第39話


「あれがアストリオか…」


目が覚めてから数時間。


俺はついに大都市アストリオへとたどり着いていた。


都市の周囲は、20メートルはあろうかという壁で囲まれていた。


入り口には見張りの兵士たちがいる。 


「止まれ。通行証を見せろ」


ウルガとともに入り口へ近づいていくと、見張りの兵士がそう言って前に立ち塞がった。


「通行証は持っていません。お金もないのですが…通行料の代わりとなりそうなものを持ってきました。見てもらえますか?」


ケノスさんから譲り受けた書物により、アストリオに入るには通行証または通行料が必要なことがわかっている。


また、通行料はアストリオの通貨で払う必要はなく、何か代替となる物品でもいいと書物には書かれてあった。


「見せてみろ」


兵士が催促する。


俺は亜空間から、この世界で価値のありそうなものを取り出した。


「おぉ…収納スキル持ちか…」


兵士が目を丸くして驚いている。


俺は彼に、石鹸や鏡、調味料などを渡した。


「これを通行料として受け取ってくれませんか?」


兵士は俺が差し出したものをマジマジと見つめる。


「おいみろ、この鏡…」


「こんなに大きく、綺麗な鏡を見たことがあるか…?」 


兵士たちが興味を示したのは、俺が自宅から持ってきた手鏡だった。


「この鏡であれば、通行料としては十分だ」


「そうですか。ではこれで」


取引成立。


鏡を渡すと、兵士たちが道を開けてくれる。


「あぁ、ちょっと待て。一応念のため、そのモンスターがテイム状態が確認させてもらうぞ」


兵士がウルガを指差しながらそう言った。


「どうぞ」


俺が頷くと兵士たちが何やら水晶のようなものを持ってきて、それを通してウルガを観察している。


「よし、ちゃんとテイム状態だな」


「通っていいぞ」 


「ありがとうございます」


どうやらあの水晶は、鑑定のための道具だったようだ。


収納と同様に、鑑定も珍しいスキルなのかもしれない。


ともあれ、俺はようやく大都市アストリオへと足を踏み入れたのだった。




「うわぁ…すげぇ…」


思わずそんな声が漏れた。


大都市アストリオに入ってきた瞬間目に入ってきたのは、密集する多くの建物。 


道の脇に所狭しと並んだ露天商。


そして、そこかしこを往来するたくさんの、人、人、人。


俺は思わず『人がゴミのようだ!』と叫びたくなる衝動に駆られてしまう。


「行くぞ、ウルガ」


『ワフッ!』


俺はウルガとともに、人々の行き交う大通りへと入っていく。


「安いよ安いよ!!」 


「新鮮な魚だよー!!」


「土産物がいっぱいだよ!!」 


「お得な雑貨だよ!!見ていきな!!」


路上には露天商の客呼びの声が充満している。


大都市アストリオは、地球のそれと比較しても劣らないほどの盛況ぶりを見せていた。


俺は少々、この世界の文明を甘く見ていたかもしれない。


…と、そんな時だ。


「ちょっと、そこのお兄さん。ひょっとして旅人じゃないかね?」


そんな風に話しかけてくる男がいた。


名前:アルト

種族:ヒューマン

職業:追い剥ぎ


レベル:9


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