第35話
「よお、お前がニシノか?」
身長が180センチぐらいあるその男が、俺のことを見下ろしている。
「さ、鮫島先輩…」
隣で真山が震え声を出した。
鮫島透。
この学校に通う生徒で、その名を知らない生徒はいない。
現在3年の先輩であり、非常に素行が悪いとして有名だ。
好き勝手に授業をサボったり、トイレでタバコを吸ったり、髪を金髪に染めたり。
薬物に手を出しているなんて噂もある。
普通ならこんな生徒、退学になってもおかしくないのだが、タチの悪いことに、鮫島の親は近くに本部のある大規模ヤクザの幹部であり、教師陣も積極的に鮫島に関わろうとはしない。
鮫島がどんなに問題を起こしても、触らぬ神に祟りなしと、注意することもないのだ。
要するにこの学校で一番危険な存在。
そんなやつに、今現在、俺は絡まれている。
「何か用ですか?」
俺は見下ろしてくる鮫島を見返しながら言った。
「お前、強いんだろ?」
鮫島が不敵に笑う。
「さあ、どうなんでしょう」
「はっ。惚けんなよ。見たぜ、動画。なかなか痺れるじゃねぇか。それともあれはヤラセか?」
「…」
一体何が目的なのだろうか。
遅刻したくない俺はさっさと教室へ向かいたいのだが、鮫島は通してくれそうもない。
「おいみろあれ…」
「西野が鮫島に絡まれてるぞ…」
「うわー…あいつめっちゃ運悪いな…」
「御愁傷様って感じだな…」
周囲がザワザワとし始めた。
互いに睨み合いながら向かい合う俺と鮫島の周囲を取り囲み始める。
「あの、通してもらえませんか?」
「俺とタイマンはれや」
「嫌です」
「逃さねえよ?」
「…」
話を聞いてくれる雰囲気ではない。
さて、どうしたものかと俺が悩んでいると。
「おらぁ!」
鮫島がいきなり殴りかかってきた。
顔面に迫る右ストレート。
俺は左手でパシッとキャッチする。
「なっ!?」
鮫島が驚愕に目を見開く。
受け止められるとは思ってもいなかったんだろう。
「くそっ!!死ねやあああ!!」
がむしゃらに、パンチの連打を放ってくる。
常人にしては早いパンチなんだろうが、レベルが上がって動体視力が上昇している俺には簡単に見切ることができた。
俺は拳を全て避けた後、反撃に出た。
「ほい」
鮫島の股を蹴り上げる。
「ぐおおおお!?」
金的。
鮫島が悲鳴をあげて、膝をついた。
股間を両手で押さえたまま、プルプルと震えている。
しばらく動くことはできそうも無い。
「よし、行くか」
「え、…あ、はいっ!」
我に帰ったような真山を連れて、俺は校舎へと入っていく。
「す、すげぇ…鮫島をあんなに簡単に…」
「パンチ全部避けるとか…どんな反射神経だよ…」
「強すぎだろあいつ…ボクシングでもやってたのか…?」
去り際、周囲の生徒たちのそんな呟きが聞こえてきた。
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