カンパニュラが揺れる夜に

有理

「カンパニュラが揺れる夜に」


門崎 幸 :

(さどさき ゆき)

潮田 美里 :

(しおた みさと)



※最後のセリフは、どちらが言っても構いません。

2人で重ねてもいいですし、前と後ろで分けて言ってもいいかもしれません。

演者のお2人にお任せいたします。



………………………………………


美里N「花貫コーポ2棟、304号、突き当たりの角部屋」


幸「美里。」


美里N「私はこの部屋で何度も」



幸(たいとるこーる)「カンパニュラが揺れる夜に」



…………………………………………


美里「幸ー?いい加減に起きないと遅刻するよ?」

幸「んー」

美里「幸ちゃん、今日の朝ごはんはパンケーキだよ」

幸「…え、」

美里「安売りしてた苺もつけてるよ!」

幸「いちごー」

美里「ほらほら起きて食べなきゃ」

幸「おきるー!」


美里N「幸が布団から這いずり出た後、窓を開けて布団を整える。まだ残る幸の温度が温かい。」


幸「美里は?もう食べたの?」

美里「食べたよ」

幸「えー!一緒に食べたかったー」

美里「早く起きないからでしょ?」

幸「ね、苺何個食べた?」

美里「え?同じ数だよ?」

幸「あーん」

美里「え?あ、あーん…ん!」

幸「美味しい?」

美里「う、うん」

幸「買ってきてくれたお礼!」

美里「あ、ありがと」


美里N「幸の白くて細い指に赤い露が光った。」


幸「今日お仕事何時までー?」

美里「今日は打ち合わせ夕方からだから遅いかも。」

幸「私も今日夕方から案件あるんだー。帰り一緒にならないかな?」

美里「終わったら連絡するね!ご飯食べに行こっか」

幸「うん!」

美里「何食べたい?」

幸「駅前にイタリアンできたって営業課の子が言ってた。」

美里「あ、いいね。そこにする?」

幸「うん。」

美里「幸、何食べる?」

幸「エスカルゴ」

美里「え?売ってるかなあ」

幸「じゃあムール貝の酒蒸し!」

美里「うわーあるかなあ」

幸「嘘。美里と行けるならなんでもいいよ。」

美里「最近外食してなかったもんね。」

幸「…うん。」


美里N「家賃が勿体ないから、とルームシェアを始めた私達。もう随分経つこの生活、私は幸の好意にずっと応えないでいる。一線をずっと越えられないでいる。」


幸「美里、もう行くの?」

美里「うん。打ち合わせまでに資料作らなきゃだし。」

幸「そっか。行ってらっしゃい」

美里「行ってきます。また連絡するね。」

幸「ん。」


美里部屋から出ていく。


幸N「美里が出ていくと2DKのこの部屋は酷く広くなる。人差し指に纏わりつく果糖をあの子の代わりに舐めとった。」



…………………………………………………


イルミネーション、人混み、駅前


幸「あ!美里ー!」

美里「幸!お待たせー!」

幸「全然待ってないよ。お疲れ様!」

美里「お疲れ様ー」

幸「打ち合わせ早かったね」

美里「結局企画決まんなくってさ、来週まで持ち越し」

幸「美里の会社、それ多いよね。」

美里「優柔不断だからねみんな。」

幸「ふーん。」

美里「幸のとこの案件は?先月から詰めてたやつでしょ?」

幸「うんー。決まったよー。」

美里「さすがだね。」

幸「あんだけ時間かかったんだもん。うちの締切2ヶ月だし。取れなかったら暴れる。」

美里「珍しく苦戦してたもんね。」

幸「踏ん切りのつかない社長でさ。ご子息の一押しでようやく。」

美里「はは。でも、おめでとう!」

幸「美里もー。1週間お疲れ様。」

美里「今日はさ、飲んじゃう?」

幸「え?最初からそのつもりだったよ?」

美里「奮発しちゃおう。」

幸「そだね。」


店内


美里・幸「かんぱーい。」

幸「エスカルゴあったね!」

美里「本当ね。私食べたことない。」

