第36話
「に、西野だっ」
「ひぃっ!?」
「西野!?」
ガタガタと音を立てて、俺の姿を見た生徒たちが立ち上がる。
昼休みの食堂。
定食の乗ったトレーを持って俺が空いている席を席を探し始めると、近くにいた生徒たちが途端に立ち上がって俺から離れていく。
「おいおい、どこにいくんだよ?」
「ひぃ!?」
「すみませんすみません!」
「その席どうぞ!」
「えぇ…」
皆ビクビクと俺を恐れて、席を譲り、どこかへと行ってしまった。
「…」
後に残された俺は、仕方なく腰を下ろして食べ始める。
これではまるで、俺が席を奪ったみたいじゃないか。
「おい聞いたか?西野のやつ、あの鮫島をボコボコにしたらしいぞ」
「まじで?」
「ああ。目撃者がたくさんいるから間違いねぇ。聞いたところだと、鮫島の方から喧嘩ふっかけたらしいんだが、手も足も出なかったみたいだぞ」
「強すぎだろ西野…」
「怖いよな…この間裏掲示板にあがってた動画もやばかったしよ」
「やっぱあれ、ヤラセじゃなかったんだな…俺西野に近づかないようにしよ」
「俺もだ。目つけられたら怖いからな」
俺が定食を食べていると、あちこちからヒソヒソとそんな噂話が聞こえてきた。
「はぁ…」
俺は思わず重苦しいため息を吐く。
このままだとまずい。
別に自分から喧嘩を売って歩いているわけでもないのに、西野=怖いやつというイメージが定着しつつある。
なんとかしなければ。
いや、今更手遅れか。
「あ、先輩。隣空いてます?」
そんな俺に声をかけてくる人物が。
振り返らずともわかる。
「よお、真山。空いてるぞ」
「そうですか。じゃあ、失礼しますね」
俺と同じく、定食の乗ったトレイを持った真山が、隣に腰を下ろした。
「なんで先輩の周りだけ空いてるんです?」
真山は周囲を見渡しながらいった。
食堂はいつものようにほぼ満員の状態だったが、俺の周りだけなぜか不自然に空席だった。
「みんな、俺が怖いんださ」
俺は先ほど、空席をさがしていたら元々座っていた生徒たちが逃げ出したのを、真山に話した。
「あははっ。何それ、面白いです」
真山はくすくす笑っている。
「全然面白くねーよ」
俺は白米を口に運びながらぼやいた。
「にしても、先輩、本当に強いですね。あの鮫島をああも簡単にやっつけちゃうなんて」
「レベル上げしてるからな。身体能力は日に日に上がってる」
「今の先輩なら、格闘技の大会とかに出たら結構いいところまでいけるんじゃ無いですか?」
「多分、冗談抜きで行けると思うぞ。まぁ、やらねーけど」
「えー、もったいない。せっかくの俺つええ展開なんだから楽しんだらいいのに」
「あのなぁ…そんなことしたら、何があるかわからないだろ。もしかしたら政府に拘束されて実験台にされるかもしれないだろ」
「あー…なんかありそうです。先輩の人外がバレたら黒服のサングラスの人達とかに捕まっちゃいそうです」
「いや、俺は人外じゃ無いからな?」
そんなバカっぽい会話をしながら、俺たちは昼食を取る。
「先輩。それであの…次の三連休に異世界に行きたいって話なんですけど…」
「あー…そういやそうだったな」
今朝、真山は俺に、次の三連休に俺に異世界に連れて行って欲しいと頼み込んできた。
だが、俺はその三連休を利用して、大都市アストリオに出向こうと思っていた。
道中、どんな危険があるかわからないため、真山は連れていくことが出来ない。
「すまん、真山。実は次の三連休はな…」
俺は真山に自分の計画を話した。
「そうですか…残念です、それじゃあ、またの機会に…」
しょんぼりとする真山。
俺はなんだか申し訳なくなってきた。
「すまんな、真山。必ず埋め合わせはするから」
「むー、約束ですよ?嘘だったら、異世界のこと、みんなに言いふらします」
「わ、わかってるって…?まぁ、他人に言ってもそうそう信じないだろうが」
十中八九、厨二病患者扱いされて終わりだろう。
俺の話をすんなり信じた真山が異常だったのだ。
「さあ、それはどうでしょう?クラスにも何人か、異世界もののラノベ読んでるオタクの子はいますし、その子に言えば案外信じるかもしませんよ?」
「…っ」
真山の目はマジだった。
約束を破った場合、私はなんでもやる。
そんな決意が、伝わってくる。
「約束は守るよ」
「はい。ではお待ちしていますね」
真山は納得したようにそう言って、昼食を食べ出した。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
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