第25話


「あの子か」


今朝知り合った後輩、真山と帰路を歩いていると、泣いている子供を発見した。


「うぇええええん、お母さーん!!」


5、6歳ぐらいの女の子。


道の脇にしゃがみ込んで、大声で泣きじゃくっている。


「保護者と逸れたのでしょうか?」


「そう見えるな」


流石に放っておけず、俺と真山はその女の子の元へ向かう。


「おーい、大丈夫かい?」


「大丈夫ぅ?お母さんとはぐれちゃったの?」


二人でしゃがみ込んで目線を合わせ、女の子に尋ねる。


「ひぃっ」


女の子が、近づいてきた俺たちをみて引き攣った声を出した。


突然知らない人に話しかけられたら、そりゃ怖いよな。


俺はこういう時に役立つ特技の疲労することにした。


「ほら、こっちみて〜?ベロベロバー!!」


寄り目を作り、自ら頬をつねって、舌を出す。


いわゆる変顔というやつである。


たまに遊びにくる親戚の子にやってあげると非常に喜ぶ。


同じ手がこの子にも通用すると考えたのだ。


「ぶふっ」


笑い声を上げたのは真山だった。


肩を震わせて爆笑している。



「おい、お前は笑うなよ」


とはいえ、俺の変顔で女の子は幾分か警戒心を解いたようだ。


顔を上げて、俺たちをじっと見ている。


俺は精一杯優しげに話しかけた。


「お母さんとはぐれちゃったの?」


「…そう」


「そっか。じゃあ、お兄さんお姉さんと一緒に探そう?」


「いいの…?」


「もちろん」


俺が頷くと、女の子はしばらく逡巡するような仕草を見せるが、やがて…


「お願いしますっ」


ぺこっと頭を下げた。


「おおー。この歳にしてこの礼儀正しさ。将来有望ですね!」


真山がそんな風に褒める。


俺も思わず感心してしまった。


「じゃあ、行こうか?」


手を差し伸べると、女の子の小さな手が人差し指を握ってきた。


「じゃあ、私はこっち」


真山が女の子のもう一方の手を握る。


そうして俺たちは、女の子を間に挟んで、保護者探しを始めたのだった。




「お名前はなんていうのー?」


道を歩いている間、不安がらないようにか、真山は絶えず女の子に話しかけていた。


「えーっとねっ、えり子はね、えり子っていうのー」


「えり子ちゃんかぁ。可愛い名前だねー」


「そお?むふふ〜」


「…っ!?なんですかこの可愛い生き物…」


名前を褒められて喜ぶえり子。


真山は無邪気な笑顔に、完全に心を奪われていた。


「えり子ちゃん。お母さんとはどの辺で逸れたか覚えてない?」


「わかんなーい」


「そっかぁ。でも大丈夫だからね?必ずお母さん見つけてあげるから」


「うん!ありがとう!」


幼子をあやすのがうまい真山。


えり子はあっという間に元気を取り戻し、俺たちの手を引っ張りながらスキップを始めた。


俺も真山も微笑ましく見守る。


「しかし、何も手がかりがないんじゃなぁ…」


えり子の話し相手は真山に任せて、俺は母親を見つける方法を考えていた。


えり子は母親とはぐれた場所は覚えていないという。


しかし、少し前まで母親と一緒にいたことは確かで、向こうもえり子を探しているはずだ。


とりあえず周囲を一通り歩いてみて、もし見つからないのであれば、最悪交番に行こう。


そんなことを考えていた矢先のこと。



パンパカパーン!!


<探索>スキルを獲得しました!


「はい…?」


毎度のファンファーレの後、新たなスキルを獲得してしまった。


「どうかしました、先輩?」


「ああ、いや。なんでもないんだ」


首を傾げる真山に曖昧に笑って、俺はウィンドウを確認する。


捜索対象:東雲恵理子の母親


<探索>スキルを使用しますか?


YES or NO


「まさか…」


このタイミングでの<探索>スキル。


そして、捜索対象となっている『東雲恵理子』という名前。


「なぁ、えり子」


「なぁに、お兄ちゃん」


俺はまさかとは思いつつも、えり子に尋ねる。


「えり子の苗字。当ててみてもいいかな?」


「えー、無理だよぉ…」 


「東雲、とかじゃないか?」


「ふわあああああ!!すごいっ!」


えり子が目を輝かせる。


俺は自分の予想が正しかったことを知る。


「どうやったの?ねぇ!どうやったの!?今日名札もつけてないのにっ」


えり子はすっかり興奮気味だ。


「うーん、秘密」


「えーっ、ケチっ」


へこたれるえり子に笑いかけながら、俺はYESの選択肢を選ぶ。


するとウィンドウにナビのようなものが表示され始めた。


『この先の角を左です』


頭の中に、そんな機械音声が流れる。


「よし、ここを左に曲がってみよう」


「えっ、なんでです?」


突然の俺の指示に、真山が首を傾げる。


「なんとなくそんな気がするんだ」


「いや、なんですかそれ」


真山は訝しむような表情になる。


まぁ、そうなるよな。


だが、今は説明してられない。


「というか先輩、どうしてえり子ちゃんの苗字がわかったんですか」


「まとめて後で教えてやる」


俺はえり子に聞こえないように真山に耳打ちした。


そしてナビの通りに道を進んでいくのだった。


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