第26話


「ママぁあああ!!」


「えり子っ!!」


それから15分後。


<探索>スキルのナビの通りに道を進んでいったところ、無事に恵理子の母親を見つけることに成功した。


母親の姿を見るなり、俺らの元を離れて駆け出していくえり子。


そんな彼女を、しゃがんだ母親が優しく抱き止めていた。


俺たちは、しばし微笑ましい光景を眺める。


「あなた方がえり子を連れてきてくれたのですか?」


やがて恵理子の母親が近づいてくる。


俺と真山は、彼女に泣いている恵理子を見つけて保護者探しをしていたことを伝えた。


すると、母親は深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございます。助かりました」


「いえいえ」


「無事に見つかって良かったです」


「はぁ…本当にもう…あの子ったら、ちょっと目を離した隙にすぐいなくなっちゃうんですから…けど、無事で良かった…私、もしかしたら攫われちゃったんじゃないかって思ったりもして…」


心底安堵したと言ったように胸を撫で下ろす恵理子ママ。


「うふふ。お転婆で可愛らしいお子さんですね」


真山が笑いながらそんなことを言った。


その後、母親は俺たちに何度も何度もお礼を言ってきた。


挙げ句の果てには、夕食をご馳走するからよければ家に来ないかとまで言い出した。


流石に了承するわけにはいかず、俺たちは丁重にお断りさせていただいた。


「それじゃあ、俺たちはこれで」


「はい。この度は本当にありがとうございました」


別れ際、何度目かわからないお礼を言ってくる恵理子ママ。


また、とうの恵理子は、ケロッとした顔で俺たちに手を振っている。


「またね、お兄ちゃんお姉ちゃん。ばいばーい!!」


「またねー、えり子ちゃん」


真山が笑顔で手を振り返す。


俺も二人に向かって軽く会釈をした。


そうしてえり子を無事に母親の元へ返した俺たちは、その場を後にして帰路についたのだった。




「それじゃあ、また明日な。真山」


「はい?何言ってるんですか先輩。まだ私、帰りませんよ?」


「いや、帰れよ。帰ってくれよ」


「嫌です。さっきのことがあってから余計に帰れなくなりました」


恵理子と恵理子ママの二人と別れてからしばらく。


俺は相変わらずついてくる真山を半ば強引に帰らせようと試みる。


だが、真山は頑なに帰ろうとしなかった。


なかなか頑固な後輩だ。


「さっきのこと?」


「えり子ちゃんのママの場所、どうしてわかったんですか?それから、えり子ちゃんの苗字も当てましたよね?」


「あぁ…」


そういえばまだ説明してなかったな。


俺は真山になんというべきか、考える。


まさか馬鹿正直に俺にはゲームのようなスキルがあって、それを使って母親の場所を突き止めたんだ、なんていうわけにもいかない。


十中八九、頭おかしいやつ扱いされて終わってしまう。


だが、他に上手い説明が…


いや、待てよ。


むしろこの場合、嘘をつかずにありのままのことを話したほうがいいんじゃないか?


素直に、異世界やモンスターやスキルの話を真山にするのだ。


そしたら、真山はきっと俺を痛い奴と認識して離れていくだろう。


目立ちたくない俺にとって、これは好都合だ。


なぜか俺に執着してくる真山がもう近寄って来なければ、俺の孤独で平穏な日々が戻ってくる。


うん、よし。


この作戦で行こう。


「なぁ、真山。実はえり子の母親の居場所がわかったカラクリなんだがな」


「はい、なんですなんです?」


身を乗り出してくる真山。


俺は彼女の興味を引くようにたっぷりを間を持ってから、答えた。


「実は<探索>スキルのおかげなんだ」


「は?探索スキル?」


頭おかしいのかこいつ。


そんな表情で俺を見つめる真山。


よし、思惑通りだ。


俺はそのまま、真山に自分の家に異世界への入り口が見つかったことや、エナジードリンクが異世界ではレベルアップポーションに化ける話や、ニーナやアルドラの話や、この間テイムしたブラック・ウルフの話をした。


「…とまぁ、そういうわけだ。わかったか?」


「…」


全てを聞いた真山は、無言でじっと俺をみていた。


きっと俺の正気を疑っているのだろう。


そりゃそうだ。


いきなりこんな突拍子もない話を信じろったって無理は話。


きっと今に、「先輩ってすっごく痛い人だったんですね」と言って自分の家に向かうはずだ。


そう思っていたのだが…



「なるほど。それなら辻褄が合いますね」


「あれっ!?」


なんとあろうことか。


真山はそんなことを言って納得してしまった。


「そうですかそうですか。先輩の家に異世界への入り口ですか。なんかラノベみたいで一見嘘くさいですけど、でも信用しますよ」


「信用されちゃったんだけど!?」


俺は大声で突っ込まずにはいられなかった。


なんなの、この後輩のキャパシティというか飲み込みの速さというか察しの良さというか。


常人のそれじゃないんだが…


「であれば尚更先輩の家にいく必要がありますね。私も異世界に行ってみたいです」


そしてあろうことか。


真山は俺に向かってそんなことを言ってきたのだった。

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