幸「そうなの?ファミレスでも取り扱ってるとこあるのに。」

美里「だってカタツムリでしょ?」

幸「んー」

美里「なんか、もう、インパクト強くってさ。」

幸「美里食わず嫌い多いよね。」

美里「いや、そんなことないけどさ。頼まないなー」

幸「食べてみたら?」

美里「えー。」

幸「また食べたい!ってなるかもよ?」

美里「また、今度にする。」

幸「今度って?」

美里「次、幸とここにきたら食べる!」

幸「ふふ、約束ね」

美里「そうだね。」


美里N「2本目のデキャンタが空になった頃、目の据わった幸がこう言った」


幸「部屋で二次会しよ」


美里N「私も大分回ってきて、そのまま何品かテイクアウトして、店を出たのが23時頃だった。」


…………………………………………………


花貫コーポ、2棟、304号


美里「っ、あ、何、ゆっ幸、」

幸「なに」

美里「な、なにして、」

幸「一押し。」

美里「ちょっと、酔いすぎ、」

幸「酔ってるよ。」


幸「酔ってないと、我慢しちゃうから。」


美里「な、なにを」

幸「気づいてるんでしょ。美里」

美里「気づくって、何に」

幸「…まどろっこしいな。」


玄関で美里に馬乗りになっている幸


幸「美里のこと、好きだってこと。」

美里「な、」

幸「去年の夏にも言った。はぐらかされたけど。」

美里「ゆき、」

幸「ねえ。いつまで?」

美里「ちょっと、手、入れないで」

幸「嫌いなら拒絶したらいい。」

美里「ん、」

幸「突き放せばいい。」

美里「や、やだ」

幸「なんで、そうしてくれないの?」

美里「それ、は」

幸「美里。」


美里N「彼女の滑らかな指は私の服と肌の摩擦を邪魔する。フローリングにぽたぽたと落ちた雫を見てはっと顔を上げる。そこにはぼろぼろ泣く幸がいた。」


幸「なんでよ。幸のこときらい?」

美里「ち、ちがうよ。」

幸「なんで?ねえ、なんで?」

美里「幸、落ち着いて。とりあえず、あがろ?」

幸「好きなの。美里。」

美里「幸、」

幸「好きなの、美里。ごめん、ごめんね。」

美里「…わ、たしも。」


美里「わたし、も。幸が好きだよ。」

幸「…え」


美里N「去年の夏。屋台の焼き鳥は食べたいけど、花火の人混みに行くのは嫌だ、という幸の提案で花火が上がるずっと前に屋台に行き各々好きなものを買って2人で帰った。部屋から花火は全く見えなかったが、音だけが聞こえ逆に風情があるね、何て言ってしこたま飲んだ。」


幸「ね、美里は彼氏作らないの?」

美里「えー。そうだねー。長くいないね」

幸「なんで?」

美里「別にー。今のままで幸せだし私」

幸「ふーん。私もおんなじ。」

美里「もうずいぶん経つね。このアパートに来て。」

幸「そうだねー。一昨年の春に引っ越してきたから、3年目?」

美里「え、待って私達3年も彼氏いないの?」

幸「そうなるね」

美里「処女に戻ったんじゃない?」

幸「ふふ、そうかも。」

美里「はーあ。3年かあ」

幸「…3年だね。」


美里N「空になったワイン越しに、幸の顔が見える。酔って潤んでいるはずの瞳は伏せられたまつ毛でよく見えなかった。」


幸「もう、仕方ないからさ、私と付き合っちゃえば?」


美里N「冗談だと思ってた。ううん。思いたかった。」


幸「私、美里のこと好きだしさ。」


美里N「言葉が喉につっかえて、否定も肯定もできなかった。」


幸「ね、聞いてる?」


美里「え、あ、ごめん、ぼーっとしてた」

幸「一世一代の大告白だったってのに!もー。」

美里「えー?あー、もう2時だよ?」

幸「ほんとだー。片付けよっか。」

美里「そうだね。」


美里N「助かったと思った。花火の音も、車の音も、もう外は静まってなにも聞こえない。だから私も聞かなかったことにしよう。このまま、私と幸の距離はこのままがいい。そうやってあの日。私は幸から逃げた。」


