第52話



その翌日のこと。


「なんだこれ…?」


朝。


いつもより若干早い時間帯に登校してきた俺は、靴箱に入れられていたそれを手にして首を傾げていた。


それは薄っぺらい茶封筒だった。


シールで口が留めてある。


「ひょっとして手紙…?この時代に古風だなぁ…」


そんなことを言いながら、俺は中身を確認する。


出てきたのは一枚の白い便箋。


明らかに女性のものであるとわかる字で、こんなことが書かれてあった。


西野壮平くんへ

・大切な話があります。放課後、校舎の屋上へ来てください


「すげー、デジャブ…」


短い文章を読み終わった俺は、なんだか頭を抱えたくなった。


嫌な記憶が頭の中に蘇る。


「まさかまた鷲崎や松平たちの罠か?」


前回同様あいつらの仕業である線は十分に考えられる。


しかし…


「もうやるなって言っておいたよな…?流石にあいつらではないような…」


鷲崎にはこのようなことは2度とやるなといい含めてあったはずだ。


そして今や俺は、幸か不幸か、鮫島先輩を公衆の面前で倒したことで、この学校で最も恐れられている存在だ。


そんな俺に、鷲崎たちがまた同じ悪戯を仕掛けるだろうか…?


「流石にそこまでバカじゃないよな…となると、別口か」


俺はなんとなく鷲崎たちの仕業ではないような気がしていた。


しかし、それでは一体誰がこんな手紙を俺に…?


差出人の名前は書かれていないようだが…


「ま、いいか。相手にしなければいいだけの話だ」


罠かもしれないところへ、自ら飛び込んでいくことはないだろう。


また赤っ恥をかくとも分からないわけだし、俺はその手紙を無視することにした。



「来ちゃったよ…」


そして、放課後。


俺は校舎の屋上の扉を前にして、そんな呟きを漏らしていた。


「…あれだな。人は好奇心には勝てないな」


前回痛い目をみた後だというのに、俺は結局好奇心に負けて屋上へと足を運んでいた。


ドアノブへと手をかける。


この先に手紙の差出人がいるかもしれない。

わずかに鼓動が高鳴った。


「ち、ちわーっす」


覚悟を決めて、俺はドアを開いた。


「あら、ようやく来たようね」


そんなセリフとともに、フェンス付近でこちらに背を向けて立っていた人物が振り返る。


「うそ…だろ…?」


思わず瞠目する。


信じられないような人物がそこにいたからだ。


「あら、意外だった?」


俺の反応を見て、その少女はクスリを頬を歪める。


神崎麗子。


学校一の美少女と名高い女が、夕陽を背にして俺に微笑んでいた…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る