がついて来るなんて、耐えられないわ!私以外の人について行ってちょうだいよ!」


「うるせぇ!俺様になびかねー女なんかについて行くかよ。おい、そこのなよいの俺を案内しろ、そして休ませろ!」


 フレイヤとエドガーは混ぜたらキケンのタイプだな。この二人が揃うと嫌なことが起きそうでならない。


(ケーシーだったか。エドガーにこき使われそうになったら少しは手助けしよう。有能な人が上手く動けないのは良くないからな。)


 俺はそう心に決め、エドガーに足蹴にされているケーシーに視線を向ける。


「それじゃあ、みんな動き始めようか!」


 グリシャが声をかけると、8人は各々に動き出し、ミッションに向かうのだった。


 今振り返って思うと、この時点で俺は、宇宙船ファイブG号の状況にもっと早く気づくべきだったのだろう。なぜ、ミッションを行わなければならないのか。どんな面倒事が起きているのか。


 気づいていれば、あのような惨劇を免れたのかも知れないのに、、、

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宇宙船サスペンス〜異星人、殺して、騙して、暴かれる〜 池阿 似鳥 @02Face-yato-19

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