第38話


「マジかよ…」


俺は自分の運の悪さを呪った。


オーガキング。


レベルもステータスも格上のモンスターに運悪くも遭遇してしまった。


戦う、もしくは逃げる。


俺の頭の中に二つの選択肢が浮かんだ。


通常であれば逃げる、が正しいのだろうが、敏捷の数値は無効のほうが上回っている。


背を見せて逃げても、背後から追い討ちをかけられるだけだ。


それなら戦うしかないだろう。


「やるぞ、ウルガ!!」


『ガウッ!!』


ウルガが一声鳴いて了解を示す。


『ガアアアアア!!!』


そうこうしているうちに、オーガ・キングが夜空を仰いで咆哮した。


ビリビリと辺りの空気が震える。


俺は鼓動が早くなっていくのを感じながらも、オーガ・キングに勝つ戦略を模索する。


正面から戦ってはダメだ。


ステータスが格上である以上、まともにやり合って勝てる道理はない。


なら、いかに姑息な手段に訴えるか、だ。


「ファイア・アロー!!」


先制攻撃に、俺は魔法を使った。


頭の中で炎の矢をイメージする。


想像通りのものが、出現した。


俺はその矢を、オーガ・キングの眼球に向かって飛ばす。


ザシュッ!


『ガアアアアア!!!』


「よしっ」


右目にヒット。


オーガ・キングが悲鳴をあげて、地面に膝をついた。


チャンスだ。


「うおおおお!!!」


俺は一気にたたみかけるべく、ミスリルの件とともにオーガ・キングに突撃する。


『…』


「…っ」


あと少しでミスリルの剣のリーチ内に入る。


そう思った時、オーガ・キングの口元がニヤリと歪められた。


左目に当てられていた手が、突如、俺に向かって振り下ろされる。


俺は自分が罠にかかったことを誘った。


おそらくオーガ・キングは俺の一撃がダメージになっている演技をして、俺を誘き寄せたのだ。


俺はオーガ・キングの策にまんまとハマったことになる。


「…っ」


避ける暇はない。


オーガ・キングの太い腕が眼前まで迫っている。


俺は目を閉じた。


『ギャインッ!!』 


悲鳴が上がった。


俺は瞼を開く。


体に痛みは感じない。


すぐ近くに、虫の息になったウルガが転がっていた。


俺の身代わりになってくれたのだと、悟った。


「ウルガっ!!」


『クゥウン…クゥウン…』


名前を呼ぶと、ウルガが弱々しく鳴いた。


即死ではなかったようだ。


「うおおおお!!!」


俺は覇気の声をあげる。


ウルガがつないでくれた命だ。


無駄にはしない。


俺は、魔法を使い、頭の中に数メートルはあるような巨大な剣をイメージした。


「うぅ…っ!」


体の中から何かがごっそりと抜けていくような気がしたが、今は構っていられない。


俺は魔法で作り上げた巨大な剣を、オーガ・きんぐにむかって投擲する。


『ギャアアアアアアア!!!』


つんざくような悲鳴が上がった。


体を串刺しにされたオーガ・キングが、断末魔の声をあげる。


その巨体は、しばらくビクビクと痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなった。


絶命してようだ。


「勝った…」


と同時に、体にドット疲れが襲ってきた。


俺は自分の体を支えることもままならなくなり、その場に倒れる。


だんだんと意識が薄れてきた。


これが魔力欠乏症というやつだろうか。


「せめて最後に…」


意識を失う寸前、俺は近くに横たわっているウルガに<回復>スキルを使った。




「ん…」


頬にざらざらとした感触を感じて、目を覚ました。


「うる、が…?」


『ワフッ!!』


ウルガが寝ている俺の頬をぺろぺろと舐めていた。


俺はゆっくりと体を起こす。


辺りは明るい。


気絶していた間に夜が明けたようだった。


魔力欠乏症は、最悪死ぬこともあると魔導書には書いてあったが、どうやら死なずに済んだようだ。


「ありがとな、ウルガ。命を救ってくれて」


『ワフッ!!』


あの時、ウルガがいなければ俺は間違いなくオーガ・キングから致命的な一発をもらい、死んでいただろう。


感謝を込めて頭を撫でてやると、ウルガはふりふりと尻尾を振った。


可愛いやつだ。


俺は立ち上がり、近くに残されたオーガ・キングの魔石を拾い上げた。


オーガ・キングの魔石×1


純度:80%


「おぉ…これは…」


80%というのは今まで手に入れた魔石の中で最高の純度だった。


すぐに換金してもよかったのだが、何かの役に立つかもしれないと考えて俺はそのまま魔石を収納する。


次に、俺は自分のステータスを確認した。


名前:西野壮平

種族:ヒューマン

職業:なし


レベル:102


攻撃:12000

体力:10500

防御:12100

敏捷:13900


「うわ、すげぇ…」


レベルが一気に30も上がっていた。


レベルが3桁の大台に乗っている。


またステータスの数値も軒並み10000を超えていた。


飛躍的なレベルアップだと言えるだろう。


「ウルガ。怪我は完治したか?」


『ワフッ!!』


ウルガが元気よく辺りを駆け回る。


この様子だと大丈夫そうだ。


俺は念のため、もう一度ウルガに回復スキルを使ってから、アストリオへ向けて歩みを再開させた。



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