脈アリと思って美少女幼馴染に告白したら:
久野真一
脈アリと思っていた彼女に完膚なきまでに振られた件
「優子……!ずっと好きだった。付き合ってくれ!」
夕暮れの空き教室。
俺は、兼ねてから想いを寄せていた、幼馴染の
もちろん、勝算もなく告白したわけじゃない。
二人きりのデートを何度も重ねて、手を繋いだりもして。
さらには、腕を組んだりしたこともある。
きっと、告白は受け入れてもらえる。そう思ったのだが-
優子の様子がなんだかおかしい。
きっと、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうな表情をしてくれると思っていた。
でも、返ってきたのは困惑。
「えっと……」
何やら返事を戸惑う様子まで見せてくる。急激に不安が湧き上がってくる。
ひょっとして、俺はとんでもない勘違いをしていたのでは?
「ごめん、
目を伏せて悲しそうな表情の優子を見て、俺は失敗を悟った。
幼馴染だからといって、何度も二人っきりでのデートに応じてくれるわけがない。
手を繋いだり、腕を組んだりのスキンシップに応じてくれるわけがない。
だから、きっと、異性として見てくれているはず。
そんなのは、俺の、ただの思いこみだったのか。
「そ、そうか。悪い。お前の気持ちも考えずに」
穴があったら掘って入りたい気持ちだ。泣きそう。
「あ、謝らなくても。その。気持ちは嬉しかったし」
自覚なく追い撃ちをかけてくるのは止めて!
「いや、妙な慰めはいいんだ」
「で、でも。これからも、友達でいよ。ね?」
あわあわした様子で、必死に言葉を紡ぐ様子が痛々しい。
友達でいよう、なんて、かえって辛い。でも、彼女がそれを望むなら。
「ああ。これからも、友達でいよう」
そう返すのが精一杯だった。
この日、俺はずっと想い続けていた彼女に振られた。
失恋の痛みは深く、翌日からはロクに授業に身が入らなかった。
ゲームや漫画、ラノベに逃避する日々が続いた。
優子はいつもと変わらない様子だったのが、さらに辛かった。
そんな日々が続くこと一週間余り。
「今日はもう休もうかな……」
もう何もする気力が起きない。
母さんには、風邪を引いたと嘘を言って今日は休んでしまおう。
うん、それがいい。
「ほんと、惨めだよな、俺って」
脈があるんだと、調子に乗っていた。
友達としての延長線上で付き合ってくれていた優子の気持ちにも気づかず。
明日からは、優子と彼女になれるんだと、思い込んでいたあの日の俺。
もう消え去ってしまいたい。
「そもそも、優子みたいな優良物件、俺には過ぎたもんだったんだよな」
考えてみれば、俺には、他の誰かに誇れる特技なんて何一つ無い。
容姿は、不細工ではないが、フツメンの範囲内だ。
それにひかえ、優子はどうだ。百人中九十九人が振り返る美貌。
俺みたいなのと、ずっと一緒にいてくれる面倒見の良さ。
いつも誰かのために親身になれる性格の良さ。
全部、全部、俺には過ぎたもので、俺は単なる勘違い男だった。
「でも、いつまでもこのままってわけにはいかないよなあ」
だって、優子の望みは俺が友達で居続けてくれること。
あれがその場しのぎの嘘じゃないことはよくわかっている。
いつまでも塞ぎ込んで、避けようとするのは罪悪感がある。
でも、もうしばらく。この失恋の痛手が癒えるまでは。
こうして、ただ、塞ぎ込んで居たい。
そう思っていたのに。
ピーンポーン、ピーンポーン。ピーンポーン。
(優子の奴だ)
この、特徴的なインターフォンの鳴らし方。
付き合いが長いせいで、彼女が来たことがわかってしまう。
どうしようか。今は母さんも父さんも居ない。
(居留守を使うか?)
いや、でも、学校には風邪と伝わっているんだよなあ。
「涼ちゃーん。風邪、大丈夫?」
二階にまで届く大声で、叫ばれると堪える。
ちらっと窓を開けて、玄関を見ると、やはり優子だった。
きっと、本当に風邪を心配して来てくれたんだろう。
仮病を使っているだけだというのに、ほんといい奴だ。
でも、今、優子に会ったら、また辛くなりそうだ。
だから、インターフォン越しに。
『風邪は大丈夫だ。気持ちだけ受け取っとくよ』
『涼ちゃん。仮病でしょ』
図星を突かれて、ドキっとする。
声色からそこまでわかるんだから、大したもんだ。
『……辛いのは本当だから。今日は本当に勘弁してくれ』
ただでさえ、失恋の痛みでいっぱいいっぱいなのだ。
『ねえ。ひょっとして、私が告白を断ったせい?』
『……違う』
これ以上心配をかけたくなかった。
『嘘。絶対、私のせいでしょ』
『嘘じゃない。単に気分が悪いだけだ』
『なんで、そんなに意地張るの?』
なんでって、好きになった相手に罪悪感を背負わせたくないから。
『とにかく。優子が罪悪感持つ必要はこれっぽっちもないから』
『……わかった』
そのやり取りを最後に、ようやく静寂が訪れた。
さしもの優子も諦めてくれたか。
と思っていたら、扉がガチャリと開く音。
そういえば、あいつ、俺の家の合鍵の場所知ってたんだった!
