オランウータンはスマホで風船を

アほリ

オランウータンはスマホで風船を

 熱帯雨林の木々は悉く切り倒されてしまった。


 材木としてだけでなく、パーム油を造る為のアブラヤシを植える為の土地の切り開く為に、大量に伐採されてしまったのだ。


 「ママー!!ママー!!何処へ行ったの?!」


 塒の熱帯雨林の木々の伐採講じに捲き込まれ、親オランウータンに生き別れになってしまった子オランウータンは、大声で泣き続けた。


 「ママ・・・ママ・・・」


 子オランウータンは、泣き疲れて荒野と化した大地のど真ん中に倒れてしまった。


 「ママ・・・お腹空いた・・・ママ・・・喉乾いた・・・ママ・・・」



 ・・・・・・


 ・・・・・・



 「ん・・・ママ・・・ママ・・・ん?」


 子オランウータンは、目を覚ました。


 「ママ・・・あれ?」


 子オランウータンが振り向くと、大きな丸いものが側に置いてあった。


 「何これ?」


 子オランウータンは指で突っついてみた。



 ふわふわふわ・・・



 「うわー面白い!!」


 指で触れると、フワフワと揺れて動いた。



 つん、つん、つん、つん、


 ふわふわふわ・・・



 「ガゼボ。風船気に入ったか。」


 ・・・ガゼボって、僕のこと・・・?


 子オランウータンのガゼボは、声をかけた人間にしがみついた。


 「そうだよね。ひとりぼっちだったもんね。ママ失なったもんね。

 酷いよね・・・住みかを人間の金儲けで壊されるなんて。

 大丈夫よ。あんたを守ってあげる。

 でも、何時かは安心出来る森へ独り立ちするのよ。それまで。」


 ここは、オランウータン保護施設。


 熱帯雨林の開発等で行き場を失なったオランウータンや、密猟で野生で生きていられなくなったオランウータン達を保護して野生へ戻すリハビリテーション施設だった。


 この施設のスタッフのモーリスは、しがみついている子オランウータンのガゼボにこう言い聞かせた。


 「君も、この施設でよーく生きる為のいろんな事を学んで、いちにんまえのオランウータンになって森へまた暮らせるようになってね。」


 モーリスは徐にスマホを取り出すと、何か手で画面をなぞっていた。

 そして、子オランウータンのガゼボの写真をスマホで撮っては、またスマホをなぞって何かしている。


 スマホで子オランウータンのガゼボの状況をデータ化して、次々とアーカイブしていたのだ。


 子オランウータンのガゼボは目を輝かせた。

 ガゼボは、この命の恩人であるモーリスの手に持ってるものに興味を持った。


 ガゼボはモーリスの肩に登ってモーリスがスマホで、何かを調べているのをまじまじと見詰めていた。


 「ガゼボ、これに興味持ったか。これは『スマホ』というものだよ。」


 子オランウータンのガゼボは、地面に降りると下に転がっている風船を掴んで振り回したし突いたりして夢中で遊んだ。


 「そっか。風船で遊びたいんだ。一緒に遊ぼうね。」


 モーリスはそう言うと、子オランウータンのガゼボと一緒に風船を突いて遊んだ。



 ぽーーーん、


 ぽーーーん、


 ぽーーーん、


 ぽーーーん、


 ぱぁーーーーーーん!!



 子オランウータンのガゼボは、風船をギュッと掴んだとたんにパンクした風船に呆然としてキョトンとした。


 「あらら、風船割っちゃったんだ。仕方無いなあ。今、替わりの風船作るから。」


 モーリスはそう言うと、棚から萎んだ風船を取り出すと、手押しポンプでしゅっ!しゅっ!しゅっ!しゅっ!しゅっ!と膨らませ、吹き口をきゅっ!と縛って、ぽーん!とガゼボへ突いた。


 ・・・風船・・・ああ!!とても楽しい・・・風船・・・!!


 子オランウータンのガゼボは、すっかり風船の虜になった。



 ・・・・・・



 「あれ?モーリス兄さんは?」


 何時もは側に居る、ガゼボ担当のモーリスが見当たらないのを、オランウータンのガゼボは施設じゅうを汲まなく探した。


 「ねー!モーリス兄さん知らない?」


 檻の中のオランウータン仲間に聞いてみた。


 「知るかボケェ!!」


 「まだスタッフに甘えてんか?図体はいちにんまえのオランウータンなのに?」


 ガゼボはあれからすっかり成長して成獣のオランウータンの姿になっていた。

 それでも、ガゼボは檻の外の事務所を飛び回っていた。

 事務所の目当ては、モーリスと何時も風船と遊べる事だった。

 

 「人間に染まるなよ。いちにんまえのオランウータンになるんだろ?」


 檻の中のオランウータンにそう言い放っても、ガゼボはどうでも良かった。

 何故なら、ガゼボの頭には風船の事しか無かったからだ。


 「したかないから、ひとりで風船で遊ぼう。」


 事務所に入ったオランウータンのガゼボ、いつぞやに風船を取り出した棚によじ登った。



 どさーーーーーっ!!



