第23話
「あ、その…えーっと…」
絡まれていた女子は、ちょっと混乱しているようだった。
「助けてくれた…んですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「あ、あの人たちと知り合い、なんですか?」
「知り合いというか…まぁちょっとした因縁がある程度だ」
「あ、そうなんですね…」
何かを察した感じの表情になる。
そこ子がそれ以上踏み込んでこなかったのは、俺にとってもありがたかった。
「あ、あの…助けていただいてありがとうございます」
礼儀正しくも、ペコリと頭を下げる女子。
「私、一年の真山と言います。真山由紀子です」
「俺は2年の西野だ。西野壮平」
「西野壮平…、あ、あの、西野先輩って呼んでもいいでしょうか?」
「…お、おう。いいぜ」
先輩なんて敬称で呼ばれたのが初めてだったために、俺はちょっと動揺してしまう。
「助けてくれて嬉しかったです西野先輩。他にも何人か、うちの生徒が通ったんですが…みんな見て見ぬふりを…」
「あー…そう」
まぁ、あの不良たち、見た目だけはやたらと怖いからな。
間に割って入るのには相当勇気がいるのだろう。
「まー、無事ならいいや。じゃ、俺はこれで…」
「待ってくださいっ、西野先輩!」
「!?」
歩き出そうとすると、制服の裾を掴まれた。
「ぜひクラスを教えてください」
「クラス…?なぜに?」
「はい。後日御礼をしに行きたいので」
「いや、お礼なんて別に」
「いえっ。お願いします。私の気が済まないんです!」
ずいっと真山が身を寄せてくる。
俺は至近距離で改めて、真山の容姿を確かめた。
「…」
今の今まで気づかなかったが、真山は相当な美人だった。
プロポーションも抜群で、後輩だが大人っぽい魅力がある。
俺の心臓が若干早まり出した。
「び、B組だ」
目を合わせていられなくなった俺は、明後日の方向を見ながら答えた。
「B組ですね。わかりました。では、後日、必ずお伺いしますね?」
「別に必ずは来なくても…」
「いーえ。必ず行きます!」
断言する真山。
「お、おう。わかったよ」
圧に屈して俺は頷いた。
「はい」
にこっと魅力的な笑みを浮かべる真山。
「それじゃあ、先輩。行きましょうか」
「行くってどこへ…?」
「学校ですよ学校」
「え、一緒に?」
「はい、一緒にです。どうせ道同じなんだからいいでしょう?」
「…わかった」
なんだろうこの距離感の近さ。
俺はぐっと距離を詰めてくる真山に戸惑いながらも、一緒に通学路を歩いた。
道中、真山は俺にいろんな質問をぶつけてきた。
「先輩って部活とかやってます?」
「特には」
「そうですか。私もやってないので一緒ですね」
「…そうだな」
「先輩って兄弟とかいます?」
「一人っ子だ」
「なるほど。私は妹が一人います。小学六年生です」
「…そうなんだな」
「じゃあ、先輩は彼女はいるんですか?」
「か、彼女!?」
「はい。彼女です。お付き合いしている女性です」
「えーっと…い、いないです、はい」
なんだろう。
初対面からこんな質問の嵐。
最近の若者の距離の詰め方って、こんな感じなんだろうか。
いや、俺も高校生だけどさ。
「いないんですか!それは朗報です」
「いや、なんでだよ」
思わず突っ込んでいた。
真山は取り合わず、言葉を続ける。
「私も彼氏いないです。一緒ですね」
「へえ、いないのか」
ちょっと驚いた。
真山の容姿なら、作ろうと思えば一瞬で彼氏なんて出来るだろうに。
「じゃあ、じゃあ、先輩」
「なんだよ」
「女性の好みとか、教えてもらえます?」
「好みぃ?うーん…」
女性の好みか。
考えたこともなかったな。
なんて答えればいいだろう?
あんまりニッチな趣味を暴露して引かれたくないし、無難なので行くか。
「髪が長いとか、かな」
「髪が長い…なるほど。それってどのぐらいの長さです?」
「どのぐらい…うーん、肩につくぐらいか」
「うーん…それじゃあ、ちょっと足りませんね」
自分の毛先をいじりながら真山が言った。
真山の髪は、短くはないものの、肩に届くほど長くはなかった。
「いや、あくまで俺の好みだからな?男性一般の話をしてるわけじゃないぞ?」
「もちろんです」
「…?」
そんな会話をしながら、俺たちは校舎の中へ入り、クラスへ向かって廊下を歩く。
「あのー、真山?」
「なんですか?」
「もう着いてこなくていいぞ?」
「いいえ、どうせなら先輩のクラスまで行きたいです」
なぜか俺の教室まで着いてこようとする真山。
一年の教室は別方向だった。
「なんでだよ。早く教室に向かわないと遅刻するぞ」
「まだ5分あります。余裕です」
「…」
この後輩、意外と頑固だ。
結局、真山は2年B組の教室までついてきた。
「わぁ、見てあの子。すっごい可愛い…」
「本当だ…スタイルすごーい…羨ましいなぁ…」
「おいみろ…西野のやつがなんか可愛い女連れてるぞ…」
「うちの学年じゃないな?一年かな?」
「めっちゃ可愛いー…目の保養になるわぁ」
「西野の彼女か?そうだとしたら羨ましすぎるんだが」
美人な真山が教室へ足を踏み入れたことで、ざわめきが広がる。
「おい、真山。そろそろいいだろ。噂になるから、早く自分の教室に向かってくれ」
「むー。わかりましたよ」
俺が頼むと、真山は若干不満そうにしながらも、教室を出て行った。
「はぁ…一回助けたぐらいでこんなに懐かれるかね、普通」
俺は自分の席に腰を下ろしてため息を吐いた。
これで真山が俺の彼女だなんて噂になったら、また面倒なことになる。
しかし、まぁ、後輩が出来るというのは初めての経験で悪くはなかったとも思うのだった。
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