幸「ベット。いこう。」


美里N「だから、あの日逃げた罰だと思った。」


美里「うん。」


美里N「その夜は、ただ気持ちよくて、でも苦しくて、やっぱり気持ちよくって。夢中だった。背徳感がそうさせるのか、それとも幸だからなのか。ぐちゃぐちゃで、ふわふわして、気持ちよくて。気がついたら、荷物を抱えて部屋を飛び出していた。」


………………………………………………………


幸「あ、」


幸N「目が覚めたら、変に片付いた部屋とベットサイドに水が置いてあった。まだぐらぐら揺れる頭の中で散り散りになっている記憶の断片を開かない目のままかき集めた。」


幸「あー。私やっちゃったんだな。」


幸N「去年の夏、誤魔化された私の気持ちを、もう言わないでおくつもりだったのに。このまま、美里とはこのままの距離で居続けようと思っていたのに。蓋をして重石を乗せて、鍵付きのドアに閉じ込めてやったはずなのに。溢れ出す後悔と、同時に立ち込める清々しさに私は顔をシーツで覆った。」


幸「ごめん、美里。」


幸N「わたしも、すき。そう言った彼女の口角が、不自然に右側だけ上がっていたのにも気付いていた。それなのに私は、断れない彼女を逆手にとって自分勝手な欲を満たしてしまった。」


幸「ごめん、…。」


幸N「柔らかくて温い、美里の唇の感触だけ、鮮明に覚えていた。」



………………………………………………


美里「…も、もしもし。」

幸「もしもし。美里?」

美里「うん。ごめんね、急に実家に帰らなくちゃいけなくって。」

幸「うん。メッセージ見た。お母さん大丈夫?」

美里「うん、元気だったよ。階段から落ちて利き手骨折しちゃうなんてほんとドジだよね。」

幸「元気ならよかったよ。」

美里「ごめんね、心配かけて。」

幸「ううん。…仕事は?」

美里「明日からリモート。」

幸「あ、しばらく戻れないんだ」

美里「うんー。さすがに利き手だしさ。色々大変かなーって。」

幸「…そうだよね。」

美里「うん。」

幸「何か、私にできることない?」

美里「…、ううん。大丈夫だよ。」

幸「何かあったら言ってね。」

美里「うん。」

幸「美里も無理しないようにね。」

美里「ありがとう。」

幸「…じゃあ、また。」

美里「うん、またね。」


美里N「部屋を飛び出して3日が経った。幸にも会社にも嘘をついた。母にも嘘をついた。あの部屋から、幸から逃げるために私はまた罪を重ねた。」


美里「あーあ。何やってるんだろ。」


美里N「正直幸のことは嫌いじゃなかった。それでも踏み切れないのは世間体のせいだ。ジェンダーレスへの理解がされるようになったと言っても、まだ偏見がつきまとう世の中だ。覚悟が足りない。違う、覚悟する気なんてないんだ。そう思えば思うほど、溢れる幸への罪悪感と仕方がないという思い込ませが強くなった。」


…………………………………………………



幸「決めつけは良くないでしょう。確かにあらゆる問題や不安もあると思います。でもそれってやってみないと分からないでしょう?もちろん対策は必要です。仰る通りだと思います。しかし、このまま他社にやり抜かれるのを待つんですか?一歩、踏み出してみませんか?弊社はそのためにあるのです。どうぞ利用してください。私どもはWin-Winでなければならないのですから。」


