メリーさんは私に会いたい

和泉秋水

第1話


『もしもし私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの』


 私のスマホに一本の電話がかかってきたのはある日の夜のことだった。一人暮らしのため東京のアパートに引っ越して数日、新生活に慣れ始め、最初は母からの電話だと思った。しかし番号は見知らぬものだったし、恐る恐るスマホを手に取って電話してみれば聞き覚えのない少女のような声がした。彼女は自分をメリーさんだと言った。それが本当ならあのメリーさんなのか。私の背筋に悪寒が走る。


『私はあなたに捨てられた。あんなに一緒に遊んでいたのに、あんなに私を大事にしていたのに……』

「ちょ、ちょっと待ってっ、私は確かに岡山の実家に忘れて置いてきてしまったけど捨てたことなんて……」

『……え?』

「え?」


 沈黙が流れる。


『思い出した、あなたの母親に『あらこんなところに人形が、あの子が置いて行ったのならもういらないのよね』って言われて捨てられたんだった』

「お母さんっ……」


 母が勝手に捨てていたようだ。後で抗議の電話を入れておこう。


「で、メリーさんは今どこなの?」

『ゴミ捨て場……』

「次の休みの日に迎えに行こうか?」

『いい、自分から行く』

「自分で行くって、私の引っ越し先分かるの?」

『……教えて』

「東京の――」


 私はメリーさんに住所を教える。そして住所を聞き終わったメリーさんは「こまめに連絡するから」とだけ言って電話が切られた。

 私にあった恐怖は消えて無くなり、メリーさんが無事に辿り着けるかという心配だけが残った。


「あれ、そういえばメローさんどうやって電話したんだろ」


 少しの疑問も残った。


 ◇◇◇


 翌日の朝、私はアラームで目が覚める。心地よい朝だ。そういえばメリーさん今どこだろう。


prrrrrrrrr


 スマホの電話が鳴る。私はすぐにスマホを手に取って電話に出る。


『もしもし、私メリーさん。今、岡山県と兵庫県の県境にいるの。あ、おはよう』

「う、うん、おはよう。頑張ったね。もしかして寝てないの?」

『私はメリーさん、睡眠なんて必要ない』

「そっか、やっぱり迎えに行こうか?」

『必要ない、それじゃ』


 メリーさんはそう言って電話を切る。

 私は頑張れと心で応援しながら会社に行く準備をする。



 昼休み、再びメリーさんから電話が来る。


『もしもし私メリーさん、今兵庫県姫路市にいるの。姫路城すごい綺麗』


 あれメリーさんちゃっかり観光してない? まあいいけど。

 メリーさんはそれだけ伝えて電話を切った。直後にラインに写真が送られてきた。その写真には姫路城を背景に写真を撮っているメリーさんの姿が。なんか楽しそう。



 そして帰宅して夕食時、メリーさんから電話。


『もしもし私メリーさん、今大阪にいるの。たこ焼き美味い』


 電話は切られて直後に写真が送られる。そこにはグ◯コを背景にグリ◯ポーズをするメリーさんの写真と、たこ焼きをはふはふと頬張っているメリーさんの写真だった。普通に観光してんじゃん。


 それからも朝昼夜に一回ずつ電話がかけられ写真が送られてくる。


『もしもし私メリーさん、今京都にいるの。どこも綺麗どすえ』


『もしもし私メリーさん、今滋賀県にいるの。琵琶湖でかい』


『もしもし私メリーさん、今名古屋にいるの。みそかつ美味しい』


『もしもし私メリーさん、今静岡県にいるの。茶畑がすごい』


『もしもし私メリーさん、今鎌倉にいるの。鳩サブレ買った』


『もしもし私メリーさん、今横浜にいるの。中華料理美味しい』


 途中静岡あたりで「早くあなたに会いたい」って来たがそれでも頑張って近づいてきている。そしてようやく――


『もしもし私メリーさん、今あなたの玄関の前にいるの』


 私はバッと玄関を見る。扉が開く様子はない。


「もしもし私メリーさん、今あなたの足元にいるの」


 ひしっと足に何かが抱きつく。足元を見るとそこにはあのメリーさんが私に抱きついていた。


「あなたに会いたかったわ」

「メリーさん、私もよ」


 私はメリーさんを持ち上げてぎゅっと抱きしめる。

 こうして私とメリーさんは再会した。

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メリーさんは私に会いたい 和泉秋水 @ShutaCarina

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