2人だけの世界
たかお
《始まり》
空が見える…。
体が重い、動かない…。
ここはどこ?
ああ、そうだ。
雨が降っていたんだ。
【9月25日】
明日は修学旅行。
行き先は沖縄だ。
楽しみ…。
だけど…。
この頃は台風が多く、雨が降る日が続いていた。
走るとベタつく髪先が首にまとわりつく。
私はポニーテールをほどき、長い髪をお団子に結び直した。
このままだと、修学旅行は中止となってしまう。
だが雨はそんなことも知るはずもなく、空から私に打ちつける。
この雨は私が学校を出ると同時に降りだした。
傘は持っていたが、強風によって使い物にならなくなってしまった。
空を見上げると、まだ明るいはずの空が灰色、いや黒に近く染まっている。
何が良くないことが起こるのではと思わせるような不気味な空だ。
雨は夜遅くまで降り続いた。
【9月26日・朝】
太陽は雲に覆われ見えない。
だが、今まで降っていた雨はやんでいる。
スゥ―――
土の匂いのする空気。
胸いっぱいに吸い込み短く吐き出す。
玄関を出た私は学校へと足を進めた。
空港へはバスで向かう。
その後は飛行機だ。
3組はどこだろ…?
少し周りを見渡すと、いつも見る顔が集まっている場所を見つけた。
皆が浮足立ち、乗ったことのない飛行機とその先に待つ楽しい時間への期待がみんなの顔からあふれ出ている。
馬鹿騒ぎの合間からは先生が「並べぇ〜。静かにしろ。」と叫ぶ声が聞こえた。
静かになったところで校長の長い長い話が始まる。
「皆さん、おはようございます。
今日は昨日まで降っていた雨が止みました。
さらに、生徒全員で参加することが……」
数十分後、ひとり残らずバスに乗ったことを確認すると、先生の合図でバスが進みだした。
途端にバスの中はにぎやかになり音楽も流れ出す。
「今からレクを始めまーす。」
「担当は西と日山です。」
「曲流すねー。
曲名は―――です!」
笑顔の絶えない幸せな時間が始まった。
私の隣の席の子は三国一穂さんだ。
ロングの髪を編込み、一つにまとめている。
彼女とは必要以上に話したことはない。
まつげが長くてパッチリとした目で本当に可愛い。
そして、密かに男子に人気があることを知っている。
だからこそ、女子力のないだろう私は話しかけるのを躊躇してしまう。
でも、いつか仲良く話せたらいいな…と思う。
彼女には話しかけず、私は窓の外を眺めた。
高速に乗ったバスの右側にはビルやマンションが多く立ち並び、左側には一軒家が多く建っている。
それらが速いスピードで私達の横をかけていく。
窓側で良かった。と思いながら三国山の方をこっそり見る。
彼女は通路を挟んで隣の女子と楽しげに話していた。
私なんかが隣でごめん、と胸が少し傷んだ。
静かだ。
空港へ向かうバスに乗ったあと、私達は飛行機へと移った。
飛行機の下には今、青い海が広がっている。
始めの頃はトランプをやったり、女子トークが盛り上がったりとにぎやかだったが、時間が経つと寝息を立てる人が増えはじめた。
昨晩は楽しみでみんな眠れなかったのかもしれない。
また窓の外へと目を向ける。
外ではまた雨が降り始めていた。
――次第に私の意識も薄れていった。
「―――だって?
おいっどうなっているんだ‼
私達は子供たちを親から預かっているんだ!!
無事に帰れないかもだと!?
どうしてくれるんだ!!」
私の意識は急に現実へと引き戻された。
一番はじめに聞こえたのは先生の怒声だった。
え?!何?怒ってる…?
曖昧な意識の中先生の言葉を繰り返す。
無事に帰れないって…?
どういう…。
周りを見渡すとみんなも困惑した様子だ。
その後にすぐアナウンスが流れ始めた。
「当機はこれから緊急着陸をします。シートベルトの着用を確認し、ポケットからペンなどの尖ったものを出し鞄などにしまってください。そして衝撃に備える姿勢をとってください。……」
ん?
状況がうまく読み込めない。
何だって?
緊急着陸?
落ちるの?
海だよね…ここ。
――――――死ぬ?
よくわからぬまま無我夢中でアナウンスに従った。
みんなが状況を理解し始めたところでパニックが機体中に広がった。
何かを考える余裕なんて私にはない。
最後にきこえたのは
「祈ってください」
との声。
無責任な。
誰もが死を覚悟した。
わたしは両手を爪が食い込むほど握りしめる。
助かってくれ。
夢であってくれ。
誰もがそう思っていただろう中、大きな衝撃が走った。
楽しい修学旅行はここで終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます