第55話:報復

 さすがに娘を溺愛する国王も我慢の限界だったようだ。

 まあ、大賢者の計算では、両王子の突き上げで仕方なくの追放だったようだ。

 王都から遠く離れた国境警備の小さな砦を、名目だけ離宮という事にして、インゲボー王女の領城ということにしてある。


 その王都から遠く離れた離宮が俺の領地の近くだと言うのは、両王子からのさっさと殺してくれというメッセージに思える。

 そのメッセージには応えないといけない。

 彼らには王国を背負うという重職を担ってもらはなければいけない。

 両人にそんな自覚や責任感がなくても、王女を俺が殺す以上嫌でもやってもらう。


「さて、インゲボー王女殿下。

 あれだけ何度も刺客を放っておいて、無事ですむとは思っていないですよね。

 いいかげん観念して死んでください」


「まて、待つのじゃヴェルナー。

 早まるな、早まると損をするのはお前じゃぞ。

 そうだ、そう、わらわの夫にしてやる。

 女王の王配になれるのだぞ、光栄に思うがよい」


 このメス豚はなにを考えているんだ。

 あれだけ何度も刺客を放ってきた相手を、妻にするわけがないだろう。


「インゲボー王女殿下、貴女はよほど頭の中がお花畑になっているようですね。

 どこの世界に自分を殺そうとした腐れ外道を許す奴がいるのですか。

 それに私は貴女のような心の醜い女は大嫌いなのですよ。

 貴女を妻に迎えると言うのは、オークを妻に迎えるのと同じですよ」


「なんじゃと、わらわをオークと同じと申すか。

 許さん、そのような悪口雑言は絶対に許さんぞ」


 バカ王女が怒り狂って斬りかかってきてくれた。

 死屍累々と淫乱王女の恋人たちの死体が転がる広間で、血の海が広がる広間で、攫われてきた可哀想な村娘達が集まり震えている広間で。

 俺としてもただ詫びるだけの王女は斬り殺し難い。

 だから挑発して斬りかかってくるように仕向けたのだ。


「公爵閣下、御免」


 俺を押しのけてフォルカーが前に出てくれる。

 全部大賢者の計算通りだ。

 俺としては、自分が責任を持つ意味もあってこの手で王女を殺すつもりだった。

 だが大賢者が、今後の為にも出来るだけ人前では手は汚さない方がいいという。

 汚れ仕事はフォルカーに任せる方がいいと言うのだ。


 俺としてはそんな小狡いマネはしたくないのだが、それが生まれてくる子供とリヒャルダの為だと大賢者に言われてしまうと、無理を通せなくなってしまった。

 わずかな期待はフォルカーの極悪運だったのだが、こんな時に限って途中で転倒もしなければ剣が折れる事もない。

 見事にインゲボー王女の首を斬り飛ばしやがった。


「見事だなフォルカー、よくやってくれた。

 後は攫われてきた娘達を無事に親元に返すだけだが、それぞれの願いを聞こう。

 親元に帰りたいか、それとも私の所に来て働きたいか」


「「「「「働かせてください」」」」」


 やれやれ、これでまた重荷が少し増えてしまったな。

 

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弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ、でも復讐はキッチリとさせてもらう。 克全 @dokatu

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