第42話


しばらくすると受付嬢が奥から、先ほど破裂したものよりも一回りサイズの大きい水晶を持ってきた。


「こ、これは測定レベル上限が150の水晶です。滅多に使わないので普段は倉庫に保管されているのですが…これなら、おそらくあなたのレベルを測ることが出来ます」


「わかった。さっきみたいに手を翳せばいいのか?」


「はい、お願いします」


俺はその巨大な水晶に手をかざした。


しばらくすると、水晶の表面に文字のようなものが浮かび上がってきた。


受付嬢がその表面に浮かび上がった文字をサラサラと書き写す。


「えぇと、名前はニシノ・ソウヘイ様、ですね…わぁ、信じられません、本当にレベルが100を超えています…」


受付嬢は、レベルの書き写された羊皮紙と俺を交互に見ている。


「冒険者として登録は出来そうか?」


「も、もちろんです。申し分ないステータスです」 


その後の手続きはスムーズだった。


冒険者登録をするには冒険者カードというものが必要で、これを作成するのには出身地などの個人情報が必要となる。


俺は異世界人であることをなるべく伏せながら、受付嬢に個人情報を喋る。


受付嬢は、文字の書けない俺の代わりに書き取ってくれた。


「では、この情報で冒険者カードをお作りいたしますね。しばらくお待ちください」


そう言って受付嬢が奥に引っ込んだ。


次に戻ってくる時、彼女の手には、鉄製のカードが握られていた。


表面にニシノ・ソウヘイという名前が刻まれている。


「これがニシノ様の冒険者カードとなります。アストリオ内の冒険者ギルドであれば、どこでも利用可能です」


「ありがとう」


「ええと…ではこれにて登録手続きは完了となるのですが、今日はクエストは受注されますか?」


「いや、いい。それよりも、さっきこの冒険者ギルドではモンスターの魔石の換金も行ってると言ってたよな?」


「はい、申し上げました」


先ほど、受付嬢から簡単なギルドの仕組みの説明があった。


その中で、冒険者ギルドはモンスターの魔石の換金も行っているということが言われていた。


「じゃあ、これを換金して貰えるかな」


俺は亜空間の中から、アストリオに着く前に森の中で戦ったオーガ・キングの魔石を出した。直径30センチくらいの大きさの魔石を見た受付嬢が、目を丸くする。


「で、でかぁ!?」


「…」


「はっ、失礼しました…!い、今査定しますね」


受付嬢が何やら別の道具を持ってきて、魔石を入念に観察し始める。


「どうやらこれはオーガ・キングの魔石のようですね。純度は80%…ええと、金貨50枚相当の価値があります」


「金貨50枚…それってどのぐらいの価値なんだ?」


なんとなく凄そうなのはわかるが、俺にはアストリオの正確な物価などはわからなかった。


「ええと…金貨50枚ですと、一年は遊んで暮らせますよ」


「一年!?」


思わず声をあげてしまった。


予想外の大金。


一応命懸けで手に入れた魔石とはいえ、まさかそんな値がつくなんて思っても見なかった。


「換金されますか?」


「よろしく頼む」


「わかりました」


その後。


俺は受付嬢の持ってきた金貨でギチギチの革袋を亜空間の中にしまって、冒険者ギルドを後にしたのだった。



「なるほど…大体金貨一枚で十万円相当か…」


ギルドで冒険者登録を済ませた後。


俺はアストリオの街中を歩き回り、物品の価格と貨幣価値を調べていた。


それによると、大体以下の通りになる。


まずアストリオで使用されている金は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の四種類。


露天の品物を見て日本円に当てはめてみたところ、大体鉄貨一枚で100円の価値がある。


また、買い食いをした露天商にちょっと余分にお金を弾んで教えてもらったところ、鉄貨10枚で銅貨一枚、銅貨10枚で銀貨一枚、銀貨10枚で金貨一枚の価値になるというから、金貨一枚にはおよそ十万円の価値があることになる。


