転生した異世界にもスマホがあって便利で楽ちんです……だけど、ちょっとめんどくせえ!
東苑
異世界のスマホは相棒です。
俺――佐藤太郎が異世界に転生してから一四年が経った。
そう、異世界だ。
剣と魔法のファンタジー世界だ。
転生した当時はダンジョン攻略やら大冒険やらに心躍っていたけど、今のところそういうのはない。
まあまだ一四歳だしな。
今通ってる冒険者の養成所を卒業したら富と名声を求めて家を出るつもりだ。
それまであと一年の辛抱だ……とりあえずスマホでも見るか。
「ココア、ププチューブ開いて」
ベッドに寝っ転がってそう言うと隣の丸っこいモンスターが「リョ!」と鳴く。
するとモンスターの目がぴかっと光って虚空に人の顔くらいの画面を出した。魔力によるものだ。
このモンスターの名前はププルリ。
地球で言うところのスマホみたいな機能をもってる。
すべてのププルリたちが共有する記憶――ププルリネットなるものにアクセスして動画を観たり、調べものができたり。
契り(チークキス)を交わしたププルリ同士を介して離れた相手と念話したり。
とても知能が高くて人族の言葉を理解でき、今みたいにコミュニケーションもとれるのだ。
俺のは膨らんだ餅みたいな外見だけど、犬とか猫とか鳥とか……個体によってかなり違う。
ぷにぷにだし、一緒にいると癒されるからペットみたいな存在でもある。
戦闘能力がほぼ皆無で外の世界では生きられないププルリと、ププルリのおかげで生活が豊かになる俺たち人族。
これからも互いにいい関係を……ってなんの話だよ。
「なに観よっかな~」
画面を指でスクロールしていると、ココアが上着の裾を噛んで引っ張ってきた。
そして数ある動画の中から一つのサムネイルを拡大してくれる。
さっき観るのを中断したやつだ。
「ああ、それそれ! 観たかったやつ! ありがとう~、ココア」
養成所から帰るときに見てたら段差につまづいてこけそうになり、ココアが自己判断で動画の再生を停止したのだ。
歩きながらはダメだよと。
反省しております、ココア先生。
動画再生中はププルリはそれだけに意識を集中させてるみたいだけど、最近は画面が大きく揺れたりすると再生を停止するようになった。この間、ププルリセンターにアップデートしに行ったときに新しいスキルでも獲得したのだろう。
プロ冒険者のモンスター討伐動画を観ていると、ココアがバネみたいに渦巻いたしっぽをふりふりし出した。
新着のメッセージありの合図だ。
画面の隅っこにメッセージを出してもらう。
養成所の友達からだ。
お、なんか、写真と動画が添付されて……あ!?
「ちょっとココア! なにすんのさ!」
写真や動画を観ようとしたらココアが勝手に閉じて削除しやがった。
ココアは真っ白な顔をゆでだこみたいに赤くする……ああ、そういうこと?
「あのさ、ココア。俺、もう一四歳だよ? たまにはそういう……エッチなのも観たいな」
ココアが魔力で出したキーボードをおでこで高速タッチし、画面に文字をつづる。
「安心アクセスサービスです」
「出たよ、過保護スキル。そういうのが逆に健全な成長を妨げるんだぞ?」
確かププルリセンターで母ちゃんが設定しやがったんだよな。
冒険者になったら真っ先に解除しよう。
因みにうぶな反応はココアのもともとの性格だ。
「じゃあユナ・ヴィクトウォーカーちゃん検索して。モデルさんならなんの問題もないよね?」
ユナ・ヴィクトウォーカーちゃん。
今人気NO.1のモデルさんだ。金髪碧眼の美少女……そしてあのおっぱい! 地球で言うならまだ高校生くらいの年齢なのにあのビッグサイズ! やばい!
俺と同年代の男子でユナちゃんを知らないやつなんていないだろう。
ココアがユナちゃんの写真を見せてくれる。
いや~、どれもかわええ~、きれいだな~、美人だな~……ん?
「ココア? 水着のはないの? あるよね? なんかフィルターかけてない?」
「安心アクセスサービスです」
「あ!? モデルさんの水着くらいいいじゃん!」
「こういう学び方はよくないと思います」
「じゃあどうやって勉強するの?」
「写真や動画ではなく本物の女性の方とお友達になってみては?」
「本物?」
「たとえば養成所のクラスメイトとか」
「余計なお世話! 誰が陰キャぼっちじゃい!」
「そこまでは言ってませんが……彼女いない歴=年齢のマスターの将来が心配です」
「やかましいわ!」
ココアのやつ、最近こういうことにもうるさいんだよな。
養成所で男としかつるまないとため息ついてくるし。
なんかスカッとしたい気分だぜ。
砕球のスーパープレー集でも観るか。
砕球っていうのはこの異世界でのスポーツだ。
バトル漫画みたいな勢いで対人戦をするスポーツとイメージしてくれればいい。
拳で城壁ぶち抜いたり、ロボットものみたいなレーザービーム出して町を焼いたり。
俺も冒険者になるためのトレーニングで砕球をやってるから、プロ選手たちのプレーの凄さ、迫力に興奮する。
ああ、俺もこんなふうに派手に戦えたらなぁ。
冒険者にだってプロの砕球選手にだってなんにだってなれるのに…………すぴぃ、すぴぃ。
やべ、寝てた。
動画を観ていた画面は消え、部屋の明かりも落としてある。
そして布団も肩までしっかりかかってた。
ココアがやってくれたのだ。
顔の横ですやすや寝息を立てるココアを撫でる。
「ありがと、ココア」
うっすら目を開けたココアがこっちにくっついてくる。
「お休み、七時になったら起こして~」
「リョ~」
転生した異世界にもスマホがあって便利で楽ちんです……だけど、ちょっとめんどくせえ! 東苑 @KAWAGOEYOKOCHOU
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