えっ、何これ!?ダイイングメッセージ俺の名前なんだけど?

GK506

えっ、何これ!?ダイイングメッセージ俺の名前なんだけど?

 早起きは三文の徳という言葉があるけれど、あれは真っ赤な嘘だ。


 現に、今日、早起きした俺は、今とんでもない窮地に立たされている。


 部活動に所属している訳でもない俺は、朝練も無いのに、朝早く目覚めたから、なんとなく早朝の学校へ登校して来たのだが、その選択が完全に誤りであった。


 誰もいないと思っていた教室には、一人の男がうつ伏せに倒れていた。


 その男の名は、すめらぎたかし


 このクラスの番長を自称する粗暴な男だ。


 おそらく、この日本国のこの令和の時代に番長を自称する男は、彼をおいてほかにいないであろう。


 わがクラスの誇る番長殿は、こんな朝早くに教室で何をやっているのであろうか?と彼に近づいてみると、彼は、まるで死んででもいるかの様にピクリとも動かない。


 いやいやまさかなと思って、彼の口元に手を近づけてみると息をしていなかった。


 『しっ、死んでる!?』


 全身から血の気が引くのを感じた。


 落ち着け、こういう時は救急車か、それとも警察を呼ぶべきか?


 スマホを取り出して、警察へ電話を掛けようとしたまさにその時、皇の手元に、ある文字を見つけた。


 田中たなかはじめ


 それは、まぎれもなく俺の名前であった。


 皇の右手には油性マジックが握られているから、どうやらこれは、彼が薄れゆく意識の中で最後の力を振り絞って残した、いわゆるダイイングメッセージというやつで間違いないだろう。


 えっ?何で?


 いやいやいや、俺は皇を殺していない。


 殺す理由がないし、理由があったとしても俺は絶対に人を殺したりなんかしない。


 しかし、この状況。


 もし、警察に通報しようものなら、俺は冤罪で少年院送り、いや、逆送されて刑事裁判にかけられて、少年刑務所送りという事もありうる。


 何とかしなければ。


 このままでは人生が終わる。


 早起きは全然三文の徳なんかじゃない。


 いくらダイイングメッセージがあったところで、俺にアリバイがあれば、冤罪を免れる事は出来たのだ。


 早起きさえしなければ。


 いやっ、起きてしまった事を悔やんでも仕方がない。


 とにかく、ほかの生徒達が登校してくる前に、真犯人を見つけ出して、俺の無実を証明するのだ。


 こんな所で終る訳にはいかない。


 まずは何か手がかりを……。


 うん?なんだ?


 何か、アンモニアの様な匂いがする。


 毒か?皇は毒で殺されたのか?


 よく見ると、皇の下半身の辺りに大きな水たまりが出来ている。


 なんだ?この水は?


 まさか、氷を使った殺人トリックか?


 これ程の水たまりだ、これが氷だったのだとすれば、さぞかし大きな塊であった事だろう。


 その塊で後頭部をドーン!!


 皇はあっという間に死に、氷はゆっくりと溶け、そして後には大きな水たまりが残った。


 その後、田中一というダイイングメッセージを残して俺に罪を被せ、皇に油性マジックを握らせれば、あっという間に完全犯罪の出来上がりだ。


 だがしかし、俺はトリックを見破ったぞ!!


 人間、追い込まれると秘められた能力が開花するものだ。


 後は犯人を特定するだけ。


 何か、犯人に繋がる手がかりはないであろうか?


 もう一度よく調べてみると、皇の傍らには2冊の本が落ちていた。


 1冊は姓名占いの本。


 そして、もう1冊は絵本。かちかち山であった。


 カチカチ山。狸。タヌキ。たぬき。


 そうか!?分かったぞ、犯人が!!


 ダイイングメッセージの田中一は、犯人が俺に罪を被せる為に残したものだ。


 しかし、皇も、ちゃんとダイイングメッセージを残していたのだ。


 皇が、薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞って残したダイイングメッセージ。


 それは、カチカチ山。たぬきだ。


 そう、犯人は……。


 タッタッタッ、廊下からこちらへ何者かが走って来る音がする。


 そして数秒後。教室に飛び込んで来たのは、


 『やっぱりお前かぁ~!?なかぁ~!!』


 『へっ?』


 すっとぼけた顔で俺を見ているのは、なかはじめ


 そう、田中一から【た】を抜けば、仲一になる。


 犯人は、仲一なのだ。


 『お前が皇を殺したんだろう?』


 『はっ?何言ってるんだ、お前?』


 『犯人は現場に戻って来るって良く言うからなぁ。お前、現場を確認しに来たんだろう?じゃなかったら、こんな朝早くに学校になんの用があるんだ?』


 『数学の宿題のプリントを学校に忘れて帰っちゃったから、朝早く登校して、宿題を終わらせに来たんだよ』


 仲は自分の席に着くと、机からプリントを取り出した。


 まぁ~、犯罪者は嘘がお上手でございます事。


 『もういいよ。もう分かってるんだ。この事件のトリックも、犯人がお前だという事も』


 大丈夫だ、お前はまだ若い。


 ちゃんと罪を償えば、もう一度人生をやり直せるさ。


 グゴッ!!


 静まり返った教室に、大きな音が響いた。


 『ふぁ~っ!!あれっ?俺、寝ちゃってたのか?』


 死んでいたはずの皇が立ち上がる。


 『おい、皇。お前死んでたんじゃないのか?』


 『いや、俺は一度も死んだ事はないぞ』


 ぽりぽりと頭を掻きながら、寝ぼけた声で皇が答える。


 『でもお前、息してなかったぞ』


 『あぁ、俺、睡眠時無呼吸症候群なんだよ』


 『じゃあ、その水たまりは?殺人トリックに使われた氷が溶けたんじゃないのかよ?』


 『これはおねしょだよ。俺は毎日おねしょしてるからな』


 皇は、恥ずかしがる事も無くおねしょ癖をカミングアウトする。


 『じゃあ、その、マジックで書かれた俺の名前はなんだよ?ダイイングメッセージじゃないのか?』


 『あぁ、これ?』


 皇は、ぽりぽりと恥ずかしそうに頭を掻いた後で、


 『お前、最近彼女と別れただろう?すごい落ち込んでて見てられなかったから、新しい相手を見つけてやろうと思ってさ、学校に泊まり込んで、姓名占いの本でお前の名前を調べまくってたんだよ』


 グッと親指を立ててウインクする皇。


 一体この茶番は何なのだ?


 やっぱり、早起きは三文の徳というのは嘘っぱちである。


 窓の隙間から入り込んだ爽やかな朝の風が、まるで俺を慰めるかの様に、優しく体を包み込んだ。


         おわり



 


 


 

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