つまり現在の俺の所持金は五百万円。


俺はオーガ・キングの魔石から、一気に中年サラリーマンの年収ぐらいの大金を手に入れたことになる。


「クエストを受注して倒した場合、クエスト料も貰えるわけだから…うん、冒険者は儲かるかもしれない…」


なんかもう日本で学生やってるのがバカらしくなってきた。


明らかにこっちで生きていった方が人生イージーモードだ。


まぁ、でも流石にすぐさま現実世界を捨ててこっちに生活拠点を移すような決断力はない

し、高校ぐらいは卒業しておきたい。


すぐにでも冒険者クエストを受けたいが、明日には帰らないといけないわけだし、今日は都市の探索に専念するとしよう。


「行こうぜ、ウルガ」


『ワフッ!』


俺はウルガとともに、大都市の探索へと乗り出していった。



「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!古今東西、いろんな場所から寄せ集めた奴隷を販売しているよ〜。肉体奴隷に戦闘奴隷に性奴隷、品揃えは豊富だよ〜。ぜひ見ていってくださいね〜」


「…」


アストリオの街をぶらぶらと歩くことしばし、俺の耳に聞き捨てならない声が聞こえてきた。


「お、お客さん、奴隷に興味があるのかい?」


俺が足を止めたことで、その店の店員と思しき男が声をかけてくる。


「え、えぇ…少し」


「どうぞどうぞ中へ。いろんな奴隷を取り揃えております」


「じゃあ、ちょっとだけ」


それはいわゆる奴隷商館というやつ。


異世界といえば奴隷、みたいなところがあるが、この世界にも奴隷は存在するようだ。


俺は店員に押されるようにして、店の中へ足を踏み入れた。


「…」


店の中にはたくさんの鉄のおりが置かれてあり、その中に様々な種族の奴隷が入れられていた。


ケモミミの生えた獣人族。


鱗に覆われた蜥蜴族。


鋭い牙を持った狼族。


普通の人間の奴隷もいれば、見目麗しいエルフ族の奴隷もいる。


奴隷たちはそうじて虚な瞳をしており、俺が檻の近くにきても、ほとんど無反応だった。


ちょっと可哀想だと思ったが、しかし異世界には異世界の法があるのだ。


俺がとやかくいうことではないだろう。


「それにしても、高いな…」


奴隷の檻には値札が貼られていたが、どの奴隷も金貨100枚や200枚といった値段がザラだ。


中には金貨1000枚、日本円に換算して一億円という破格の値段の奴隷もいる。


別に購入したいなどとは思わないが、いずれにせよ今の俺には手の届かない商品だった。


「ん…?」


ふと端の方に置いてある奴隷が目に止まった。


値札の金額を見る。


金貨5枚。


この奴隷だけ値段が異常に安い。


不思議に思って、俺は店員に尋ねてみる。


「すみません、なぜこの奴隷だけこんなにも安いのでしょうか?」


「あぁ、そいつは不治の病を持ってましてね。もうじき処分するんですよ。だから安いんです」


「しょ、処分…?それはどういう意味ですか?」


「はぁ、お客さん。勘弁してくださいよ。そりゃあ、奴隷を処分って言ったら、殺すってことですよ。ったく、処分には業者に払うお金がかかるんで、破格の値段で売りに出しているんですが、やっぱり買い手はつきませんねぇ…ちっ」


奴隷業者は苛立ったようにガンと檻を蹴った。


ビクッと中にいる、金髪の見目麗しいエルフが震える。


「このぐらい綺麗なエルフ族だと金貨500枚はくだらないはずなんですが…はぁ、病持ちとは使えないやつです。ねぇ、お客さんきいてくださいよ。このエルフ、金貨300枚で買ったんですよ?仮に売れたとしても、ほぼ丸損になる。ったくやってられないですよ」


何か、勝手に愚痴り始めた奴隷商人。


俺は檻の中のエルフの少女に目を向けた。


「…」


エルフの少女が、長い髪の間からじっとこちらを見た。


宝石のように美しい、青い瞳がじっと俺を見つめている。


俺にはその視線が、助けを求めているようにも見受けられた。


「あの…すみません」


「はい、なんですか?」


「買います、この娘」


「はい…?」


冗談だろ?とでも言わんばかりの奴隷商人に俺は再度言った。


「このエルフ、俺が買いますよ。金貨5枚でいいんですよね?」



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