《一人で》
【9月26日・午後】
…助かったの?
沼田優奈は重い体を上げてあたりを見渡す。
緑…緑緑
そして青。
見渡せる限り木と海しかない。
後ろから波が私に打ち付ける。
そうだ…落ちたんだ…私達の乗った飛行機が。
混乱する頭を整理しながら立ち上がろうとするが、足がふらつき思うように立ち上がれない。
どうする?
私以外の人もここにいるだろうか。
いないはずがないか。
皆が同じタイミングで落ちたんだから。
「よしっ。」
やることが決まった。
気合を入れてもう一度立ち上がる。
少しふらついたが、今度は立つことができた。
そして、私は一歩を踏み出した。
歩き始めてから30分ほどがたった。
ここに来るまで飛行機の残骸らしきものはいくつか見つけることが出来た。
だが、それだけだ。
人は一人も見つからなかった。
せっかく助かったと思ったのに。
そんなことある‥?
湧き出る涙が視界を曇らせる。
必死にこらえる。
弱気になったらだめだと、暗い気持ちを頭から追い出す。
でも……。
どうすればいい?
私はどうすればいい?
絶対に人がいると思ってたのに。
このままずっと一人だったら。
私はきっと一人では生きてはいけない。
心身ともにすぐにバテてしまうだろう。
やっぱり…無理だ。
せきを切ったように流れ出す涙を拭うことなく、私はしゃがみこんだ。
―その時
ジャリ………。
「おい…沼田?」
後ろで声がした。
気のせい?
反射的に振り返ると、人がいる。
あれだけ探しても見つからなかったのに。
彼はクラスメイトの一人「清水太陽」だ。
ホッとしたような。
でも驚いた顔でそこに立っていた。
良かった。と言って彼もしゃがみ込んだ。
「誰もいないから…。俺しかいないのかと思ったよ。」
二人になると希望が見えてくるものだ。
「この島でかいよな。歩き回ってたんだけど、広くて広くて、まいったよ。」
私自身も歩いて思った。
「清水くんはどのくらい歩いたの?」
「うーん。一時間以上はフラフラしてたと思うんだけど…。」
「私は清水くんの反対側から30分以上は歩いたはず。」
「そういやぁ、元から住んでる人とかいないのかな?探しに行こうぜ。」
これだけ広いのだから人がいるはずだろう。
そう考え私達はまた歩き出した。
でも次は一人ではない。
そのことが私の暗い気持ちを奮い立たせた。
一人でないことが、隣に人がいることがこれほど心強いものだと。
初めて感じた。
嘘だぁ…。
人がいない。
誰も島全体を回りきれていないとはいえ、人が見つかる気配は一向になかった。
太陽の顔にも不安が浮かび始める。
「おい、いないじゃないか。」
「知らないよ。」
二人の声が余計に場を寂しくさせる。
そんな間にも空はまた一段と暗くなっている。
「夜になっちゃうよ。どうするの?」
「雨が振りそうだな、雨に当たらなそうな場所に行こう。少し海から離れたほうがいい。」
太陽の言葉で空を見上げる。
まだ降ってはいない。
だが、塩気を含んだ生暖かい風が体に吹き付ける。
そしてうねるような雲…
それは恐怖さえも感じさせた。
「それなら…一時間前くらいに見つけた穴。そこに行こうよ。」
「そうだな。そこまで戻ろ。」
私達は人を探しながらも寝泊まりをすることができそうな場所を探していた。
そのときに、岩の下が洞窟のようになっている場所を見つけ確認しておいた。
少し前の自分たちに感謝しながら、私達は少し足を早めて今来た道を戻り始めた。
海岸線に沿って歩いていたので、戻ることは容易だった。
30分ほど、時々足を休めながらも競歩のように歩く。
足が疲れてもう無理だというところで、目的の場所までついた。
波打ち際からはある程度離れているが、森にとても近いわけでもない。
岩がいくつか上に重なり、さらに横にも多く連なっている。
中はすでに確認済みだ。
タイミングよくポツポツと雨が降り出した。
「あ、雨だ」
「入れ!」
太陽の声で急いで中にはいる。
雨がまた振り始めた。
だんだんと勢いが増していく。
強い雨。
これからを不安にさせる。
怖い雨。
周りが強い岩で覆われていると思うと心なしか安心出来た。
「おーい、見えるかー?いるかー?沼ー田ー?」
「いるよ!耳元で大きな声出さないで!」
すぐ耳元で大きな声が聞こえまたもや反射的に振り返る。
ゴンッ
鈍い音が響く。
「いったいよ」
「ったい、急に振り返るなよぉ」
額をぶつけたであろう太陽の声と私の声がかぶる。
「ごめん、でも私のせいじゃないよ。」
「俺のせいでもないだろ。」
「いやいやいや。清水くんが急に耳元で声を出したからだよ。」
「そうかー?すまん、でも見えないんだよ。」
太陽の情けない声がこだまする。
なぜか、笑いがこみ上げて来た。
「ふふふ…あははは……」
「なんで笑うんだよお前は。」
太陽も笑った。
この島に来てから初めて笑ったなぁ、と思いながら。
もしかしたら暗い空気を感じて元気づけようとしてくれたのかも知れない。
すごいなぁ。と、思った。
さっきまで悲しかったのに。
寂しかったのに。
その気持ちが和らいだ。
辺りに気をつけながら体を横にする。
もう身体が悲鳴を上げている。
「明日どうするの?」
「取りあえず水ほしい。」
「水なきゃ数日で死ぬもんね。あと、火起こさないと夜何も見えないよ。虫も来るし…。」
「そだなぁ。お前虫駄目なのか?明日に助けが来るのが1番いいんだけどな。」
「虫は…恐ろしいよ。」
「なんだよそれ。」
「そうだ、私!火起こせるかも。晴れてれば…。」
「それは低い可能性だなぁ。」
「雨止むかな。」
「止まないと困る。」
「でも水は手に入るよ。」
「あぁ、確かにな。」
「………。」
「………。」
私達の意識は闇へと吸い込まれていった。
2人だけの世界 たかお @takataka94
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