第51話



鮫島先輩にお灸を据えた後。


俺はスーパーに立ち寄って、夕食の惣菜などを買ってから家に帰った。


リビングへ行くと、ソフィアが警戒心をあらわにして、物陰に身を隠していた。


「何してんだ、お前」


「しっ、ご主人様!」


「え…?」


「侵入者です」


「は…?」


一瞬固まる。


侵入者。


今、そう聞こえた。


泥棒が入ったってことか?


「ど、どこだ…!?」


「あそこです!!」


そう言ってソフィアが指さしたのは、電源の切れているテレビだ。


「ん…?テレビ…?」


「あの箱の中に、先ほど小人を発見しました」


「あぁ…」


それで俺は全てを察した。


ニヤニヤしながら、机の上のリモコンを手に取る。


「ソフィア。お前、これに触れたろ」


「え、えぇ…少しだけ…。その直後に、侵入者に気付きました」


「侵入者じゃない。まぁ、見てろ」


俺はリモコンのボタンを押した。


パッとテレビがつく。


いつもこの曜日のこの時間帯にやっているバラエティーショーが映し出された。


「…っ!?」


ソフィアが目を見開いて、身構える。


「落ち着けって、別にあの中に人がいるわけじゃない。これはテレビと言ってな。この世界の娯楽用品だ」


「て、れび…?」


「ああ。今あそこに映っているあれはな…遠くにあるスタジオってところで撮影したのを、電波っていう技術でここまで届けているんだ」


「でん、ぱ…そういうものが…ということは、あの小人は…実際には箱の中にはいないのですか…?」


「ああ。触ってみろよ」


「わ、わかりました…」


恐る恐るテレビに近づいていくソフィア。


震える手を伸ばして、テレビのスクリーンに触れる。


「ほ、本当だ…何もない…一体どうなって…?」


「そういうもんだ。受け入れてくれ」


「…」


しばらく絶句しながらテレビを見つめるソフィア。


彼女がテレビの前から退くのに、たっぷり十分ぐらいはかかった。





「いただきます」


「いただき


ソフィアと共に夕食を食べる。


ソフィアは昨日教えた『いただきます』を、

手を合わせて完璧に実行してみせる。


飲み込みは確実に早いほうだな。


「どうだ。美味しいか?」


「はいっ!!おいひいですっ!!」


口いっぱいに頬張りながらソフィアが答える。


「昨日のかっぷめんもでしたが…ご主人様の世界のご飯は美味しすぎます…私たちの世界よりよほど食文化が発達しているのですね…」


「まー、調味料とかいろいろあるからな」


本当に美味しそうに食べるソフィア。


あまり高くない惣菜でこの調子なら、外食とかさせたら大変なことになりそうだな。


今度散歩がてら連れてってやるのもいいかもしれない。


外を歩かせるのが、この世界になれるのに手っ取り早い方法だろう。


「そういや、歴史はどの程度までやったんだ?」


俺は机の上に散乱した歴史の教科書や資料を見ながらソフィアに聞いた。


この調子だと、俺が帰ってくる直前まで教科書を読んでいたようだ。


「ええと…きんげんだい、と呼ばれる時代まで一通り…ご主人様の国、『にっぽん』が戦争に負けたところまでやりました」


「おお…もうそこまで…」


早すぎる。


なんだろう、この理解のスピードは。


ソフィアはエルフで、何百年も生きていると言っていたが、そのせいなのだろうか。


なんにしろ、俺にとっては都合がいいな。


「本当に、一、二週間経たないうちに適応しちまいそうだな…」


「はい!がんばります!」


ぐっと拳を握るソフィア。


「おう、頑張るのもいいけど、ほどほどにな」


ソフィアの勉強スピードが少し怖かった俺は、そんなふうに釘を刺すのだった。



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