「収集者…」

低迷アクション

第1話

「えっ?うわっ、オイッ、ストップ、ストップ!」


車輌後部で作業する“同僚”が叫び“友人”はパッカード車(ごみ収集車)の搬入を

停止するボタンを慌てて押した。


後方車輌や歩行者の有無(この仕事をする上で最も、重要な事だ)

ミラーで確認すると、ドアを開け、車輌後方に移動する。

ステーション(ごみ集積場所)があるのは、山間部の道路の端っこだ。人通りは

ほとんどなく、楽に終わる収集地区である。


「どうした?」


声をかけるが、車輌後部、ごみ吸い込み口に佇む同僚は答えない。季節は7月、

この時期、山のステーションは蛇や蜂が多くいる。噛まれたり、刺されたりと言った

同業者の話は良く聞く。面倒な事でなければいいが…


同僚が見ているゴミの吸い込み口は、ゴミをタンク内に押し込む回転パネルが途中で止まっていて、黒い木片のようなモノが途中ではみ出している。可燃ゴミの日に、椅子や丸太を袋に入れ、そのまま出す輩もいる。


それが回転パネルで巻き込み、機械が壊れた?だとしたら、修理に回さないといけない。予備車は事業所にあるが、出来れば、乗りなれた車がいい。ごみ収集員なら、誰でもそうだ。確認のため、慌てて、覗き込む友人の肩を同僚の手が

押さえた。


「止せ…」


「へっ?いや、何かが引っ掛かってるなら、どかさんと。」


「ステーションのゴミは全部取ってるだろ。もう上がろう。訳は車の中で話す。」


そう言うと、同僚は吸い込み口のシャッターを閉め、運転席に向かってしまった…



 「子供の顔が見えた。逆さまのな…」


隣で顔面を蒼白にする同僚を見ながら、友人は呆れた顔でハンドルを握る。仕事前には

アルコールチェックがある。酔っている訳ではないだろう。しかし、その同僚が、吸い込み口に押し込まれるゴミの中に逆さまの子供を見たと言う。


「見間違いじゃないのか?人形の玩具とかさ?」


「違う、俺が見たのは、人間の子供の頭だった。現に…口を開けて、何かを喋ってた。」


「オイつ、それが本当なら一大事…」


「首だけだったんだよ。ちゃんと首の断面も見えた。首だけで動いていた…

首・だ・け・で…」


そこまで話すと、同僚は助手席に突っ伏してしまった…



 「どうしたの?」


ごみの収積所がある環境事業センターに着き、ゴミを焼却場に降ろす場所で、

先輩職員が声をかけてきた。車から降りない同僚を見ての行動だろう。


「あ、先輩…それが…」


友人が事情を話すと、先輩は少し考えるように中空を見つめた後、突っ伏したままの同僚を、無理やり車から降ろし、友人の隣に並ばせた。


吸い込み口のシャッターを開け、積み込んだゴミを取り出していく。

いくつもの袋の中に“それ”はあった。


「これ、もしかして“仏壇”ですか…」


「出した奴が何考えてんのか、知らんけどな。

原因は多分これだろ?覚えとけ。こう言う時に障りを受けるのは、捨てた奴じゃなくて、

収集する俺達だからな?」


そう言って、タバコを吹かす先輩を見て、二人の“新人”は身を震わせた…(終)

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「収集者…」 低迷アクション @0516001a

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