おっぱいに突き刺さるナイフ(KAC20214)

つとむュー

おっぱいに突き刺さるナイフ

「篤クン。ホラーがいいか、ミステリーがいいか、どっちか決めてくれ!」


 部長の麻里奈先輩が、ずいずいと僕の方へ迫ってきた。

 教室の椅子に座る僕の方へ、黒板からチョークを握って。

 セーラー服の中でその存在を遺憾無く発揮する胸部が、僕に無言の圧力をかけてくる。


「男子で集まって相談するなんて野暮なことは言わずに、篤クンに決めて欲しいのだ」


 演劇部の男子は三人。

 僕は二年生だけど、他の二人は一年生だったりする。

 ということで、部長は僕に決めろと迫る。


「そうよ、篤が決めてくれないと話し合いが進まないじゃない」


 今度は隣の席から声が飛んでくる。

 同学年、つまり二年女子の葵だ。

 今僕たち演劇部は、来月に迫る学園祭の出し物について教室で会議をしているのだ。

 ちなみに演劇部の人員構成は、女子三人、男子三人とこじんまりしている。


「どっちだっていいじゃないですか。だって男子部員は全員、セーラー服を着て女装するんですよね? だったら女子の三人で決めちゃって下さいよ」


 すると今度は、副部長の桜子先輩が可愛らしい声で優しく諭してくれる。

 スタイルが魅力的な麻里奈先輩とは異なり、下級生と言われても疑わないくらい可愛らしいルックスがキュートな先輩だ。

 長い黒髪を左右の二ヶ所でまとめた、いわゆるツインテールがその魅力に拍車をかけている。


「どっちだっていいってことないよ、篤くん。男子だって演技の仕方が変わるでしょ? ホラーかミステリーかで」

「そうだ、胸にナイフを突き立てられる役は変わらないとはいえ、シチュエーション次第で表情の出し方がガラリと変わるのだぞ」


 これを見ろと言わんばかりに、麻里奈先輩と桜子先輩は黒板の前で寸劇を始めた。


「ホラーなら、女生徒は吸血鬼ってところね。人間から胸にナイフを突き立てられるんだから、こんな風に人間が憎いって顔しなきゃだし」


 桜子先輩の胸に麻里奈先輩がナイフを突き立てる演技をする。

 おのれ、人間め――という表情をする桜子先輩は、可愛らしさとのギャップがたまらない。


「ミステリーなら女生徒は被害者だ。彼女だけが犯人の顔を知っている。無念、覚えておれって演技が必要なのだよ。こんな風にね」


 今度は麻里奈先輩の胸に桜子先輩がナイフを突き立てた。

 人生に未練を残すような麻里奈先輩の演技も、迫力があって素晴らしい。

 ていうか、どっちも「おのれ~」でいいんじゃね?

 だから僕は反撃に転じた。

 会議が長引いている本質を鋭く捉えながら。


「そんなこと言って本当は、女子部員がどんな男装をするのかの方が問題なんでしょ?」


 すると両先輩が一歩ずつ退く。

 図星という感じで。

 そして二人は急にもじもじし始めたのだ。


「そうなのよね~。ホラーなら男装はドラキュラとか神父さんでしょ?」

「ミステリーなら名探偵とか刑事。どっちも捨てがたいのだよ。だから私たちには決められない。というわけでどっちか決めてくれ! 篤クン!!」


 両先輩が再びずいずいと迫ってくる。

 となりの葵も、瞳を輝かせて僕に注目する。

 いい加減、嫌になるよ、こんなこと。

 だから僕は言ってやったのだ。


「そもそも、ナイフ型のストローを男子部員のセーラー服のおっぱいに突き刺してトマトジュースを飲むという喫茶店のコンセプトが間違っていると思うのですが……」

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おっぱいに突き刺さるナイフ(KAC20214) つとむュー @tsutomyu

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