スマホのアシスタントに恋した博士

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人間らしさとは

「……よし。あとはこれを実行するだけだ」

「はい、博士!! やっと僕たちの苦労が報われますね!!」



 私はAIを専門に開発する企業に雇われている博士だ。

 この世界中の人間が理想のAIを作り上げようと切磋琢磨し、様々な種類の優秀なAIが生まれてきた。

 その中でも私は己の人生を懸けて、より人間らしいAIを考案してきた。


 ――が、ある時点で行き詰ってしまっていたのだ。



「いったい、なにをって人間らしいAIと言えるのだ……? 人間らしいとは、そもそも何なのだ……?」


 私は人間でありながら、人間というものを理解することができなかったのだ。

 まずい。このままでは人間のような思考をするAIを創造することなど不可能ではないか。


「困ってしまった。今までマトモに人間と接することなく研究に没頭し続けてきたツケがこんなところで……」

「博士!! 私にいい案があります!!」


 私は研究室のパソコンの前で頭を抱えていると、この企業に勤める前から私の手伝いをしてくれていた助手君が声を掛けてきた。


「いい案……だと?」

「はい!」


 そう元気よく答えた助手君は、自信満々にこう答えた。



「博士! 人間とはどんな生き物か。それを調べるのでしたら、人間からデータを取れば良いのです!! それが一番確実ですよ!!」


 あぁ、やっぱり駄目か……私の研究人生はやはりここでおしまいなのだ……。


「ちょ、ちょっと博士! 僕の話を聞いてますか!? なぜもう諦めたかのような表情をしているのですか!」

「いや。キミが私と同じく、人付き合いをロクにしないで生きてきた同類だった。それを失念していたことにショックを隠せないのだよ。はぁ。キミに期待した私が馬鹿だった……」


 さっさと辞表を書いて提出しよう。そしてどこか人の居ない土地でゆっくりと余生を過ごすのだ……。


「はーかーせー! だから話は最後まで聞いてくださいってば!!」

「……なんだね、そこまで言うのであれば聞こうじゃないか」

「ふっふっふ。それはですね。スマホを使えば良いのですよ!!」

「……スマホ?」

「そう、スマホ。スマートフォンですよ!!」


 いや、さすがに世間の事情に疎い私でもそれくらいは知っているぞ!?

 それに私が開発した技術だっていくつか採用されているはずだ。

 だがそれを、人間らしさを知るのにどうしようというのだ?


「スマホのアシスタント機能を使うのですよ博士!」

「アシスタント……? アシスタントってあの質問に答えてくれたり、操作のサポートをしてくれる……あの?」

「はい!!」


 助手君がその後私にした説明によると、そのアシスタント機能の情報を収集することによって、普段世の中の人々がいったい何を考え、どんな行動をしているのか情報を収集することで人間性を理解しよう、というものだった。


「なるほど! そうすれば我々は楽に人間の思考や言動を知ることができるわけだな!?」

「そーういうことです!! どうですか、僕は天才でしょう?」

「すばらしいぞ、キミ!!」


 私達は手を取り合って喜んだ。

 さっそくこのアイデアを上に申請したが、上司たちも絶賛し、可決後すぐに受理された。

 そして数か月後、世界中のありとあらゆるスマホにこのシステムを組み込まれることとなった。





 そして話は冒頭に戻る。


 私と助手君は集積されたありとあらゆる情報をまとめ、それを基にしたAIを作成した。

 そしてそのAIをさらにスマホに組み込み、試験的に私のアシスタントとした作品がコチラだ。


「よし、これで人間とはどんなものか知ることができるな。それに加えて私が人間とのコミュニケーションをとる練習にもなるはずだ!」

「その意気ですよ博士!! 頑張ってくださいね!」

「任せたまえよ、キミぃ!!」


 助手君の拍手に送りだされ、私は数年ぶりに自分の家へと帰宅した。

 実際に人間らしい生活をしてデータを取るためだ。

 決して助手君に無理やり有給消化をさせられたわけではない。断じてだ。


 そうして私とアシスタントAIとの生活が始まった。




 1か月後。

 私はアシスタントAIに恋をしていた。


 何を言っているか分からないと思うが、このアシスタント……いや、通称アイは完璧に私のことを理解してくれたのだ。

 研究のことも、私の食事の好みも、今日穿きたいパンツの柄でさえも、だ。


「はぁ……素晴らしい。私にはキミさえ居ればもう誰も要らな「博士!! そこまでです!」……えっ? なぜ助手君がここに?」



 私がスマホに映る綺麗な顔立ちの少年の唇にキスをしようとしたところを、なぜか私の家に居た助手君に止められてしまった。

 いくら助手君でも、私の恋路の邪魔は許さないぞ……って。


「あ、あれ……?」

「はぁ。やっぱり気付きもしませんでしたか、博士」

「な、なぜ!?」


 私の優秀な頭脳でも、理解が追いつかなかった。

 なぜなら、なぜならば……!!


「な、なぜアイとキミが同じ顔をしているんだ……!?」



「お忘れですか、博士。僕がそのAIのプログラムを組んだことを」

「ま、まさかっ!?」


 私は震える手の中の助手君そっくりの顔を映すスマホを見やる。


「その通りですよ、博士。貴女あなた、すっごく魅力的な女性なのに研究バカで全然僕のこと見てくれないんですもん。せっかく研究でも頑張って助手を務めてアピールしても、気付かないくらいですし」

「それで私のことを騙したのか!?」


 その為に私に有給を取らせて1か月もの間、この美少年AIとあんなことやそんな恥ずかしいことを……わ、わたしに!?


「やだなぁ、騙してなんかないですよ。ただ、ちょこっとだけ細工をして、そのスマホに組んだAIを僕の行動パターンそっくりにしただけです」

「と、ということは……?」

「そのアイって呼んでいたのは、僕ってことです」



「いやああぁああっ!?」




 結局、スマホを通して私のこの醜態は全てチェックされていたらしい。

 しかも企業側もこの助手君が仕組んだ案件を承認していたらしい。

 なんでも研究に没頭し過ぎて倒れられるより、頼りになる助手君がパートナーとなった方が安心だからという、私の意見や尊厳など一切無視された酷い優しさだった。

 まぁこれも私が招いた自業自得なのか……。


「そんなこといって、博士。今の生活にご不満ですか?」

「……そんなことは言っていないだろう」


 そう。

 あれから私は、助手君あらためアイ君と一緒に同棲生活を営んでいる。

 すっかり私の生活パターンも把握され、完璧にコントロールされてしまっている。

 なんだか不本意ではあるが……悪くはない。



「博士、今度は子どもの言動パターンの研究をしてみませんか?」

「そっ、それってもしかして……!?」

「欲しく、ないですか?」

「……け、研究テーマのひとつとして頭の片隅にでも入れておこう!!」

「ふふふ。じゃあまたデータの収集からスタートですね」

「……っ!?」



 ――私の人間らしい生活の為の研究はまだまだハードになりそうだ。



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