幸「今、この場で決めて欲しいとは申しません。せっかくこのような機会を作っていただいたのですから存分に考えられてください。前向きなお返事、お待ちしております。」


幸「社長。お疲れ様です、門崎です。プレゼン終わりましたので今から帰社します。え?ああ、分かりませんね。奥手というか、古臭いというか。してません、してません!脅してませんって。はい。あー、プライベートの方は相変わらずです。いいんですよ、待ってるんですから。はい。2ヶ月経ちました。うちの会社ではもう締め切りすぎてますね。でも、会社じゃないですから。私達。無理矢理っていうの好きじゃないんです。え?な、何ですか!そのリアクション!私だってたまには臆病にもなりますよ。…いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて。たっかーい寿司お願いします。ふふ、お疲れ様です。」


…………………………………………………


美里「あ、はい。え?今メールでお送りしましたよ?え?届いてないですか?あれ?ちょっと確認します」


美里N「慣れないままリモートワークも3ヶ月が過ぎた。あと1日、あと1週間、あと1ヶ月。そうやってすぐに春がきた。幸からの連絡は今月に入ってからぴたりと止んだ。毎日きていた2ヶ月前。1週間に1回きていた1ヶ月前。ついにこなくなった。」


美里「あ、送れてた。何よもう。」


美里N「ホッとすると思ってた。逃げ切れたんだって。だけど実際は、怖くなった。連絡が遠くなるたび、幸の中の私が薄まってるみたいで。怖い。逃げたのは私、今もなお向き合えないでいるのも私。それなのに、無性に幸に会いたくなっていた。会って何を言うわけでもない。むしろ何にも言えないだろう。それでも、幸に会って私をまた焼き付けてやりたくなった。なんて、強情なんだろう。スケジュール帳の1番後ろに挟んだ週末発の夜行バスの切符が酷く熱く感じた。」


……………………………………………


幸「…あ、電気。」


幸N「上司と毎夜のように飲んで、愚痴って、項垂れて。そんな日々で忘れようとしてた頃、1時を回った暗い夜道で304号室のあかりに気がついた。合鍵を持ってる人間なんて1人しかいない。酔った頭でそう考えつくよりも早く私は駆け出していた。」


