1話 新生活
人気の無い森の中にぽつりと2階建ての木造住宅が建っていた。まだ昼過ぎだというのに、辺りはやけに薄暗い。
いかにも何かでそうな場所だな。
僕はこんなところで何をしてるんだ。
私立F大学の新入生である
遡ること数時間前…。
今日は花の入学式。
私立F大学のキャンパス内では様々なサークル、部活動の先輩方が新入生を確保すべく勧誘に勤しんでいた。
「すげえ人集り…」
灰原は大学案内のパンフレットから部活動、サークル一覧の項目をざっと目を通す。
部活よりラフなサークルがいいかな。
それに僕の大学生活での目標は兎にも角にも彼女を作る事。交友関係を広げれて適度に緩いとこがベストだ。
「しっかしサークルってのは変なのばっかだな。
カードゲーム、野草サークル、ピーマン、としけん、カタツムリ、カバディー」
「名前だけじゃ活動内容なんぞ全然わからん…。パンフレットを見る限り、テニサーや漫研等の有名どころは紹介欄にサークルの概要が書かれている…がマイノリティーなサークルは設けられた欄も小さく名前のみの紹介だけに留まっている」
灰原が一通りパンフレットに目を通していると突然横から声を掛けられた。
「そこの茶髪のキミ!ちょっといいかな」
顔を上げると、栗色のショートボブが特徴の快活そうな女性が、何故か灰原の隣で右手の親指を立ててグーサインを出していた。
「茶髪って僕の事ですか?」
大学生は茶髪人口が多い為、灰原は自分の事かと目の前の女性に確認する。
「そうだよ!髪色は明るいけど顔は根暗そうな良い塩梅のキミ!」
それ、サラッとディスってないですか?
と心の中で返答して、
「何か用ですか?」と声には初対面かつ先輩かもしれない相手に当たり障りの無い言葉を乗せる。
「ナニもカニもないよ。サークル勧誘だ少年」
「少年って…あなたもそんな歳変わらないでしょ。それで何のサークルなんです?」
変なノリに若干気圧されつつも、灰原は仕方なくサークルの内容を訊く。
「ほうほう、そんなに若く見えるかい?まだまだ私も捨てたもんじゃないねえ」
「もう一度、お尋ねしますね。何のサークルなんですか?」
「まったく、せっかちな男だ…。私たちが所属しているのは“としけん”だよ」
目の前の女性はさも知っていて当然だろと言わんばかりに自信満々にサークル名を告げる。
「としけんだよって言われても…わかりません」
「ええっ、わかんないの?一般常識だよキミ!とし、け、ん、だよ」
「いやいや、そこ区切られても分かりませんってば。勧誘なんでしょ?新入生にも分かるように説明してくださいよ」
目の前の女性の癖の強さに、灰原は苛立ちを覚えついつい語気が強まる。
「まったく仕方ありませんなぁ。私達は都市を研究してるんだよ」
目の前女性は首を左右に揺らしながら説明になってない説明をする。
「それで…僕にどうしろと?」
灰原は既に敬語を使うのを止めていた。
「ズバリ!君には才能を感じる。我がサークルでその才能を遺憾無く発揮してみないかい?」
「才能ってなんの?都市研究の才能?」
「そうだね!当たらずとも遠いといったとこだね」
「いやいや。それって的外れって事だよな」
「とにかく私は忙しいのだよ。部室はこの地図に書いているから先ずは寄ってらっしゃい」
女性はそう告げると足早に立ち去っていった。
「ちょ、待てよ!」
灰原の叫び声も虚しく女性は人混みの中に消え入る。
「何だよアイツ。自分で呼び止めて置いて忙しいとはどういう了見だ。それに、お互いの自己紹介すらしてないじゃないか」
灰原は愚痴をこぼしながらも渡された地図に目を通しす。
「なんっだよこれ!」
そこには幼稚園児が描いた落書きのように書き殴られた手書きの地図が記されていた。
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