もしかしてスマホって、スマイルホッケーの略じゃない?
秋山機竜
スマイルください
「スマイルください」
それはマ●ドナ●ドの受付業務における敵であった。
「お客様、現在ピークタイムですので、ご遠慮ください」
「はぁ、だったらメニューに書いてるスマイル0円は嘘なのかよ」
――このクソガキぶっ殺すぞ。
という歴代アルバイトたちによる怨念が、とある競技を生み出した。
【スマイルホッケー】
スマイル0円の笑顔を維持したままエアホッケーを行う、新しいスポーツである。
怨念が生み出しただけあって、優勝すれば、一生遊んで暮らせるほどの高額賞金が手に入る。
開催は年に一回だけ。参加資格は、マック/マクド/アルバイター経験者であること。
他の条件は、一切問わない。きたれ、次世代の怨念ファイターよ。
● ● ● ● ● ●
運命の日がやってきた。年に一度しか開催されない、伝説のイベント。怨念の、怨念による、怨念のための大会。
怨念が、おんねん。
開催の挨拶が、寒いオヤジギャグで始まるのに、なぜか賞金だけは熱いことで有名だった。
試合会場は、都内にあるゲームセンターの特設コーナーにて。
マック/マクド/アルバイターたちによる、激しいストレス解消もとい競技が行われていた。
「うらぁああああ! お客様満足度ナンバーワン(当社調べ)スマーッシュ!!!」
アルバイトAによる、ただの右手打ちが炸裂した。文字通り、ただ右腕を振って、パックを打ち出しただけだ。
しかも対戦相手には普通に打ち返されていた。
だがしかし、絶妙な営業スマイルを維持したまま、スマッシュを打ち込んだので、
ぴろんっと得点が追加された。
対戦相手は、絶句した。
「あいつ、あんな激しい口調なのに、なんでスマイル0円を維持できるんだ……!」
対戦相手は、ただの右手打ちに敗北して、トーナメントから脱落していった。
アルバイトAは、ガッツポーズになった。
彼は、現役の男子高校生だった。スマートフォンの通信料を払うために、アルバイトしている。
だが勤務先に不満があった。可愛い女の子なんていないし、給料は安いし、こき使われるし、社員は頭が悪いし。
高額賞金を手に入れて、さっさと辞めたい。それどころか、あのムカツク社員の頬を札束で叩いてやりたい。
この大会、絶対に優勝してやる。
そう誓ったアルバイトAだが、次の対戦相手が決まった。
アルバイトCである。彼女は現役の女子大生であった。学費の足しにしようとアルバイトを始めたわけだが、社員がまともに働かない店舗にいるせいで、かなりストレスがたまっていた。
「こんなバカみたいなゲームさぁ、賞金がかかってなきゃ、やらないわけよ」
彼女の全身から、真っ黒いオーラが漏れていた。強烈なストレスである。だが恐ろしいことに、彼女は完璧な営業スマイルを維持している。
アルバイトAは、ごくりと息を飲みこんだ。彼女が発するマク●ナル●と、そのクソ客たちに対する怒りが、高額賞金への渇望に繋がっているのだ。
だがアルバイトAとて、高額賞金のためなら、社長だって殺す覚悟を持っていた。
金のためなら、なんだってやる。それがマック/マクド/アルバイターだ。
「勝負だ、アルバイトC」
アルバイトAは、手のひらに、パックを乗せた。
「どきなさい、アルバイトA。どうせあんたには、この高額賞金の使い道なんてないでしょ」
アルバイトCは、パックを打ち返すための道具・マレットを握った。
「ある! ガンプラと、ゲームと、アニメと、漫画&ライトノベルだ!」
アルバイトAは、かこんっとパックを打ち出した。
「ふざけんな! クソオタク!」
アルバイトCは、真っ黒い笑顔を維持したまま、パックを打ち返した。
「そういうお前は、なにに使うつもりだ!」
「イケメン芸能人と、二・五次元ミュージカルと、戦国グッズ」
「俺と五十歩百歩じゃねぇか!」
まさしく五十歩百歩の醜い争いが、スマイル0円を維持したまま、繰り広げられていた。
だが、この大会で優勝すれば、一生遊んで暮らせるだけの賞金が手に入る。
どんな綺麗ごとだってお荷物だし、どんな汚い手段だって正当化される。
要は、相手の笑顔を崩してしまえば、それだけで勝てるのだ。
それは皮肉にも、マック/マクド/アルバイターの敵である、ピークタイムにスマイル0円を要求することと、相似であった。
アルバイトAは、どこからともなく、イケメン芸能人の写真を取り出した。
「あ、顔面しか取り柄のないダメダメ芸能人の写真だ! とりあえず犬のうんこでも、なすりつけておこうかなぁ」
アルバイトCは、ほんの一瞬だけ、怒りそうになった。だが、深呼吸一発で、営業スマイルを維持。カウンターでガンプラを取り出した。
マラサイである。それもカクリコンが乗っていたやつ。
「これは壊し買いのあるプラスティックのおもちゃね」
ばきんっと踏みつぶしたのである。
「アメリアあああああああああ!」
と、アルバイトAは叫びつつも、営業スマイルだけは維持した。そうしないと高額賞金が手に入らないからである。
そう、すべては金のためであった。
金さえ手に入るなら、なんだってやるアウトローであった。
高額賞金は、人の心を、惑わせるものだ。
二人とも、とっくの昔に境界線を踏み越えていた。
いきなり、まったく同じ手段で、相手を脅したのである。それぞれのスマートフォンには、相手の家族の写真が入っていた。
「「お前の家族の命が惜しければ、いますぐ笑顔を捨てて降参しろ!」」
二人とも誘拐の罪で普通に逮捕された。
こうしてスマホことスマイルホッケーは法律で禁止され、マック/マクド/アルバイターたちの恨みは虚空をさまようことになったとさ。おしまい。
もしかしてスマホって、スマイルホッケーの略じゃない? 秋山機竜 @akiryu
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