第24話


「定期テストが近づいてきてるから、お前ら遊び呆けてないで今から勉強しとけよー。そんじゃまたなー」


担任がゆるい感じでホームルームを締めくくった。


号令の後、生徒たちは、部活生は部活へ、帰宅部は家へとそれぞれ動き出す。


そんな中、にわかに教室の入り口がざわめき始めた。


「わぁあ、見てあの子。可愛い…」


「同じ学年の子じゃないよね?」


「あれ?今朝の子じゃない?」


「西野と一緒にいた?」


「キョロキョロしてるけど、誰か探しているのかな?」


教科書をカバンに詰めていた俺は、嫌な予感がして教室の入り口を見た。


「あっ、先輩っ」

「…」


今朝の真山と視線があった。


俺と目があうと、嬉しげに駆け寄ってくる。


御礼にくると言っていたが、まさかこんなにも早いとは。



「もう御礼にきたのか?」


「はい?御礼?」


「今朝そう言ったろ?」


「あー。それはまた後日です」


「じゃあ、何しにきたんだよ」


「何って、お迎えですよ先輩」


「いや、なんでお迎えなんだ」


「一緒に帰りましょう?」


「はぁ?」


訳がわからず俺は真山を見るが、真山は当然でしょうと言わんばかりの表情だ。


「…まぁいい。とりあえず教室を出よう」


「どうしてです?」 


「察しろ。あまり注目されたくないんだよ」


気づけば、教室中の視線がこちらへと向かっていた。


俺は手早く帰り支度を済ませて、真山の手を引いてひとまずその場から退散した。





「なぁ、真山」


「なんでしょう、先輩」


「いつまでついてくるんだよ」


「先輩の家までです」


「いや、だから、なんでだよ」


俺は隣にいる真山に突っ込んでいた。


今現在。


俺は真山とともに帰り道を歩いている。


なぜか真山は、いつまで経っても俺からついて離れず、このままいくと家までついてきそうだった。


「ダメなんですか?」


「ダメというか…ついてくる理由がないだろ」


「理由はあります」


「どんなだ?」


「先輩の家を知っておかないと、次から訪ねてこれないじゃないですか」


「いや、なんでお前が俺の家に訪ねてくるんだよ」


そう突っ込むと、真山が途端にもじもじし始めた。


「そ、それ聞いちゃいます…?」


「は…?」


俺は真山の不可思議な反応に首を傾げる。


今朝からこいつの真意が全くわからん。


やたらと距離が近いが、何が目的なのだろうか。


後輩が出来たのは嬉しいのだが…距離の詰めかたが尋常じゃない。


「あ、それとも二人で私の家行きます?」


「いやいや、なんでだよ!」


口を開けば次々と意味不明なことを言い出す真山。


俺一人だとツッコミが追いつきそうもない。


「今日、私の家、両親が出張でいないんですよ」


「はぁ…?」


「まぁ、妹はいるんですけど…9時には寝ますし、眠りは深い方なのでちょっとやそっとの音じゃ起きません」


「お前はさっきから何を言ってるんだ?」


俺はいい加減頭を抱えてしまいそうだった。


「もー…先輩ったら」


「えぇ…」


首を傾げていたら、小突かれてしまった。


わからん。


こいつが何を言っているのかも何がしたいのかもさっぱりわからん。



「うぇええええん…おかあさーん…」


「「…?」」


幼子の鳴き声が聞こえてきたのはそんな時だった。


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