あぶく
宙の星
ふたりぼっち
私には好きな人がいる。いつも彼から連絡が来て私の車で海辺までドライブデートをする。助っ席の窓を半分開け、顔を少し覗かせ鼻歌を歌っている。彼は海が大好きだ。海に着くと彼は誰も居ないところに座って私を呼び、2人並んで海を見る。波が穏やかな日は良いが天気が悪いの日は最悪で、荒波を見るのは何が楽しいのかわからない。でもそんな彼が私は好きなんだ。彼のふわふわの髪の毛が風に吹かれて大暴れしてるのを見て思わず手で触りたくなる。彼はくしゃみをし、「車に乗ろう」と言い私の手を引く。
帰り道にあったコンビニに寄ってホットコーヒーを買う。私は砂糖を1本。彼は砂糖とミルク。
「砂糖とミルクを入れるならカフェオレにすればいいのに」
「コーヒーがいいんだよ」
そう言い張る彼は長身なのに子犬みたく可愛く見えた。
最後のデートから連絡は一切なかった。
彼の連絡先が消えていた、私のスマホから。
隣にいれるのがどれほど幸せだったことか、ないものねだりだとわかっていながらも欲しがらずにはいられなかった。彼の隣にずっといられる人が羨ましかった。きっと彼は何が好物で、どんな風に寝て、朝はどんな寝癖をつけて起きてくるのか知っているんだろう。たぶん彼はくっしゃくしゃの頭でスエットなんかだらしなく着ていて、ほぼ目が開いていない笑顔でおはようって言うんだろうな。あぁ愛しい。抱きしめたい。彼が崩れてしまうくらい強く強く抱きしめたい。
私は海に行く。
隣の席からは何も聞こえない。
ふたりぼっちになれそうな静かで誰もいないところに立つ。
今日は海は風が強い。
隣からふわふわした物は何も視界に入ってこない。
「海ってこんなに大きかったっけ」
海に片足だけ入ると彼を感じた。大好きで可愛くて大きな彼がいるような感じがした。もっともっと彼を感じたい。どんどん進むと胸の辺りまで彼を感じた。もっと。もっと彼で満たされたい。ずっと。永遠に。私はもっと大きく彼で満たされるように進み続ける。
泡のように儚く消えてしまった彼を感じたいから。
あぶく 宙の星 @sora-no-hoshi
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