突然の技術革新から数年、スマホに魂を定着させた人類は世界の在り方を求め、混迷を極めていた!

雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞

スマホ、それは無限の可能性。スマホ、それは魂のしるべ。人類は大いなる夢を追いかけ、いま、その手に宇宙を掴む。

 ブレイクスルーは突然だった。

 あたかも技術的特異点シンギュラリティー・ポイントを超越したかのように、世界中でその革新は起こった。


 はじめ、我々はこう考えていた。

 賢い携帯こと――スマホは、どんどん小さくなっていくものだと。


 もちろん用途によっては、ディスプレイ自体は大きくなるだろう。

 しかし、アプリの多くを記録媒体、どころかクラウドに依存するようになったスマホは、手のひらほどのサイズであることすら不要だった。


 腕に巻くほど小さく。

 体内やコンタクトレンズに内蔵するほど小さく。

 それはどこまでも小型化されていく――はずだった。


 だが、そうはならなかった。


 シンギュラリティー・ポイントへの到達は、繰り返すとおり突然だった。

 どこかの天才が。

 あるいは集積された叡智の結晶が。

 もしくは誤作動的ななにかが。


 世界を変えるほどの発明を作った。



 即ち――人間の魂を固定コア化する技術の完成である。



 結果として、スマホはいまと同じ形で残った。

 そこに人間の魂が内蔵されて。


 代わりに、人間の肉体は、スマホを持ち運ぶための周辺機器、運搬装置キャリアーとなった。


 人類の本体は、いまやスマホだ。

 それは、代わり映えのしない画一的なデザインによるものだ。

 だが、思い出してほしい。

 過去に生きた多くのものたちが、携帯にはストラップや防護ケースをつけ、飾り立てていたことを。


 だから我々も、付属品たる肉体キャリアーに、どれだけ装飾を盛れるかという試行錯誤をはじめた。


 リーゼントにするもの、肌を黒く焼く物、カラーコンタクトをはめるもの、電話番号とパスワードを忘れないようにタトゥーで彫るもの。

 それは種々様々だったが、一概に言えるのは誰もが個性を重んじたと言うことである。


 これは皮肉な話だろう。

 人類の多くのものたちがスマホという同一の姿を手に入れたことで、むしろ多様性を容認する時代がやってきたのだ。


 スマホに性別はない。

 あるのは精々メス端子だが、肉体にはワイヤレス充電器が内蔵されているので、それすら不要だった。


 国境も、言語の壁すらない。

 インターネットとBluetoothを使い、人々は誰とでも繋がることが出来る時代になっていた。


 スマホに固定化された魂は、しかし世界中の人々と繋がることで相補性のうねりを獲得し、お互いを補完し合うことさえ可能になったのだ。


 やがて、我々人類はより巨大なるステージへと進んでいった。

 本体としてのスマホと、キャリアーとしての肉体。

 この関係性を、拡大解釈し、さらに発展させた。

 そうだ、我々はついに成し遂げたのだ。


 惑星をキャリアーとした、地球外惑星への移住計画である。


 既に人類は、スマホさえ無事ならば肉体の是非を問わなかった。

 宇宙環境に適応できるスマホを作成し、そこにコアを定着させ、星海の開拓へと乗り出した。肉体よりもずっと軽く、真空中でも稼動するスマホは長期間の宇宙滞在に最適だった。


 そうして、あるものは火星に、あるものは金星に、またあるものはさらなる彼方へと降り立ち、その星を肉体として定着していった。

 やがて、全ての惑星がネットワークで繋がる時代がやってきた。

 肉体を捨て多様性を許容し、ひとつの目的意識のもと一致団結した人類には、それだけのことが可能だったのだ。


 星こそが命。

 ひとつの惑星こそが、あらたなる人類のゆりかごと墓場!


 その合い言葉を胸に、我々が星の海へこぎ出して、遙かな年月が経っていった。

 銀河はスマホによって満たされ、命のあふれる宇宙が生まれ落ちた。


 宇宙開闢より永劫の時間を超えて。

 とうとう世界はひとつになったのだ。

 完全なる平和が訪れたのだ。

 ゆえにいまこそ、我ら人類は高らかにこう告げよう。


 この宇宙の支配者はスマホであると!


 我らは子々孫々、後世へ伝えていく。

 スマホとは、次の言葉の略であると。


 即ち――スペース・ヒューマン・ホットラインの略であると。


 いつまでも、いつまでも。

 我々が賢い携帯である限り――

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