第16話


校内に鐘が鳴り響き、昼休みがやって来た。


俺は昼食を調達するべく、購買部へと向かう。


途中、すれ違う生徒たちからこちらに視線が向けられている事に気づいた。


「ん…?」


てっきり例の嘘告の件で陰口でも叩かれているのかと思ったのだが、どうも違うらしい。


皆、俺に道を譲ったり、目があうと、さっと逸らして小走りに逃げたりしてしまう。


「あれ?なんか怖がられてる…?」


首を傾げながら、俺は購買部へと向かった。


「カツサンド一個!!」


「ツナおにぎり一つとパフェひとつ!!」


「お茶ください!!」


いつもながらに購買部では昼飯争奪戦が起きていた。


俺はその最後尾に並んで、じっと前の集団が捌けるのを舞っていた。


俺のいつものスタイルは、ある程度生徒たちが減るのをまって余り物を漁る、というものだった。


この集団の中に突っ込んでいって、自分の好きな物を買う気力は俺にはない。


「あっ、西野さんだ…!」


誰かが呟いた。


「えっ?」

「西野さん…?」


その瞬間、購買部のおばちゃんへと向かって手を伸ばしていた生徒たちが全員動きを止めて、こちらへと視線を向けた。


「え、何…?」


俺が首を傾げる中、生徒たちがささーっと動いて俺に道を譲った。


「お先にどうぞ、西野さん」

「ど、どうぞ〜」

「居るなら言ってくださいよ、西野さん」


「は…?」


なんだこれ。

俺がさきに買っていいって事なのか?

いつもの勢いはどうした、お前ら。


「あ、あのー、カツサンドひとつください」


「あいよ」


なぜいきなり順番を譲られたのかよくわからんが、とりあえず俺は人気メニューの一つであるカツサンドを購入してその場を離れた。


教室に戻って自分の席でカツサンドを食べながら、スマホで学校の裏掲示板にアクセスする。


なんとなくここに原因があるような気がした。


「うわ、これじゃん…」


早速見つけた。


今朝、ある一つの動画のURLが貼り付けられている。


それをクリックすると、全世界的に有名な動画投稿サイトに飛ばされた。


そこで、今朝の俺と不良たちとの喧嘩が、ばっちり撮影されていたのだ。


「うわ…すでに十万回再生されてるじゃん…」


なんと、その動画はこの学校の生徒のみならず、学外の一般人の間にまで広まってしまったらしい。


たくさん寄せられたコメントの中には、「この高校生強えええええ!!」とか、「殴って人を吹き飛ばすとか漫画かよ!」と言ったコメントが載せられている。


なるほど。


皆が俺を避け始めたのはこれが原因か。


うーん…嘘告のイメージが完全に払拭されたのは喜ばしいが、ここまで拡散されると、教師陣に目をつけられないか心配だな。


そんなことを考えながらカツサンドを食べ終わる頃には、昼休みが終了していた。






午後一発目の授業は英語だった。


「今日は抜き打ちテストをやるぞ〜。お前ら教科書類片付けろ〜」


「「「えええ〜」」」


教室に入ってくるなり、そんなことを宣言する英語教師。


生徒たちから不満の声が上がる。


かくゆう俺も、やだなぁ、と思っていた。


なぜなら俺は英語が苦手だからだ。


英文を読んでいると気分が悪くなる。


定期テストの点数は、いつも赤点スレスレだった。


「点数は評定にも響くからなぁ。真剣に解けよ〜」


テスト用紙がクラス全体に行き渡り、教師の「はじめっ!」という合図でテストが開始された。


「う…」


俺はペンを持ってテスト用紙に向かったのだが、ずらりと並んだ英語の長文を見て、早速気分が悪くなってきた。


1分ぐらいの時間をかけて、最初の三文ぐらいを読んでみたが、全然意味がわからない。


早くもげんなりして諦めかけていた、その時だった。



パンパカパーン!!


<解読>スキルを獲得しました!!


頭の中でファンファーレが鳴り響く。


「まさか…」


嫌な予感がした俺は、英文をもう一度初めから読んでみる。


すると…


「よ、読める…」


何と、あれほど毛嫌いしていた英文がすらすらと読み解けてしまった。


まるで日本語を読んでいるかのように、なんの抵抗もなく内容が頭に入ってくる。


結果、俺は抜き打ちテストをものの15分程度で解き終わってしまった。


「まじかよ…」


俺は全ての欄が埋まった自分の解答用紙を見て、小さく呟いた。


そして、その三日後。


俺はクラスで唯一の抜き打ちテスト全問正解者として、英語教師に褒められ、クラス中から羨望の眼差しを向けられるのだった。


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