呪的遁走
那須儒一
1話 新入生
人気のない森の中に、ぽつりと二階建ての古民家が建っていた。
まだ昼過ぎだというのに、あたりはやけに薄暗い。
じっとりと肌にまとわりつく湿気、鼻をつくカビ臭さ。
いかにもなにかが出そうな雰囲気だ。
――僕は、こんなところで何をしてるんだろう。
私立B大学の新入生、**
遡ること、数時間前――。
今日は、待ちに待った入学式の日。
私立B大学のキャンパス内では、さまざまなサークルや部活動の先輩たちが、新入生を勧誘しようと声を張り上げていた。
「すげぇ、人だかり……」
大学案内のパンフレットを開き、部活動やサークル一覧にざっと目を通す。
――手っ取り早く、出会いのチャンスがありそうなサークルがいいな。
僕の大学生活の目標は、何を隠そう「彼女を作ること」。
まずは交友関係を広げて、いかにして出会いを増やすかが勝負だ。
「にしても、サークルって変なのばっかだな……。
テーブルゲームサークル、野草サークル、ピーマン? としけん? 野外活動部……?」
名前だけでは、活動内容がまったくわからない。
パンフを見る限り、テニサーや漫研などの有名どころは、それなりに詳しく紹介されているが、マイナーなところは小さな枠に名前が載っているだけだ。
一覧をぼんやり眺めていると、突然、背後から声がかかった。
「そこの茶髪のキミ! ちょっといいかな!」
顔を上げると、栗色のショートボブが印象的な快活そうな女性が、なぜかこちらにグーサインを向けている。
「茶髪って……僕のことですか?」
大学生の茶髪率はそこそこ高い。念のため、自分かどうか確認してみる。
「そうだよ! 髪は明るいけど、顔は根暗そうな、いい塩梅のキミ!」
――それ、サラッとディスってない?
そう心の中でツッコミを入れつつ、声には出さずに返す。
「いきなりなんですか?何か用でも?」
初対面で、しかも先輩の可能性もあるので、とりあえず丁寧に応対する。
「ナニもカニもあるよ!サークル勧誘だ、少年!」
「少年って……あなたもそんなに歳、変わらないでしょう。それで、何のサークルです?」
変なノリに気圧されつつも、興味半分で尋ねてみる。
「ほうほう。そんなに若く見えるかい? まだまだ私も捨てたもんじゃないねぇ」
「…で、何のサークルなんですか?」
「まったく、せっかちな男だ……。早い男は嫌われるよ。我々が所属しているのは“としけん”だ!」
女性は「言えばわかるでしょ」とでも言いたげな表情で胸を張る。
「“としけん”って言われても……わかりません」
「えぇっ!? わかんないの!? 一般常識だよキミ! と・し・け・ん!」
「いやいや、区切られても意味わかりませんって。勧誘なら、新入生にもわかるように説明してくださいよ」
あまりの癖の強さに苛立ちを覚え、つい語気が強くなる。
「まったく仕方ありませんなぁ。我々は、“都市”を“研究”しているのだよ!」
女性は人さし指を左右に揺らしながら、まったく説明になっていない説明をする。
「それで……僕に、どうしろと?」
――もう敬語を使う気にもなれなかった。
「ズバリ! 君には才能を感じる。我がサークルで、その才能を遺憾なく発揮してみないかい?」
「才能って……何の? 都市研究の才能?」
「そうだね! 当たらずとも遠い、ってところだね!」
「それ、要するに的外れってことじゃん」
「キミ……もう“つかれて”るね」
「えっ、それって……どういう」
「とにかく! 私は忙しいのだよ! 部室の場所はこの地図に書いてあるから、とりあえず寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
女性は雑に手に持っていた紙を押しつけ、足早に去っていった。
「ちょっと、待ってください!」
僕の声も虚しく、変な女性は人混みに紛れて姿が見えなくなった。
「なんなんだよ、あの人……。自分で呼び止めといて、“忙しい”ってどういうことだよ……」
“つかれてる”? 疲れてる? 憑かれてる?
言い回しが妙に引っかかりつつも、僕は渡された地図に目を通す。
「……なんだよ、これ」
そこには、まるで幼稚園児が殴り描いたような、地図とも呼べない案内図が描かれていた。
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