第41話


「すみませぇええん…許してくださいっ、この通りですっ」


あれから数分後。


俺の目の前に、泣きじゃくりながら情けを求める哀れな男が一人いた。


「ほんの出来心だったんですぅ…どうか命だけはお助けを…」


案内人に扮して俺たちを騙し、裏路地に連れ込んでみぐるみを剥ごうとした張本人であるアルト。


彼の周りには、仲間である男たちが気絶して倒れ伏していた。


「出来心?ここへの誘導といい、この人数での待ち伏せといい、ずいぶんとこなれた感じでしたが?このごに及んでまだ嘘を重ねるんですか、アルトさん」


「なっ…なぜ名前を…?」


名乗ってもいないのに、俺に名前を知られていたことに驚くアルト。


俺は余裕の笑みを浮かべながら答える。


「なぜって私は鑑定スキルを持っていますから」


「か、鑑定スキル!?」


アルトさんが驚きの声をあげる。


「じゃ、じゃあ…最初っから私の正体がわかってわざと罠に…」


「え、えぇ、もちろんそうです。あなたの職業が追い剥ぎであることははじめからわかっていましたとも、ええ…おい、なんだよウルガ。何か言いたげだな?」


『ワフッ』


なぜかこっちをじっと見つめてきているウルガ。


俺はバツが悪くなって目を逸らす。


「は、ははは…」


全てを諦めたのか、アルトはガックリと膝をついた。


俺はそんなアルトの胸ぐらを掴む。


「まぁ、命をとることはしませんよ。とりあえず冒険者ギルドまで案内してもらいましょうか。当初の予定通りにね」



「ここが冒険者ギルドとなっております、ニシノ様」


それから1時間後。


俺とウルガは、アルトの案内で巨大な施設の前にやってきていた。


前方に見える入り口では、絶えず、武装した人たちが行き交っている。


どうやらここが、荒くれ者の統治機関、冒険者ギルドで間違いないようだ。


「ご苦労、アルトくん」


「は、はいぃ!恐縮ですぅ…そ、それじゃあ、私はこれで」


「うん、あんたはもう用済みだ。行っていいぞ」


そういうと、アルトはほっと胸を撫で下ろして立ち去ろうとする。


そんな背中に俺は一声かける。


「あぁ、言い忘れていたが、もう追い剥ぎ商売はやめた方がいい。次にこの街で君や君の仲間を見つけたら容赦しないから。さっさとここから出て遠くの地へ行け。いいな?」


「ひぃっ!?」


「わかったのか?」


「はいぃ!!承知いたしましたぁ!!」


涙目になったアルトが悲痛な声をあげる。

よし。


これだけ脅しておけば、もうこの街で彼らによる被害者が出ることはないだろう。


「よし、行くか」


俺は一仕事した気分で悠々と冒険者ギルドの中へ入っていった。




ギルドの内部は、入ってすぐの場所は食堂のようになっていた。


見るからに荒くれ者の見た目をした者たちが、飯をくらい、酒を飲んでいる。


俺は彼らの合間を縫うようにして歩き、奥にある受付を目指した。


ギルド内は冒険者でごった返しており、俺のように使役したモンスターを連れているものもしばしば散見される。


街では俺の隣を歩くウルガを見て驚くものや、ジロジロと物珍しそうに眺めてくるひとがいたのだが、ここではそういうこともない。


どうやらテイムしたモンスターを連れている冒険者というのは別段珍しい存在じゃなさそうだ。


やがて、俺とウルガは受付にたどり着いた。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」


受付に立つお姉さんが、ニコッと笑かけてくる。


「冒険者になりたいんだが、どうすればいいんだ?」


「ええと…ギルドに登録するのは初めてですか?」


「初めてだ」


俺は頷いた。


「わかりました。でしたらまずは、登録の手続きと冒険者カードの発行が必要になります。その後に、当ギルドで冒険者向けに出されている様々なクエストを斡旋させていただくことになります」


「なるほど。わかった」


俺がネットで読んでいた小説の中に登場する冒険者ギルドとさして変わらない仕組みだな。


俺はすぐに飲み込むことが出来た。


ただ、気になることが一つ。


「登録は無料でできるのか?」


「はい、無料でできますよ」


「そうか…」


それを聞いて安心した。


俺たちは未だ無一文だからな。


金を払えと言われたらどうしようかと思った。


「それじゃあ、まず初めにステータス鑑定からですね」


「ステータス鑑定?」


「ええ。冒険者となれるのはレベル10以上の人のみに限られます。レベルが10未満だった場合、残念ながら当ギルドでの登録はできかねます」


「10以上か」


案外敷居は狭いのだな、と俺は思った。


「それではこちらの水晶に手をかざしていただきます」


「こうですか?」


「ええ。そのまましばらくお待ちください」


俺は紫色の水晶に手をかざしたまま、動きを止める。


紫色の水晶は、点滅しながら、青や赤や緑といった様々な色に変化していった。


その表面を、受付嬢が難しい顔をしながら見つめている。


パリンッ!!


「えっ」


「ん?」


俺が辛抱強く待つ中、突如として水晶が破裂した。


「えええっ!?ま、まさか…!」


受付嬢がワナワナとした声で聞いてくる。


「れ、レベル50以上…!?」


俺を指差して大声をあげる。


「あ、あの…どうかしたんですか?」


「す、水晶が割れてしまいました…」


「はぁ。俺のステータスは測定できたので?」


「い、いえ…出来ませんでした…この水晶の鑑定限度がレベル50なんです…まさかあなたはレベルが50を超えて…」


「俺のレベルは102ですけど」


「ひゃ、102!?」


受付嬢がまたもや大きな声を出す。


そんなに驚くことだろうか。


俺は受付嬢の反応に違和感を感じざるを得なかった。


なぜなら俺はそこまで苦労せずともこのレベルまで到達できたからな。


この世界の冒険者たちはもっと強いのかと思っていた。


だが、彼女の反応を見る限り、そんなこともないらしい。


「し、信じられません…102だなんて…で、でも、水晶が壊れたということは50以上は確実…ちょ、ちょっとお待ちいただけますか?今、奥から大水晶を持ってくるので!!」


「はぁ、わかりました」


俺が頷くと、受付嬢は慌ただしく奥へかけていった。


『ワフ?』


俺の横で一連の流れを見ていたウルガが、首を傾げるのだった。


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