 床に、無数の萎んだ風船の山と手押しポンプが落ちてきた。


 「あれ?この風船って、どうやって大きくするんだっけ?」


 ガゼボは手押しポンプをガチャガチャ動かして、動かして訳が解らず切羽詰まった。


 「あれ?これは!」


 オランウータンのガゼボは、机の上にモーリスの忘れていったスマホがあったのを見付けた。


 「そう言えば、このスマホっていう奴で何かを調べてたよね?」


 ガゼボは、指でスマホの画面をなぞった。


 「なんだ?そうだ!」


 ガゼボは、スマホの検索窓に文字を入れていたのを見たことを思い出した。


 「えっと・・・『ふうせんをおおきくしたい』。と・・・出た!!」


 ガゼボは、スマホ画面の通りに手押しポンプの先に萎んだ風船の吹き口を差し込んで押してみた。



 しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!



 風船が少しずつぷっくりと膨らんできた。



 しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!しゅっ!よいしょ!!



 「ふぅ・・・疲れた。」



 ぽんっ!!


 ぷしゅ~~~~~~!!ぶおおぉーー!!!



 「あーっ!!風船が取れて小さくなった。

 でも、今吹っ飛んだのは何で?」

 

 オランウータンのガゼボは面白くなって、手押しポンプで風船を膨らませては、ぷしゅーー!!と吹っ飛ぶの遊びを楽しんだ。


 「ひゃーーー!!風船ってとぶんだ。」 


 オランウータンのガゼボは、更にスマホでいろいろ調べてみた。


 「ふーん、風船ってこれでも大きくなるんだぁ。」


 オランウータンのガゼボは、口に風船の吹き口をくわえて息を吹き込んでみた。



 ぷぅ~~~~~~~~!!


 

 「うわっ!!何これ?愉しい!!」


 オランウータンのガゼボは嬉しくなって更に風船に息を吹き込んだ。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!



 オランウータンのガゼボの吐息でどんどんどんどん大きくなる風船に、ガゼボの胸も大きく膨らんだ。



 ・・・僕、ひとりでやってる・・・


 ・・・初めてひとりでやってるんだ・・・


 ・・・モーリス兄さんに頼りっぱなしの僕が・・・


 ・・・モーリス兄さんに頼らないで、ひとりの力で何かやってる・・・!!


 ・・・どんどん大きくなれ僕の風船・・・


 ・・・そうだ・・・!!


 オランウータンのガゼボは、何を思ったかモーリスのスマホを持ち出して、カメラを起動した。



 ぱしゃっ!! 



 オランウータンのガゼボの頬っぺたをめいいっぱい孕ませて大きく風船を膨らましてる姿のドアップが、スマホで撮れた。


 「よおーーし!!もっと大きく膨らまそ・・・しまった!!」



 ぷしゅ~~~~~~~ぶぉぉぉーーーーしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 「風船がまた吹っ飛んだーー!!愉しいぃぃぃーーーーーー!!」


 それから、オランウータンのガゼボは床に落ちたありったけの風船を膨らまして、萎ませて、膨らまして、割って、膨らまして、突いて・・・と、事務所ところせましと遊びまくっていた。


 「ガゼボただいま!!ええっ?!」


 野生動物に興味ある学生達へ、野外講義に行っていたモーリスは、事務所の中を見て腰を抜かして驚いた。


 オランウータンのガゼボが、膨らませた風船や割れた風船や何度と膨らましてゴムが伸びた風船の山で、精根尽きて今度は鼻提灯膨らませて眠りこけていたののだ。


 「ガゼボ・・・君は相当風船が好きなんだな。しかもひとりでやっちゃったんだ。

 段々独りの力でやれるようになったんだな。違う意味でも。」


 その側に、モーリスのスマホが無造作に放り投げられていた。


 「やっぱり、忘れていったんだ。良かった!!無くしたらたまったもんじゃないし。」


 モーリスがスマホを確かめると、オランウータンのガゼボが一生懸命に風船を膨らましてる顔の写真が残られていた。


 「ガゼボったら・・・」


 モーリスは思わず感極まった。


 

 ・・・・・・



 その後、オランウータンのガゼボは他のオランウータンと同じ檻に入れられ、独りで生きる術を教えられて、無事に森へ帰り、

 産まれてきた子オランウータンに、スマホの使い方と風船の膨らまし方を伝授したとかひないとか。






 ~オランウータンはスマホで風船を~


 ~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オランウータンはスマホで風船を アほリ @ahori1970

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