幸「みさ、と…」


美里「…おかえり、幸。」


美里N「久しぶりに会った幸は、少し痩せていた。目元のメイクも濃い。潤んでいる目から飲んできたことがわかった。」


美里「飲んでたの?」

幸「う、うん。上司と。」

美里「そっか。」


幸・美里「あのさ、」


美里「あ、」

幸「ごめん、なに?」

美里「ううん、幸から。」

幸「あ、うん。えっと、お母さんもう大丈夫なの?」

美里「え、あ、うん。大分。」

幸「そっか。」

美里「うん。」

幸「美里は?」

美里「え?」

幸「美里は?」

美里「や、あの、私は」

幸「何言おうとしてたの?」

美里「あ。そっち…。えっと、何だろ忘れちゃった。」

幸「そっか。」


沈黙


幸「あ、ごめん、なんか飲む?」

美里「え、いいよ。」

幸「ご飯は?食べた?…あ。こんな時間だし食べてるか。今うちに食べられるようなものあんまりなくてさ。ウイスキーしかないや。ごめん。」

美里「じゃあ、いただくよ。それ、」

幸「え、そう?じゃあ。」


グラスに氷とウイスキーを注ぐ幸。


美里「ありがとう。」

幸「こんな時間なのにこんなものしかなくてごめんね。てか、美里こんな時間まで起きて待っててくれたの?」

美里「うん、」

幸「わ、ごめん。連絡してくれればもっと早く帰ったのに。」

美里「なんか、気まずくって。」

幸「あ、そ、そうだよね。ごめん。」

美里「私の方こそごめんね。」

幸「いや。」


沈黙、氷が鳴る音、ウイスキーを注ぐ音。


幸「あのさ、」

美里「なに?」

幸「私が部屋、出て行こうか?」

美里「え?」

幸「私の方が歩合制の分給料いいし、出勤時間も適当だから駅近くなくてもいいしさ。」

美里「あの、」

幸「仕事、ずっとリモートじゃ厳しいでしょ。」

美里「いや、幸」

幸「あ、でも家賃が高いか。もし、美里が嫌じゃなければしばらく援助させて。」

美里「そういうの!…そういうの、は、いいから。」

幸「そ、そうだよね。ごめん。」

美里「…謝ってばっかりだね。」

幸「…こうなったのは、私のせいだし。」

美里「後悔してるってこと?」

幸「そういうわけじゃないけど、でも、そうなのかもしれない。」

美里「なんで?」

幸「なんでって。」

美里「私色々考えて、幸のこと。でも自分でも分かんなくて、会ったら何か分かるかなって。今日。」

幸「うん。」

美里「そもそも、女同士じゃん。」

幸「うん」

美里「私今までそういう経験なかったし。」

幸「私もないよ。」

美里「じゃあ、じゃあ尚更さ。なんで私なの?」

幸「なんでって言われても。」

美里「ただ一緒に住んでるルームメイトじゃいけなかった?そういう、関係じゃないと満足できなかった?」

幸「…んないよ」

美里「なに」

幸「わかんないよ!」


幸「あの関係じゃ満足できないとか、なんで好きになっちゃったのかとか、そんなこと聞かれても分かんないよ!私だってどうして我慢できなかったのか、なんで美里に執着してるのか分かんないんだから!」

美里「な、」

幸「人を好きになるのに理由がいるの?なんで、どうしてって、好きになったもんは仕方ないじゃない。嫌なら遠ざければいい。でも美里はそうしない。それなのに、!すぐに気持ちを消せるほど器用じゃないの私!」

美里「…勝手だよ。幸は。私の気も知らないで!」

幸「知らないよ!分かんないからすれ違ったんじゃん!自分のこともよく分かんないのに人のことなんて分かるわけないでしょ」

美里「だって!私達がそうなったって、外で堂々とできる?偏見の的だよ!お母さんになんて言ったらいいの」

幸「世間がなんだっていうの?関係ないでしょ。」

美里「関係あるよ!普通じゃないんだよ?」

幸「普通って何。」

美里「一般的じゃないってことでしょ」

幸「一般的って何。」

美里「だから、」

幸「私の“すき”は、世間一般の“すき”だよ!」


幸「同じだよ。ただ、相手が同性だっただけ。美里だっただけ。キスがしたいからとか、愛し合いたいからとか。そういうのがしたくて好きだって言ってるんじゃないんだよ。」


美里「…」

幸「私が好きにならなきゃ、よかったって話でしょ」

美里「…」

幸「だから、謝ってんじゃん。」

美里「…」

幸「ごめん。」


美里「…わたし」

幸「なに」

美里「受け止める自信がないよ。」

幸「うん」

美里「でも、でもね。そうやって幸を避けて逃げてきて、でも消えなかった。」

幸「長く居すぎたね。それは情だよ。」

美里「ちがうよ。ちがう、よ。」

幸「もういいんだよ。」

美里「ちが、」

幸「美里は、嘘つくのが下手くそだね」

美里「幸っ、」


抱きつく美里


美里「違う!情なんかじゃない。仕方なくとかじゃない。私、多分、ほんとに」

幸「ごめんね、美里」


幸「いっぱい嘘つかせちゃったね。」


美里「ちがうの、幸。」

幸「ごめんね。」

美里「わたし、幸がすきだよ」

幸「っ、」

美里「すきなんだよ」


幸N「からん。グラスの氷の音だけが、その夜の私達を見ていた。」


美里N「花貫コーポ2棟、304号、突き当たりの角部屋。」



美里「ねえ、幸。」

幸「ん?」

美里「…ごめんね。」

幸「ううん。わたしも、ごめん。」

美里「ううん。」


「毟り取ったのは、わたしだった」

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