第53話
「意外だった?」
屋上で俺を待っていた神崎は、揶揄うように微笑する。
俺はあまりの驚愕に、しばらく言葉が出なかった。
やがて…
「この手紙は…お前が出したのか…?」
ポケットから靴箱に入っていた手紙を出した。
「ええ、そうよ」
神崎は頷きと共に肯定の言葉を口にした。
「どうしてもあなたに話しておきたいことがあって」
「…っ」
ドクドクと、心臓がうるさい。
神崎麗子。
この名前は、校内の誰もが知っている。
容姿も、勉強も、スポーツも。
何もかもが一級品な彼女は、この学校においていわばアイドル的な存在だ。
特に容姿は芸能人レベルで秀でており、噂では大手芸能事務所にスカウトされたこともあるらしい。
そんな雲の上の如き存在が…どうして俺を手紙で呼び出すなんて真似をしたのだろうか。
「ちなみに、なんでだと思う?」
「は、はい…?」
「自分がどうして呼び出されたのか、見当はついているかしら?」
「さ、さぁ…?」
「当ててみて。当たったら結婚してあげてもいいわ」
「…っ…揶揄わないでくれ」
100%冗談だってわかってても、これほどの美女に結婚なんて言われたら、やっぱり動揺せざるを得ない。
俺は挙動不審になり、落ち着かない仕草で額の汗を拭う。
そして、焦りまくる俺の反応を、神崎はどこか楽しむように眺めている。
完全に手玉に取られていると感じた。
「うふふ…ごめんなさい。あなたの反応が面白くてつい。じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」
そう言った神崎は徐に手にしたスマホを操作して、画面をこちらに見せてきた。
「あ…」
思わず声を漏らす。
スマホで再生されていたのは、いつぞやの俺が不良とことを構えた時の動画だった。
誰かに盗撮され、ネットで拡散され、そのせいでこの学校に俺=怖いやつなんてイメージが定着してしまった。
俺からしたらさっさと忘れられてほしい黒歴史。
それを…あの神崎にも見られたってのか…?
というかなぜここで、あの動画が出てくる?
「この動画、見させてもらったわ」
「お、おう…」
「すごいのね。明らかに喧嘩慣れしているように見える人たちをたった一人で退けるなんて…と言うかこれ、完全に殴られてるのに、あなたには痛み一つ感じている様子がない。どうなっているの?」
「そ、それは…」
俺はなんて言おうか迷っていた。
鍛えていたから?
格闘技経験者だから?
色々言い訳のパターンは思いついたが、掘り下げられると簡単に嘘がバレるような気がする。
「ふぅん…」
「な、なんだよ…」
神崎が俺を見る目を細めた。
何かを伺うというか、探るというか、蛇のような視線だ。
俺は思わずたじろいでしまう。
「ねぇ、西野くん」
「は、はい…」
あ、俺の名前知ってるんだ。
そんなことを思ったのも束の間で。
「あなた、異世界への入り口を知っているでしょう」
「へ…?」
全く予期しないタイミングで、神崎が爆弾発言を投下したのだった。
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