トン、トン、トン、と足音が近づいて来る音が聞こえる。
心配し始めたら強引なのは相変わらずだけど、勘弁してくれ。
願いも虚しく、部屋の前に優子が立つ音が聞こえた。
「ねえ、涼ちゃん。ごめんなさい」
扉越しに悲しそうな声が聞こえる。
「なんで謝るんだよ。俺が勘違いして、お前はその気じゃなかったんだろ?」
「ううん。違うの……!」
「何が違うんだよ」
「ほ、ほんとは……前から涼ちゃんの事、男の人として意識してたの」
「え?」
天地がひっくり返るような衝撃だった。
「でも、あの時、お前は確かに……」
「あれは。恋人とかまだわからないから、咄嗟に断っちゃって……」
「ど、どういうことだ?」
「意識してたけど、恋人になりたいかはわからなくて。だから、断っちゃったの」
「でも、意識してても、結局、今も恋人になりたいわけじゃないんだろ?」
とんでもなく驚く新情報だったけど、結局、それは変わっていない。
「違うの!関係が変わるのが、ただ、なんとなく怖くて。でも、涼ちゃんが、どんどん元気なくなっていって。今もそんな風になるのを見てるのは絶対嫌!」
声はほとんど叫ぶようだった。
「だから、恋人になって、涼ちゃんと、一緒に笑っていたいの!」
その言葉は、不思議と心に染み渡っていく。
一緒に笑っていたいから、か。なんとも、優子らしい。
「でも、そんな理由で、恋人になって、後悔しないか?」
「しない。だって、涼ちゃんと一緒にいるのは楽しいし。それに、手をつないだりとか、本当はとっても嬉しかったもん」
涙声で訴える優子は、どうやら本気らしい。
仕方なく扉を開けると、泣き笑いの表情の優子が居た。
「そんな事になるなら、最初から振るなよ」
つい、恨みがましい言い方になってしまう。
「本当にごめんなさい。今のままの関係で居たい、それだけのわがままだったの」
「はあ。もういいよ。俺が勘違い男じゃなくて、ほっとしたよ」
「お、お詫びに、胸、とか、触ってみてもいいよ?」
「バーカ。そんな事目当てで告白したわけじゃないっての」
恨みも込めて、デコピンをかます。
「あいた!涼ちゃん、乱暴だよ」
「俺が受けた失恋の痛みに比べれば、それくらい軽いもんだろ」
「だから、それは、本当に、ごめんなさい」
「一つだけ聞きたいんだけど。意識してるとは言ったけど、好きって事でいいか?」
今もなんだか釈然としないのは、そのせいだろう。
「わ、わからない……でも、試してみてもいい、って思う」
「試すってなんだよ?」
「キス。それが出来たら、好きって自信持てる、気がする」
また、なんとも逆転した発想を……。
「後悔しないな?お前、ファーストキスだろ?」
「そ、そうだけど。涼ちゃんもだよね?」
「ああ。だから、色々上手じゃないかもしれないけど」
「いいから。キス、しよ?」
覚悟を決めたように、近づいて来る。
そして、目を閉じて顔を近づけてくるのが可愛い。
(ええい、もう、なるようになれ、だ)
同じように目を閉じて、優子の唇に口づける。
初めてのキスは、涙の味がした。
「キ、キス。しちゃったね」
「そ、そうだな」
お互い、急にぎこちない空気が充満していく。
さっきまで、どん底だったのが嘘みたいだ。
「うん。やっぱり、私は涼ちゃんの事が好き!」
「キスして自信持つとか、ほんとなんてやつだ」
付き合いは長いが、ほんとこんな面は初めてだ。
「涼ちゃんは私を好きだったんでしょ?ハッピーエンドだと思うけど」
「過程を色々すっ飛ばし過ぎなんだよ」
振られたときに、こんな優良物件、俺には釣り合わないと思ったけど、撤回だ。
こんな天然さん、きっと、俺じゃなきゃ付き合っていけないだろう。
「でも、涼ちゃんが元気になって良かった!」
「そりゃ、元はといえば失恋が原因だったからな」
「だから、それはごめんって言ったでしょ?」
「わかってるけど、ほんとに苦しんだんだからな」
「じゃあ、お詫びに私の胸、揉んでいいよ?」
「だから、その発想をやめい!」
こいつの事はよくわかっていたと思ったけど。
でも、実はそんなことはなかった。そんな事を知った、ある日の事だった。
脈アリと思って美少女幼馴染に告白したら: 久野真一 @kuno1234
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