第54話:事前交渉

「国王陛下、私に王家に対する叛意はありません」


「うむ、それはよく知っておる。

 余がインゲボーとの婚約を破棄させた時にもよくこらえてくれた。

 あの時のことは悪かったと思っている」


 嘘つけ、お前が貴族や家臣に悪いと思う事などないだろ。

 今も俺の力が強くなってきたから下手に出ているだけで、俺が弱くなったら踏みつけにするかる潰すかするのだろう。

 本当ならぶち殺してやりたいところだが、戦争を引き起こして民を苦しめてしまったら、俺の不完全な良心が痛むから我慢してやっているだけだ。


「そうですか、私は別に何も気にしておりません。

 領地に侵攻してくる者、領民に手出しする者は問答無用でぶち殺す。

 それだけでございます」


「……そうか、そういえば公爵に手出しした愚かな侯爵が滅んだと聞く。

 余としては、もう二度とそのような愚か者が出ない事を願うのみだ」


「恐れながら申しあげます。

 インゲボー王女殿下が度々我が家の王都屋敷に刺客を放って来ております。

 それだけではなく、国王陛下と王子殿下たちを皆殺しにして、王位を盗もうと画策しております。

 私としても、もうこれ以上我慢もできなければ見過ごしにもできません」


「……我慢も見逃しにもできないと言うのなら、どうする心算だ」


「次にインゲボー王女殿下が刺客を送り込んできた場合は、王城に兵を送り込んで殿下の首を頂きます。

 よろしいですね、国王陛下」


「ならぬ、王城に兵を差し向けるなど絶対に許さん」


「許さないと申されるのでしたら、遺憾ながら王家との戦いになってしまいます。

 宣戦布告もせずに戦いを始めるのは私の恥になりますので、今ここで宣戦布告をさせて頂きます」


「まて、待ってくれ。

 余は公爵と戦う気はないのだ」


「では善処していただきたい。

 インゲボー王女殿下の息のかかった騎士団や徒士団が言いがかりをつけてきて、我が家との戦いを始めたとしても、刺客を1人送り込んできたとしても、私は王城に兵を差し向けますぞ。

 それが嫌だと申されるのでしたら、インゲボー王女殿下を処分していただきたい。

 ですが生半可な処分ではどうにもなりませんぞ」


「それは、余の手でインゲボーを殺せと申しているのか」


「そこまでは申しませんが、何もしなければ国王陛下のみならず、王子殿下たちまで皆殺しにされますぞ。

 インゲボー王女殿下の本性は国王陛下御自身が誰よりも御存じでしょう」


「そうだ、誰よりも分かっておる。

 だが、それでも、この手でインゲボーを殺す気にはなれぬ。

 あれでも余の娘なのだ」


「では殺すのではなく王城から追放なされませ。

 王城から遠く離れた離宮や城砦に追放されれば、何があっても王家に被害が及ぶことはありますまい」


「その離宮や城砦を公爵が攻めると言うのか」


「実の娘に他の子供達と一緒に殺されるか、狂気に囚われた娘を静養させるために離宮に送るか、殿下のお好きになされるがいい。

 私は王家に連なる公爵家の当主として、払うべき敬意と献策をさせて頂きましたので、もう責任は果たさせていただきました。

 だからこれで失礼させていただきます」

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