2話 都市伝説研究サークル
結局、僕は学生支援課に“としけん”とやらの部室の場所を尋ねることにしたのだが…。
「なんで学生支援課なのにサークルの場所と内容を把握してないだよ…」
僕はキャンパス内を歩きながらため息をつく。
学生支援課から部室の場所を訊けたのだが、
その説明には、おそらく…だったり、たぶん…などの歯切れの悪い返答ばかりだった。
とりあえず大学の裏手にある
道なりに歩くこと30分。進めど進めど目に付くのは木々ばかり。そもそも道なりと言っても真っ当な道はなく、最早、獣道であった。
「獣道を道なりってどういうことだよ」
ここまで来たのは正直ただの気まぐれ。
なんとなく都市研究って就活時にステータスになりそうなのと、先ほどのショートボブの女性は性格はあれだったが、一応は可愛かったからだ。
そんな事を考えていると雑木林の合間に池らしきものが見えてきた。
「ここってまだ大学の敷地なのか?いくらなんでも広すぎだろ」
雑木林内は薄暗く、陰鬱な雰囲気も相まって自然と独り言が多くなる。
池の全貌が見えようとしたとき、そのほとりに2階建ての古ぼけた民家が佇んでいた。
家の壁面には苔がびっしりと生えており、湿気のせいか、ところどころ傷んでいた。
僕はまさかとは思ったが恐る恐る古民家へと近付く。寄れば寄るほど人が住んでいるとは到底思えない外観だ。
とりあえず玄関の前まで行くと、扉の右上にある木の表札が目に留まる。
そこには確かに“としけん”と赤いクレヨンのような文字で書き殴られていた。
このミミズの這ったような字…あのクソみたいな地図を作った奴と同一人物なんじゃ…。
ついつい思考が脱線してしまいかぶりを振る。
とりあえずここが“としけん”とやらで間違いないようだ。
それならと、ささくれが剥き出しになった木の扉を激しめにノックする。
…数分が経過しても人が出てくる気配はない。
「すみませ~ん。どなたかいますか?」
声を掛けるも家の中から反応はなく人の気配すらしなかった。
やっぱりここじゃないのか。
そうだよないくらなんでも不気味すぎる。
てか、そもそも部室じゃなく家だしな。
そうツッコミを入れていると、
突然、目の前の木の扉が年季の入った木が軋む音を立ててゆっくりと開かれた。
いきなりの出来事で僕は呆気に取られ
しかし、扉はひとりでに開いたのか、そこには誰もいなかった。
これは入っていいのか?
家の中に明かりは灯されておらず、
建物の見た目と同様に玄関内もかなり年季が
入ってるのが覗える。
「どうしよう…」
僕は暫し逡巡するも、意を決して家の中に足を踏み入れた。
この時、そのまま引き返していたら、
また違った未来が僕にはあったのかもしれない。
玄関で靴を脱ぎ上がり
「お邪魔しまーす」
と小声で呟く。
お邪魔してすぐ隣に襖があり、開くと6畳ほどの殺風景な和室があった。
部屋の中もかなり薄暗くそんな中、僕はあるものに目を奪われる。
「これは…箱?」
和室の真ん中に黒塗りに梅の花らしき紋様が描かれた小箱が置かれていた。
なんとなく小箱の中身が気になり手をかける。
ゆっくりと蓋を開けると中には1枚の紙切れが入っていた。暗くて何が書いてあるかは読み取れない。
僕はポケットに入れていたスマホを取り出し、ライトを照らす。
なんだ…?照らされた神には何か文字が書かれていた。
“ご・う・か・く♡”
次の瞬間、突然の眩い光で僕の視界がホワイトアウトした。
徐々に視界が定まってくると同時に
「おめでとう〜」と3人の男女が僕を取り囲んでパーティークラッカーを浴びせられた。
「うぉ!」
僕は突然の出来事に
「なんだなんだ今年の新人はえらくビビりだな!」
豪胆に笑う巨躯の男性が、畳にへたり込んでいる僕に大きな手を差し出す。
「そういうアンタの方がビビりでしょ。まったく、伝統だかなんだか知らないけどこんな悪趣味な試験は止めたら?」
巨躯の男性の隣に、ツンとした表情の丸眼鏡の女性が苦言を
「まあまあ…
すかさず爽やかな顔と声の金髪のイケメンが丸眼鏡の女性を宥めようとする。
「うっ…うるせえ、気安く可愛いなんて言うな。セクハラだぞ!」
丸眼鏡の女性は言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
…と冷静に状況を分析しようとするも何がなんだか分からない状況だ。僕は巨躯の男性が差し出す手に摑まり立ち上がる。
「いったい…これはなんなんですか」
状況が飲み込めず絞り出すように声をだす。
「試すような真似をしてすまないね。僕は副代表の
金髪で爽やかイケメンが改まって自己紹介を始める。
「1年の
「あれ?
「えっ!」
ここにきてようやく“としけん”が都市伝説研究サークルの略だと知ることとなる。
呪的遁走 那須儒一 @jyunasu
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